・2023年、バチカンをめぐる5大予想は…(Crux)

(2022.12.30 Crux Editor  John L. Allen Jr.)

 ローマ発 – 衆目の一致するところでは、2022 年の決定的な世界的出来事は多くのアナリストが恐れていたことだったが、正確に予測した人はほとんどいなかったーロシアによる 2 月 24 日の全面的なウクライナ侵攻は、第二次世界大戦以来、ヨーロッパで最も深刻な武力紛争を引き起こした。

 最も劇的な転機となる出来事は、多くの場合、私たちがそうなるとは予測しないものだ。2022年の予測の誤りは、2023年の予測について、少しは慎重になる必要があることを教えている。

 未来学の優れた点は、予測した時点で、それが間違いだと証明されることはまずない、ということだ。予測が正しかったと評価できる時には、ほとんどの人は、誰がその予測をしたかを忘れている。米議会で長く上院院内総務を務めたボブ・ドールがかつて副大統領職について語った予測は、こうだったー「それは屋内作業だ。”重労働”はない」。

 このような気持ちで、2023 年のバチカン予測の主要リストをここに掲げよう。このいずれかが実現したら、まず、「この記事で読んだ」と歴史に刻んでほしい。そうならなかったら、私は1 年後にこの記事を Crux サイトから静かに削除する。

5. ウクライナは無理でも、イランの安定回復へ貢献の可能性

 2022年は、バチカン外交にとって、がっかりするような形で終わりを迎えようとしている。教皇フランシスコと彼のチームは、ロシアによるウクライナ戦争の調停者となることを両国指導者などに繰り返し申し出たが、耳を貸してもらえなかったようだ。 ウクライナの外相が和平交渉を提案したとき、教皇ではなくアントニオ・グテーレス国連事務総長を仲介者に”指名”した。

 だが、2023 年にバチカンが、誰もが驚くほど大きな役割を果たすことが期待される別の紛争があるーイランだ。この国は現在、1979 年のイスラム革命以来、最も長く続く内紛に巻き込まれており、逮捕者や処刑者が増えているにもかかわらず、抗議の人々が街頭に繰り出し続けている。今後の展開を予測することはできないが、今後数か月で内紛が一層激しくなり、不安定になる可能性がある。

 世界の主要な非イスラム国・組織の中で、バチカンはイランに関与する独自の能力を持つ。 教皇庁は、米国と正式な外交関係を結んだ1984年より30年も前、1954 年からイランと外交関係を続けている。また、多くの宗教学者が、カトリックとイランを支配するシーア派のイスラム教の間には、聖人、大衆の信心から聖職者の位階制、殉教と贖罪まで、多くの類似点がある、と指摘している。「カトリック教徒とシーア派は自然な会話相手だ」と言う専門家もいる。 もしバチカンがそのカードを適切に使えば、イランを「穏健と改革」へと導く能力を持つ数少ない”舞台裏の役者の一人”になる可能性がある。

4.イスラエルの右翼政権とパレスチナ問題への関与は

イスラエルの歴史の中で最も右翼的で民族主義の政権が力を持つにつれて、2023年に聖地が再び、複数のレベルでバチカンの頭痛の種になるとの予測が出ているようだ。 バチカンは、イスラエルとパレスチナの紛争に対する二国間の対話による解決と、対話の間、和平を保つために宗教施設の共有について現状を維持することを、支持し続けてきた。 だが、イスラエルの新政権は、このようなバチカンの主張のいずれも受け入れないように見られる。

 さらに、新政権は、少数派のキリスト教徒に対して新たな圧力をかけることを示唆している。バチカンは、「キリスト教会指導者が過度に親パレスチナだ」という、多くのイスラエルの組織、団体の先入観を確固たるものにしないよう、キリスト教徒とその機関に行動を慎重にするよう釘を刺す必要がある。

 2023 年には、バチカンとイスラエルの外交関係の基本協定 30 周年を迎える。それは両者の関係を深める機会となるべきものだが、金融、税金、資産の問題を扱う付則が、30年経った今でも採択されていないことを思い起させる機会ともなるだろう。 聖地のカトリックの法務担当は最近、この地域のカトリックの教会、団体を法的に支援するための「専門法律事務所」を開設している。

3.”シノドスの道”の成果望む教皇に厳しい試練

 2023 年のバチカンのカレンダーには、 2 つの重要な日付が記されている。3 月 5 日に、ドイツの”シノドスの道”で 5 回目で最後 (少なくとも今のところ) の総会が開かれ、10 月 4 日には、教皇フランシスコが世界代表司教会議通常総会PhaseⅠを開会する予定だ。PhaseⅡは一年後の2024年10月に予定されている。

