(解説)バチカンと中国、どうなる「ソフトパワー」vs「ハードパワー」新時代(Crux)

(2020.2.16 Crux Editor John L. Allen Jr. )

  ローマ-世界各国の政府首脳、閣僚が参加してミュンヘンで開かれていた安全保障会議が16日で閉幕したが、会議に出席中のバチカンのポール・ギャラガー外務局長と中国の王毅外相が14日に会談。中国に共産党政権が樹立されて以来、最も高いレベルの政府関係者の直接的な出会いとなった。

*閣僚級会談は70年ぶり

 この会談は、1951年に最後の北京駐在バチカン大使だったアントニオ・リベリ師(後に枢機卿に就任)が中国本土から追放されて約70年後に行われた。追放は、彼が中国共産党の中国のカトリック教会の自主性に否定的な姿勢をしたためで、に批判的な姿勢をとったことによるもの。後にリべり師「いかなる”独立カトリック教会”も、単なる”分裂教会”だ。”真に一つのカトリック教会”ではない」と批判していた。

 会談の内容としてバチカン広報はわずかな事実を説明したに過ぎなかったが、二人は一昨年秋の中国国内の司教任命に関する暫定合意以来の動きと新型コロナウイルスと戦う努力について、意見を交わした。声明では、両者は「世界における市民の共存と平和に国際協力が進むこと」に期待を表明した、としている。

 教皇フランシスコは12日の一般謁見で、新型コロナウイルスに侵された人々の為に祈るとともに、中国国民に親愛を表明、また謁見に参加した人々に、残酷な伝染病に侵された中国の兄弟姉妹の為に祈るよう求めていた。

*バチカンの”前傾姿勢”-批判の先頭に立つ陳枢機卿を、米下院議長が表彰

 正直に言って、14日の両者の会談の中身は、「会談した」ということほど重要ではない。重要なのは、ローマと北京の完全な外交関係復活に向けた更なる一歩を、この会談で印した、ということなのだ。

 一昨年秋の暫定合意で明らかになった中国との関係を正常化に向けたバチカンの姿勢は、物議を醸している。

 元香港教区長の陳日君・枢機卿ー中国における人権と信教の自由を守ろうとする不断の努力が評価され、中国の人権活動家・魏京生氏を記念して作られた中国・民主主義チャンピオン賞を、米議会下院のナンシー・ペロシ議長から授与されたーは、何十年もバチカンに忠誠を誓い、血の犠牲を払ってきた何世代もの中国カトリック信徒たちを、バチカンが中国共産党・政府の支配に委ねようとしていることに反対している。

 陳枢機卿はじめ何人もの関係者が訴えているのは、「司教候補の選別に当たって中国共産党・政府に重要な役割を与えた」と伝えられる(内容がいまだに公表されない)暫定合意が一昨年秋になされてい以来、カトリック教徒や他の信仰を持つ少数派に対する弾圧が厳しさを増している、ということだ。

*だが、バチカンには関係復活の意義への思い込み

 それにもかかわらず、教皇パウロ六世以来、「中国との関係復活のためなら、ほとんど何でもする」というのが、バチカンの一貫した政策であり、中国における正常なカトリック教会の活動を育成し、世界情勢の中で良心の声としてのバチカンの広範な外交上の役割を果たすために必要だという、思い込みがある。

 米国の政治学者ジョセフ・ナイ教授によって有名になった言葉に「ソフト・パワー」があるが、バチカンは、ほぼ間違いなく世界の卓越した「ソフトパワー」だ。つまり、政治的、経済的、軍事的な力ではなく、外交、文化、歴史の力により頼む世界的な”役者”なのである。それはまた、主権国家としての地位を享受し、独自の外交団を世界中に配置する世界的な宗教団体であり、教皇はーいかなる教皇もーこの地球上の精神的指導者の中で最も強力な傑出した”公権力”の持ち主だということは、ほとんど疑問の余地がない。

 対する中国は、すでに地球上で最大の「ハードパワー」として米国に対抗する存在になっており、一部の評論家は「中国の世紀」という言葉で「21世紀は中国の優勢を目の当たりにする運命にある」という考えを示しているー何人かは、それを率直な予測として、他の人々は、米国と西側を駆り立てるための警鐘として。

 このような現実を考えると、バチカンは、”異端”と言われる教皇フランシスコの登場のずっと前から、何十年にもわたって、「中国との正常な外交関係復活」を外交活動の summum bonum(最高善)と見なしてきた。それは、中国の信徒たちが公の場で、日常的な信仰生活を営むことができることで利益を受けるだけでなく、バチカンが徐々に中国共産党・政府を国際社会の中でもっと建設的な役割を果たせるようにできるだろう、という”確信”によっている。

*確信が揺らぐ西欧の指導者たちの中で、バチカンの”確信”は…

 もしも、これが(世間知らずの)純朴な考えのように聞こえるなら、恐らく、その通りだ。それでも、他の西欧の”役者”たちの中で、誰が確固たる信念を持って、芝居を演じているのだろうか。トランプ米大統領が、新たな貿易協定にもかかわらず、中国に対する敵意を見せ続ける一方で、英国はEC(欧州共同体)からの離脱に夢中になっており、フランスは政治的スキャンダルに支配され、ドイツはメルケル首相時代の終盤を迎え少なくとも1年は政治的混乱が続く。イタリアは、まあ… いつもの”イタリア”だ。

 バチカンの診断は、特に今では、こういうことだろうー継続的な外交関係の枠組みの中で、中国を国際社会に関与させる立場をとることが、長い目で物事を見ることのできる安定した関係にとって重要だ。-良し悪しはどうであろうと、それが、長い間、バチカン外交を動かしてきた”信念”であり、現在もそれは変わらない。

 結論として言えること。それは、14日のバチカンの高位聖職者と中国の高位官僚のポートレートに、ぐるっと一回りして終わるようなメージはなく、ソフトパワーとハードパワーの関係の新時代を予兆しているように見えることだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年2月16日