・東京会議 WORLDシンクタンクD-10会議報告「国際協調に地政学的対立を持ち込まず、民主主義の後退を放置すべきでない」

(言論NPOニュース 2021.3.29)

言論NPO 主催の東京会議のイベントとして、WORLDシンクタンクD-10会議「世界の民主主義国は国際協調と自由秩序の修復でどう連携すべきか」が開催されました。

米国のバイデン政権は「国際協調と民主主義の修復を図る」としているが、その修復は本当に可能なのか、可能とするためには世界の民主主義国はどのような努力が求められているのか、について、議論され、「今回のコロナ危機は世界の国際協調の重要なテストとなったものの、その結果は世界が国際協調を失いつつあるということであり、その修復を世界は期待するが、修復ができるか現時点で答えを出すことは難しい」という見方で一致しました。

その背景には米中対立や米国と欧州の協調問題があり、利害が相反する課題では協調できる分野は限られること、その中でリーダーシップを発揮できる国はなく、国家を軸とした国連システム自体の限界が明白になっている、と多くのシンクタンクは指摘します。

ただ、今後の国際協調を進める上で国家だけではなく、個人、企業、地域といったセクターに期待するする見方や、国際協調の象徴である国連を使いこなす努力を指摘する声、国際協調に地政学的な対立を持ち込むことへの反対の声も相次ぎました。

民主主義の後退が深刻化していることは、参加したシンクタンクの共通の認識です。 世界の多くの民主主義国で制度や原理が信頼を失い始めていることが指摘され、またそうした原理への攻撃が続いていることも報告されました。ただ、先進国の民主主義国は魅力を失っているが、途上国は民主主義や人権保障、法の支配を求めているとし、「民主主義を魅力的に見えるように努力することは民主主義国の責務」との意見も出されました。

「民主主義の後退は放置すべきではない」が、この会議での10カ国のシンクタンクのご合意です。これに対してはそれぞれの国が自国の民主主義の修復への努力を始めることと同時に、民主主義国の競争力の問題として民主主義の価値への攻撃に連携して対応するなどの、意見が出されました。

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東京会議のイベントとして、WORLDシンクタンクD-10(WTD10)会議「世界の民主主義国は国際協調と自由秩序の修復でどう連携すべきか」が開催されました。

米国のバイデン政権は、「国際協調と民主主義の修復を図る」としていますが、その修復は本当に可能なのか、可能とするためには世界の民主主義国はどのような努力が求められているのかについて、このセッションでは議論が行われました。

今回のコロナ危機は世界の国際協調の重要なテストとなったものの、その結果は世界が国際協調を失いつつあるということであり、その修復を世界は期待するが、修復ができるか現時点で答えを出すことは難しい、という点で合意しました。

その背景には米中対立や米国と欧州の協調問題があり、利害が相反する課題では協調できる分野は限られること、その中でリーダーシップを発揮できる国はなく、国家を軸とした国連システム自体の限界が明白になっている、と多くのシンクタンクは指摘します。

ただ、今後の国際協調を進める上で国家だけではなく、個人、企業、地域といったセクターに期待するする見方や、国際協調の象徴である国連を使いこなす努力を指摘する声、国際協調に地政学的な対立を持ち込むことへの反対の声も相次ぎました。

民主主義の後退が深刻化していることは、参加したシンクタンクの共通の認識です。

世界の多くの民主主義国で制度や原理が信頼を失い始めていることが指摘され、またそうした原理への攻撃が続いていることも報告されました。ただ、先進国の民主主義国は魅力を失っているが、途上国は民主主義や人権保障、法の支配を求めているとし、「民主主義を魅力的に見えるように努力することは民主主義国の責務」との意見も出されました。

「民主主義の後退は放置すべきではない」が、この会議での10カ国のシンクタンクのご合意です。これに対してはそれぞれの国が自国の民主主義の修復への努力を始めることと同時に、民主主義国の競争力の問題として民主主義の価値への攻撃に連携して対応するなどの、意見が出されました。

 司会を務める言論NPO代表の工藤泰志はまず、世界的な課題に対する国際協調の在り方について問題提起。新型コロナ危機が浮き彫りにしたのは、国家を軸とした国連システムによる国際協調の脆弱性だとし、これを修復することは本当に可能なのかと問いかけました。

