・言論NPOなど世界10か国のシンクタンクによる東京会議、G7首脳会議へメッセージ

(2023.3.24 言論NPOニュース)

 アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本の G7加盟国にインド、シンガポール、ブラジルを加えた世界10カ国のシンクタンクの代表者による「東京会議2023」が24日、東京都内のホテルで開かれ、「日本でのG7首脳会議に向けたメッセージ」を採択、同日夕の歓迎夕食会に出席した岸田首相に手渡された。

 今回のG7首脳会議に向けた共同声明は七つのセッションで議論を深め、共通の理解の元に集約した。特に民主主義制度を鍛え直し、世界課題の解決のために努力することを目的に、五つの諸課題に焦点を当てている。

 具体的には①ロシアのウクライナ侵略の和平交渉に実現のため、G7各国は関係国との対話を急ぐべきだ。②厳しい世界経済の状況下にあって、G7各国は気候変動の危機的状況に高い優先順位を持ち、公平に対処すべきだ。③新興国や途上国の経済悪化が懸念される中、G7各国は危機管理と債務問題の解決に向けて一層努力を払うべきだ。同時に中国に対しても、国際協力の姿勢を示すよう求めよ。④G7各国は省エネなど新しい技術開発、情報共有など資源外交を拡大すべきだ。⑤自由と法の支配を守る民主主義の修復のため、G7各国は中間層を再構築し、社会基盤を安定化させるべきだ──などと記し、世界的な喫緊の課題を踏まえた内容となった。

 メッセージの全文は以下の通り。

  「日本でのG7首脳会議に向けたメッセージ」 東京会議 2023年3月24日

 私たちは3月24日、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、フランス、日本の G7加盟国に、インド、シンガポール、ブラジルを加えた世界10カ国のシンクタンクからの参加者が東京に集まり、今回で7回目の「東京会議2023」を開催した。メアリー・ロビンソン元アイルランド大統領、ウィリアム・ヘイグ元英外相、その他のゲストにも参加いただいた。

 自由と民主主義の価値を共有する10カ国の参加者が、東京で対面の会議に参加するのは、コロナ禍でオンライン会議となった過去二回を経て、3年ぶりである。

 ロシアのウクライナ侵略で始まった戦争は一年を経過しても収まらず、世界の平和秩序は依然、壊れたままである。その影響は世界経済の一層の不安定化や資源エネルギーの高騰などに波及し、多くの国際課題への多国間協力が暗礁に乗り上げている。

 また、米中の競争激化は、世界が分断に向かう危険性をさらに高めている。全てを安全保障の側面から考える傾向が強まっており、21世紀は民主主義国と権威主義体制との対立の時代となるとの見方が広がっている。

 この歴史的に重大な局面で、10ヵ国の参加者のリーダーが東京に集まったのは、今がまさに、世界の対立をこれ以上悪化させず、世界の課題で多くの国が力を合わせる、その局面だと考えるからである。この点について、私たちは議論を行い、今年のG7議長である日本政府に提案しようと考えた。そして、日本の岸田文雄首相は、2017年の「東京会議」の設立時に参加・協力した政治リーダーの一人である。

 この二日間、私たちは7つのセッションで議論を深め、特に二つの点で共通の理解を得た。

 まず、私たちが目指すべきことは、世界の分断をこれ以上悪化させないことであり、法の支配や自由、領土の一体性と人権を基本とするルールに基づく世界を守るために多くの国が結束することである。そして、より強靭性と持続性のある世界に発展させる努力を始める、ことである。

 そのためにも、世界は、ロシアのウクライナ侵略に基づく戦争を領土の一体性の原則を維持する形で正当かつ公平に一刻も早く終結させ、混乱した国際秩序を修復させると同時に、国際課題への協力に向けこれまで以上の努力を行わなくてはならない。

 二点目は、私たち民主主義国に問われた特別の責任である。自由や平等、基本的人権は、先人の長い努力で獲得した人類の共通の財産である。民主主義の国際社会での正統性をより高めるためには、民主主義国自体が国際政治の場や市民の強い信頼に支えられる必要がある。

 そのためにも民主主義国は自国の民主制度を鍛え直し、その有用性を高めないといけない。過度に対立を拡大するのではなく、世界課題の解決のため率先して努力し、国内の政治体制の如何に関わらず、世界が抱える問題を解決しようとする国々と連携しなくてはならない。

この問題意識から、私たちは以下の5点に焦点をあてた。

  • 1.国際社会にとっての最優先課題は、ロシアのウクライナ侵略に基づく戦争を正当かつ公平な形での終結を可能な限り早く実現し、平和の秩序を再建することである。侵略を受けているウクライナへの軍事や人道支援、さらに国際経済への影響は配慮しながらも実効性のあるロシア制裁により多くの国が参加する努力は今後も必要である。しかし、一刻も早く和平交渉に持ち込むためには、より多くの国が力を合わせなくてはいけない。その目的の達成のためにも、G7各国は関係国との対話を急ぐべきである。