 ”シノドスの道”で、ドイツの”実験”的な歩みとローマの正式な歩みの緊張関係は、今後 1 年間のカトリックのドラマの多くを際立たせるはずだ。ひと言で言えば、教皇と彼のバチカンの顧問は、同性婚、聖職者の独身制、女性の司祭・助祭の叙階、司教の選任方法の見直しなど「世界中で多くの議論を呼んでいる問題に前向きな方針を打ち出すことで、世界の教会の流れに先んじることのないように」とドイツの司教団に”警告”を出している。

 その一方で教皇は、ドイツ教会の”歩み”の主導者を批判することはせず、少なくとも今のところは事の成り行きに満足されているようにも見える。教皇自身の”シノドスの道”に対する期待がうまく実現するように努め、世界中の信者たちによる多くの協議、多くの参加の中で、教会活動の根本的な見直しを進めようとする教皇にとって、おそらく最も厳しい試練の年となるだろう。

2. いまだ続く聖職者による性的虐待と対処への強い批判、どう対応

 2002 年に米国で聖職者の性的虐待スキャンダルが勃発して以来、世界中のカトリック教会は、被害者に正義を行い、子供たちに安全な環境を作るために多大な努力を払ってきた。 その取り組みの一環として、バチカンは児童虐待事件の手順を成文化し、速やかで確実な対応を世界の司教たちに求めた。

 2023年は、カトリック教会が大人、特に女性への虐待に関して同様に積極的な姿勢を取らざるを得なくなった年として、教会の歴史に刻まれるかも知れない。 現在、その”原動力”となっているのは、イエズス会士のマルコ・ルプニク神父をめぐる性的虐待スキャンダルだ。神父は著名なスロベニアの芸術家だが、母国の女子修道院のシスターたちに対する長きにわたる性的、精神的虐待と、「性行為を行った女性を赦免する」という告解の秘跡の乱用で告発されている。

  現在までに、ルプニクが受けた唯一の懲罰は、告解の乱用に対する短期間の破門と、イエズス会による聖職者としての活動の制限だけだ。 他の聖職者の性的虐待行為に対する厳罰に比べ、あまりにも甘い懲罰にとどまっていることに、多くの聖職者、信徒の間に困惑と怒りを引き起こしている。

 2021年に、教皇は教会法における性的虐待の定義を拡大し、対象に未成年だけでなく、成人の被害も含むように改めたが、多くの識者は、その実施が明らかに不均一にとどまっている、と批判している。 新年に入って、教皇と世界の教会指導者たちは、ルプニク問題への対処にとどまらず、この問題で明らかにされた聖職者による性的虐待への対応と定められた手順のギャップを埋めることを求める強い圧力にさらされる可能性が高い。

 

1.フランシスコの 教皇職終焉の憶測

 

 この記事を書いている時点で、世界のカトリック教会は名誉教皇ベネディクト 16 世の治癒を祈っている。病状はここ数日で著しく悪化し、95 歳の引退教皇に終わりが近づいている可能性があるとの報告がされている。

 ベネディクト 16 世が帰天することになれば、フランシスコの教皇職がどのように終わるかについての憶測へのブレーキの 1 つが取り除かれるだろう。多くのバチカン観測筋は、一時期に 2 人の引退教皇が存在するというシナリオを避けるために、そのような憶測を巡らすのをベネディクトの生存中は控えている。

 しかし、ベネディクトに何が起こるかに関係なく、86 歳の現教皇が車いすに活動を制限され、昨年には結腸の大手術を受けたことで、次の教皇の可能性についての憶測が、新年にさらに高まることは避けられない。だが、フランシスコが、教皇職を当分の間続ける可能性があることを裏付けるデータがあることも事実だ。

 教皇は 2023 年に向けて野心的な海外訪問の計画を立てており、”シノドスの道”を2024 年10月の世界代表司教会議総会PhaseⅡまでやり遂げること、バチカンの抜本改革を成し遂げることへの意欲も衰えていない。 ご自身が最近言われたように「人は膝ではなく、頭で統治する」のだ。

 それにもかかわらず、2023年に教皇に新たな健康上の問題 が起きれば、教皇職の終焉の憶測が堰を切ったように流れ出す可能性がある。教皇職に任期があれば、そのような憶測のいくつかはそれに含まれるかもしれないが、教皇職の移行が、教皇の死去か自身の意思による退任に限定されている以上、誰にも終焉を迎えさせる権限はないように思われる。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年12月31日