*今後も米中対立と国際協調の分断は続く

米外交問題評議会(CFR)のシニアバイスプレジデントのジェームズ・リンゼイ氏は、新型コロナのような大きな脅威に対しては、いかなる大国であっても自国だけでは対応できないにも拘らず、今回のテストで明らかになったのは、世界は国際協調を失いつつあるということだと語りました。その背景としてリーダー的な役割を果たす国がなかったとし、バイデン政権はリーダーシップを取り戻そうとしているが、それができるかはまだ分からない段階だと指摘しました。

さらに、今後の国際協調は「ワシントンと北京が合意できるところのみで見られるのでは」とし、真正面から利害が相反する分野では今後も激しく対立が続くと予測。合意できる分野は限られるとの見方を示しました。

*国家連合である国連自体に限界が来ている。民間の役割に期待

フランス国際関係研究所(IFRI)所長のトマ・ゴマール氏は、国連に依存してきたこれまでの国際協調自体に限界が来ていると分析。その理由として国はこうした危機対応においては国際機関に求めるよりも、今回のワクチンのように国はその対応を補完するために大企業との接点を求めており、特に新型コロナのような感染症や気候変動などといった分野でも国は投資ができる企業との関係をより重要視している、と語りました。

*大国間対立、地政学的対立が国際協調に影響しないように管理すべき

元ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長で、現在は国連スーダン特別代表・国連スーダン統合移行支援ミッション代表を務めるフォルカー・ペルテス氏は国際協調が何といっても必要だとの視点から、更なるリーダーシップは必要だが、今後の国際協調を推進していく上で国家だけではなく、個人・企業、地域といった新たなアクターの存在に期待を寄せました。

その一方で、国連は国際協調の象徴であるし、国家の役割は依然として重要であるとも指摘。大国間対立、地政学的対立が国際協調に影響しないように管理する方策を考えなければならないとも語りました。

シンガポール・ラジャトナム国際研究院(RSIS)所長、副理事長のオン・ケンヨン氏も、国際機関のガバナンスの問題等を指摘しつつ、国際協調は必要だとし、ルールや国際法を管理し、必要な修正はあってもルールの基づく秩序は重要だとの見方を示しました。

インドのオブザーバー研究財団(ORF)理事長のサンジョイ・ジョッシ氏は、コロナの対策で国のコントロールが強化され、国境を越えて世界が対応することができなかったことは一番のショックだと語り、現時点でどのように克服できるか、答えは難しいと国際協調は大きな問題を抱えたままとの認識を示しました。

*米欧関係も国際協調のリスク要因

国際協調に関しては、米国のバイデン政権の行動の不確実性も話題になりました。イタリア国際問題研究所(IAI)副理事長のエットーレ・グレコ氏は、不確実性が高まる中では可能な限り予め米国と欧州が協調できる分野を作っておくことが備えになるとしましたが、その際の懸念要素として、トランプ政権期に悪化した米欧関係や対中関係を挙げ、米国がどういった形で新たな政略を持っているのかが、まだ予見性は高くないと指摘。その上でヨーロッパはできる限り、中国への対立構造に与したくないが、技術の優位性を巡る中国との競争では、欧米はその方向性を整合させることが必要だと、語りました。

これに対しては、ゴマール氏も、中ロに対するバイデン政権の対抗姿勢をその実現性も含めてEUは「やりすぎだと思っている」と同調し、仏海軍がインド太平洋に進出しようとているのも、中国封じ込めが主目的ではなく、世界の海洋秩序を重視しているからであるとし、国際協調に地政学対立を持ち込むことに反対しました。

*「新たなアクターが国連を使いこなす」という視点が必要

こうした議論を受けて工藤も発言。国家間対立がある中では、国家連合である国連システムが世界課題に立ち向かうことができないのは必然としつつ、「新たなアクター」という発想に賛同。「国連に頼るのではなく、国連を使いこなすという視点が必要だ」と述べました。

今回の新型コロナ危機では、国民の命を守るという点での民主主義統治の脆弱性も浮き彫りとなりました。そこで、民主主義自体の修復は可能なのか、修復していく上で問われているものは何か、といった点についても、冒頭から真剣な議論が展開されました。

*民主主義の修復について議論を深めるべきだが、「民主主義対権威主義」というような構図を強調すべきではない

民主主義の問題は、民主主義自体の修正と、民主体制の競争に議論が分かれ、その二つの側面で、民主主義が危機に陥っている、という点でシンクタンク参加者は一致しています。

