論考”シノドスの旅”2「多くの国の司教団は、いまだに全信徒の話し合いに消極的」

(2021.6.27 La Croix   John O’Loughlin Kennedy | Ireland) 

 多くの国の司教たちは、いまだにすべての人々の間で議論することに消極的であり、そのテーマについても注意深く制限を加えようとしている。前回の論考では、教皇フランシスコが教会刷新のために構想した「synodality (協働制)」について概説した。 「協働制」の特筆すべき点は、神の民のあらゆるレベルで開かれた対話を進め、全ての人が互いに意見を交換し、検討を加えることにある。教皇のこの構想に対する世界各国の司教団の反応は出始めたばかりだが、すでに、理論と現実の違いが現れ始めている。

【ドイツ】

 ドイツでは、教皇の”シノドスの旅”発表以前から、”シノドスの道”が始まっているが、それにバチカンが懸念を抱いている。すでに、その領域を制限する試みが見られる。バチカンの幹部の中には、ドイツの司教団が進めようとしている”シノドスの道”には、確定している教義を、二次的な、派生的なものさえ含めて、不可謬性に異議を申し立てる名分はなく、議論の対象とすべきでない、とする見方がある。

  幸いなことに、ドイツの司教団は、バチカンの圧力に耐え、教皇フランシスコに耳を傾けるために、しっかりと団結しているように見える。 そして、ドイツの教会は敬意をも扱われねばならない。ドイツの教会は(教会税*のおかげで、財政的に極めて豊かで)、バチカン財政への貢献度が高いからだ。

*ドイツでは、カトリック教会福音主義復古カトリック教会信徒、ユダヤ教徒であると登録したドイツ市民は、所得税の8%から9%にあたる教会税を課されている。最近では、2012年9月20日にローマ教皇庁の承認の下、ドイツ・カトリック司教協議会は「教会税を納入しない信徒は秘跡を受けられず、教会の諸活動に参加出来ない」という指令・司牧書簡を発表した。ドイツのカトリック教会の教会税収入は50億ユーロ(約5200億円)にのぼる、と言われる(「フリー百科事典Wikipedia」より)

 

【オーストラリア】

 オーストラリアでは、総会への準備が、「聴くこと」から始まっている。全国の信徒たちに助言と提案を求め、これまでに個人から4700件、グループから1万2757件の回答があった。

 その中には極めて広範かつ大規模なものもあり、例えば、Catholics for Renewalというメルボルンの信徒グループは”Getting Back on Mission”と言うタイトルの350ページの及ぶ文書を提出した。

 この国のカトリック信徒の総数のうち日曜のミサに参加している割合は、1954年の74%から2016年には12%に激減している。信徒たちからの提案には、そうした現状を踏まえて、より良い未来を築くためのいくつかの急進的、あるいは創造的な提案が含まれている。

 寄せられた回答は、まず各教区ごとに行われ、さまざまな分野の改革への信徒たちの意見、提案についてウエイト付けを明確していた。だが、各教区の集計、分析結果が全国レベルで取りまとめる段階で、そうしたウエイト付けは曖昧になった。その原因は、教区レベルでの回答の集計、分類の仕方の違いにある可能性があり、単純にひとまとめにするのを難しくした。

”旅”を続けるのか、それともすでに”旅”の終わりにあるのか?

 残念ながら、教区レベルの集計、分析が前に全国レベルの報告書が発表されてしまった。これにより、この国の教会が抱えるさまざまな問題に対する信徒たちの関心のウエイトが曖昧になり、最終的なテーマを”消毒する”扉が開かれてしまった。”蒸留”の結果は、そのとおりになった。

 「 Continuing the Journey」というタイトルで出版されたのは、全国総会で話し合われる議題の基礎となる”作業文書”であり、とりまとめたのは、司教、司祭各1名、教会に勤務する一般信徒の男女2名で構成するチームだった。文書作成は”密室”で行われ、表現などについてバチカンの”事前審査担当者”の意見を聴いた。その結果は、バチカン内部の”反フランシスコ的思い”の影響を受けたように見える。

 これまで見てきたように、あらゆることを議論できるようにすることは、教皇職の持つ無制限の力に影響を与えうる。バチカンによる作業文書の”正式な承認 ”は、総会の議題を制限するという、誠に残念な”副作用”がある。教会の抱える問題を解決するための重要な変革についての提案が本にして出版されるとすれば、そのタイトルは「旅の終わり」ということになるだろう。

 教会改革を主張する信徒たちから出された野心的で、創造的な提案は、作業文書取りまとめの際に全て除外された。LaCroix International が最近掲載した記事で、同国のカトリック信徒の団体Concerned Catholics Canberra Goulburn (CCCG)の代表を務めるジョン・ワーハースト教授は、さらなる”蒸留”を生き延びた提案を「精彩を欠いた、気休め」に過ぎない内容、と批判した。 CCCGは、司教団によって組織的に行われた準備作業のさまざまな段階について、詳細な分析結果を公開している。野心的な提案は、最終的な議題の取りまとめの段階で、ほとんど無視されてしまった。

 司教たちは、「新たな開かれた教会」を訴える教皇の呼びかけに応えるどころか、司教たちは”曖昧化”と”古臭い自己防衛の秘密主義”に執拗にしがみついているーバチカンのお墨付きを得て…。