  • 2.世界経済は厳しい状況にあり、米中のデカップリングも進んでいるが、経済のイノベーションと世界経済の成長のためには、健全で公平な競争に基づく開かれた自由貿易こそ、守らなくてはならない。私たちは法の支配、自由、人権を守るために結束するべきであり、今後も自由経済の発展のために力を合わせ続けなくてはならない。私たちが取り組むべきことは、グローバルあるいは地域における自由貿易の再構築であり、そのためのルール作りに取り組むことである。分断の先鋭化や保護主義に陥ることは避けなくてはならない。G7各国は、気候変動の危機的状況に高い優先順位を持ち、公平な方法で緊急にこの問題に対処しなければならない。

  • 3 世界的なインフレによる利上げや資源価格の高騰は世界の経済や金融を不安定化させ、新興国や途上国の経済悪化から、途上国の債務問題を拡大させている。G7各国は世界経済で懸念される危機を管理すると同時に、債務問題の解決のためのコモン・フレームワークが実効的に稼働できるように一層の努力を行う。この債務問題では、債権国中国にも貸し手としての責任を遂行し、国際協力の姿勢を世界に示すことを求める。

  • 4.ウクライナ侵略を受けて発動されたロシア制裁を受け、石油、天然ガスなどの資源価格の高騰から、資源ナショナリズムの傾向が世界的に強まり、資源争奪や生活に必要な資源を確保できない国が出ている。G7各国は、途上国などへの省エネ技術、調達先の紹介や、代替資源の開発に向けた一体的な支援など、需要・供給両面からの取り組みをさらに強化するべきである。また、G7国間でも新しい技術の共同開発や情報共有、緊急時の資金供与など資源外交を拡大すべきである。

  • 5.民主主義の修復のためには、G7各国で中間層を再構築し、民主主義の社会基盤を安定化させることが必要である。そのためには賃上げだけではなく、新しい変化や多様な価値に対応する人的投資を行い、民主主義国自体の強靭性を高めなくてはならない。また、民主主義国は、共通の基盤を持つ多くの国と、民主的な政治制度における違いを認めたうえで連携する必要がある。こうした連携こそが、私たちが信じる民主主義、自由と法の支配を守るための砦となるからである。

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・G7の一つの目標は「法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の決意を力強く示すこと」と岸田首相

 3月24日の「東京会議2023」の公開フォーラムで採択された「日本でのG7首脳会議に向けたメッセージ」(共同声明)は、その後、開かれた歓迎夕食会で言論NPO代表の工藤泰志から、「東京会議」の生みの親の一人でもある岸田首相に手渡され、首相からG7に向けた決意が表明された。

 岸田首相は講演の冒頭、「世界は今、歴史の転換期を迎えている。ロシアによるウクライナ侵略は、国際社会のルール・原則そのものへの挑戦だ」と強く非難した上で、日本の首相として戦後初めて戦地に入るという、ウクライナへの歴史的な電撃訪問を回顧。「ロシアによる侵略を一刻も早く止めなければならないとの決意を新たにした」と語った。

 その上で、今年5月の広島サミットにおいて、日本がG7議長として達成しようとしている目標について説明した。

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 その第一の目標は、「法の支配に基づく国際秩序を守り抜くというG7の決意を力強く示すこと」とし、ロシアによるウクライナ侵略に限らず「力による一方的な現状変更の試みは、東シナ海や南シナ海においても続いている。さらに、経済的威圧もまた、看過することのできない課題」であると指摘。

 「大小問わず、すべての国は、法の支配の下でこそ、平和と安全を確保することができ、また、自由で開かれた国際秩序の恩恵を享受することができる」とし、広島サミットでは、「いかなる地域においても力や威圧による一方的な現状変更を認めず、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く、というG7の結束とその意思を、国際社会に示す」と意気込みを語った。

 同時に、「ロシアが行っている核兵器による威嚇もまた国際社会の平和と安全に対する深刻な脅威」とし、被爆地・広島で行われるサミットでは核兵器による惨禍を再来させないための「G7として現実的かつ実践的な取組を進めていくとの力強いメッセージを発信したい」と述べた。

 続いて、G7議長国としてのもう一つの優先課題として、「いわゆる『グローバル・サウス』への関与の強化」を提示。その理由として、多様化する世界の中で「様々な特色を持った国のパワーが相対的に増してきている」との認識を表明しつつ、こうした新たな勢力との対話と協力を進めていく必要があるとした。

 特に、気候変動を始めとする地球規模の課題深刻な問題については、G7間で議論するだけではなく、グローバルサウスを含めた国際社会と広く連携していく姿勢が大事であり、ウクライナ訪問に先立つインド訪問もその戦略の一環だったと説明。

 「モディ首相との間ではG7とG20で連携して、国際社会の重要課題に取り組むことを確認した」と振り返りました。また、インド滞在中に「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の新プランを発表したことについても、「国際社会を分断と対立ではなく協調に導くとの決意を示したもの」としつつ、FOIPのビジョンを共有する国々との連携・協力の輪を広げていくとの意向を示した。

 最後に、「我々の目の前にある挑戦は、G7にとってのみならず、国際社会の基本原則を共有し、人類の平和と繁栄を願う全ての国々にとっての挑戦である」とし、こうした認識の下、「この時代に何が求められているのか、現実的な外交を通じて、G7議長国としての目標達成に取り組み、グローバル・サウスを含む、国際社会のあらゆる国々と共に新たな時代を築いていく」と決意表明し、講演を締めくくった。

(編集「カトリック・あい」)

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2023年3月25日