イタリアのグレコ氏は、「民主主義の後退は放置すべきではない」と語り、民主体制や制度への信頼が失われていることに警鐘を鳴らします。欧州でも法による支配、チェックアンドバランスが後退し、権力の過剰使用が見られ、コロナの影響がさらに制度に圧力を高め、その信頼欠如に繋がっていることを懸念。民主主義が権威主義体制との競争に入っている状況の中では、法の支配などの民主主義原則への攻撃に対処すると同時に、「民主主義に何が足りないのか、オープンに議論して対策を考えるべき」と主張しました。

ただ、中国など体制を排除しては世界の課題の解決は難しいとの立ち位置から、「大民主同盟」のような枠組み構築には「懐疑的だ」と語りました。

米国のリンゼイ氏も、民主主義の後退の深刻化は政府の政策上の問題があり、バイデン政権は政府が大きな社会問題に対処することを目指しているものの、成功できるかは不透明であり、自助に基づいた強靭な民主主義を作るしか、この後退を回避できないとの持論を展開。ただ、民主主義が新型コロナ対応に失敗したと印象付けること自体が適切ではないと問題提起し、封じ込めに成功した中国は、そもそも発生源なのだから情報も豊富であり、したがって復興も早いのは当然と指摘しました。

ただ、国際協調のさらなる分断を招きかねないため、民主主義対権威主義というような構図を強調することには慎重な見方を示しました。

*民主国家同士の自浄作用とともに、途上国支援も必要

フォルカー氏は、先進国では民主主義が魅力を失いつつあるとする一方で、途上国は依然として民主主義や人権保障、法の支配を強く求めていると指摘。「我々にとって、当然のものを途上国は求めている。彼らにとって民主主義が魅力的に見えるように我々は努力しなければならない」と主張しました。

同時にそのためには、EUやASEANを参考にしながら、民主主義的価値に反するような行動をとった国に対しては、他の民主主義国家がプレッシャーをかけるなどの自浄作用が働くような仕組みをつくるべきだと提案しました。さらに、途上国に対する包括的サポートの必要性にも言及しました。

インド・オブザーバー研究財団(ORF)理事長のサンジョイ・ジョッシ氏も、権威主義国家からのプレッシャーによって、途上国の民主主義が弱体化しているとし、これに対する支援が不可欠との認識を示しました。

こうした議論を受けて工藤も発言。新型コロナ対応の”ベストプラクティス”は既に明白であるが、それが多くの民主主義国でなされていないのは、「統治の仕組みが機能していないからであって、民主主義という体制の問題ではない」と主張。民主統治の仕組みこそ、それぞれの国で修復しなければならないと語りました。

*格差を解消しない民主主義に対する反感が高まっている

 

この日の会議では、民主主義の弱体化の要因についても、様々な分析や意見が提示されました。

カナダの国際ガバナンス・イノベーション(CIGI) 総裁のロヒントン・メドーラ氏は、グローバル化の恩恵を受けられていない”取り残された人々”の不満が、それを解消してくれない民主主義への不満につながっていると分析。

英王立国際問題研究所シニアフェローのジョン・ニルソン=ライト氏も同様に、格差が民主主義への反感につながっているとの見方を示しました。

*インターネットとデジタルの進展は民主主義にとって諸刃の剣

シンガポール・ラジャトナム国際研究院(RSIS)所長、副理事長のオン・ケンヨン氏は、インターネットやデジタル技術の進展は、多くの人々に意見の発信や情報の入手を容易にさせ、民主主義の発展にも寄与しているとしましたが、同時にフェイクニュースの蔓延というリスクもあると指摘。主権者たる市民の判断の前提となる正確な情報が得られないことも、民主主義を危機にさらしていると語りました。

ブラジル・ジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV) 総裁のカルロス・イヴァン・シモンセン・レアル氏も、こうした誤った情報の氾濫が民主主義にダメージを与えているとの見方に賛同。その是正と同時に、市民が情報の真贋を見抜く力を身につけるための教育も不可欠と指摘しました。また、過去25年間に、西側の国々で中間層が自分の権利を十分に享受できないとことも要因とし、「民主主義は中間層の強力なサポートがなければ漸弱化する」と語りました。

*「超国家の枠組み」で今後も民主主義を議論

最後にフランスのゴマール氏は、こうした様々な難題に直面している民主主義について、議論し続けていくためには、「国家を超えた枠組み」が必要と主張。「東京会議」のさらなる発展に期待を寄せると、工藤もそれに応じて、今後の議論の展開に意欲を示しつつ、白熱した議論を締めくくりました。

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2021年4月5日