*”この危機を絶対に無駄にするな”

 オーストラリアの司教たちは、2011年に、トゥーンバ教区のウィリアム・モリス司教が所定の手続きを経ることなく、いきなり解任されて以来、バチカンとの良好な関係を維持する必要性を特別に意識している。モリス師は、司教としての責任を果たす上で妨げとなる現在の規制にあえて疑問を呈したーフランス一国とほぼ同じ、50万平方㌔㍍の広大な教区に司祭は50人以下というトゥーンバ教区で、ミサ聖祭に信徒たちが与れるように、いくつかの提案をしたのだ。

 この教区が直面している問題の規模と緊急性を考えると、司教団がまとめつつある議題はあまりにも慎重すぎる。問題への効果的な対応のために全豪の総会が提供するまれな機会を失う恐れがある。教会評議会の一般信徒代表委員であるワーハースト教授は、議題から外された重要課題を取り上げされないために忠誠の宣誓が発動されるのを懸念している。

 しかし、教会法の厳格な適用は、この点に関して”予期せぬ自由”をもたらす可能性がある。これは評議会が、過去にいくつもの問題を引き起こし、その解決を妨げてきたのと同じ制約に苦しむことを確実にする。「この危機を良い危機を絶対に無駄にするな」とは、ウィンストン・チャーチルの助言ではなかったのか。

 

【イタリアとアイルランド】

 教皇フランシスコに促されてから約5年経ったこのほど、イタリアとアイルランドの司教協議会はそれぞれ、全国教会会議の準備作業の開始を発表した。アイルランドの準備作業はさらに5年かかると予想され、その時には教皇は92歳になる!

 

【イングランドとウェールズ】

 イングランドとウェールズの司教団は、教皇の”シノドスの旅”の呼び掛けに対する取り組みをまだ発表していない。これは理解できることだ。

 司教団が1980年に、リバプールで全国司牧会議を開いた時、2000人を超す人々が出席しました。司教団が「The Easter People」と題した文書に要約された最終報告書は、ヒューム枢機卿とウォーロック大司教の手で教皇ヨハネ・パウロ2世に提出された。今は無き教皇は、それを読まずに脇に押しやり、拒絶した。避妊についての教会に見解の見直しも、無効宣言無しに再婚した人々に聖体拝領を認めることも否定された。高位聖職者を通して伝えられた時でさえも、信徒たちの声に関心を示さなかった。

 だが、教会には司教団以上のものがある。私は最近、英国の非常に強い刺激を受ける人々のグループから、講師として招待された。彼らは、あらゆるレベルで開放的で継続的なsinodality(協働制)の教皇フランシスコの呼び掛けに積極的に応えようとしている。女性信徒で構成される2つの教会改革グループが完全に包括的な教会会議、「女性から始まり、そこで終わらない教会会議」の実現に力を合わせている。

 英国で始まったこの運動は、さらに拡大している。Zoomを使って毎月2回集まり、議題の作成の参考に外部から招いた講師の話を聞いている。バーチャル会議後の参加者の交流も活発で、翌日にも”コーヒーを飲みながらの雑談”やアイデアや意見の交換のために集まっている。メンバーの何人かが私の「TheCuriais the Pope」の読者で、それが縁で、講師に呼ばれた。講演のテーマは「教会を現在の状態にした統治構造」だった。クリフトン教区のニュースレターに詳細が載っている。

 2020年10月からオンラインで行われた”完全に包括的な教会会議”は、カトリックやその他の宗派や信仰団体から、一般信徒、修道者、聖職者などの会合を開き、国内外から関心を集めている。教区民であろうと、司教であろうと、信仰を実践していようといまいと、教会や司牧から排除されていようといまいと、参加を歓迎。話すのは良いことだ!

 ”完全に包括的な教会会議”は2021年9月5日から8日まで開かれる、オンライン・ワークショップで「平等、包括性、統治」の問題について結論を出し、9月10日から12日までブリストル・パークウエイ側の聖ミカエル教会の最新の会議場で開かれる会議で最高潮に達する。キリストの兄弟姉妹すべてに参加が歓迎されている。

 教会の高位聖職者たちの参加も歓迎されるが、司教などの肩書を外すことが条件だ。会議への参加で、彼らは教皇の要求に応えることになるが、バチカン内部の反教皇勢力が承認を拒否する危険を冒すことになる。

 その開放性、包括性、勇気、そして聖霊への信頼において、”完全に包括的な教会会議”は、信徒の総体の信仰のセンスを表現する貴重な ”水路”を提供する。自由な意見交換を可能にし、教皇が理解しているような協働制を具現することで、真の「協働制」がキリスト教会全体に広がるようになれば、将来の基準と模範を示すことになる。変化の推進力が徐々に人々からもたらされるようになれば、分裂の可能性は低減される。これこそ、生きたaggiornamento(現代化)だ!

*John O’Loughlin Kennedyは、引退した経済学者。社会事業家でもある。 妻と共同で1968年にアイルランドで国際協力組織「Concern」を設立し、後継者に道を譲るまでの10年間、運営、軌道に乗せた。「 Concern」は、人道的危機への対応に加え、世界で最も貧しい24か国で農業開発と教育および医療支援プロジェクトを進めている。最近の著書に「The Curia is the Pope」(Mount SalusPress刊)がある。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2021年6月29日