・新型コロナウイルスの大感染の教訓…バチカンに「災害担当の部署」が必要?(Crux)

(2020.6.11 Crux Editor  John L. Allen Jr.)

 ローマ発ー米外交問題評議会(CFR)が発行する国際政治経済誌「Foreign Affairs」は最新号で、「The World After the Pandemic(ウイルス大感染後の世界)」という大胆な見出しを掲げた特集を載せている。

 その特集が示す新型コロナウイルスの教訓をもとにすべきことは、次の世界的な感染が「もし来たら」ではなく、「いつ来るか」に備えた計画に着手しなければならない、ということだ。

 ミネソタ大学の感染症研究・政策センターのマイケル・オスターホルム所長と、作家でドキュメンタリー映画製作者のマーク・オルシェイカーは、現在の新型コロナウイルスは「公衆衛生の専門家を徹夜で起こしておく」ほど「Big One(大きなもの)」ではない、と言う。 1918年に世界中で猛威をふるった「スペインかぜ」では、罹患者数6億人、1億人とも言われる死者を出した「が、この死者数は現在の世界人口比でみると約4億人。新型コロナウイルスでこれまでになくなった人の100倍だ。それに比べれば、ということだ。

 だが、新型ウイルスが世界中で多数の感染者、死者を出していることには変わりがないし、これまでの世界の対応は、長期的な備えと短期的な対応の両方で失敗を露呈した、と2人は指摘している。それは、人的、物的資源が足りなかったわけではなく、「過去20年間、国土の安全とテロ対策に米国だけで何十億ドルを費やし、細菌やウイルスによって確実に引き起こされる可能性のある脅威を見逃していたこと」にある。「テロリストは、アメリカ人が続けてきた生き方を急停止させることができないが、新型ウイルスは、それを数週間でやってのけたのだ」。

 大感染が再び起きるとしたらどうしたらいいのか。2人は、軍隊式の対応を提案する。「実際に起きている戦争」ではなく、「いつか必ず起きると分かって戦争」への対応ー今、使うために戦車やミサイルを購入するのではなく、将来、戦闘配置に就くのに備える軍隊だ。具体的に新型ウイルス対策に当てはめれば、今、各国政府がやるべきことは、医療従事者用の個人用保護具を備蓄し、即座に検査が可能な装置の製造能力を強化し、ワクチン開発に大規模な予算を投入することである、と言う。

・・・・・・・・・・・・・

 大胆な提案の一つがあるとすれば、それは、バチカンに「災害担当の部署」を創設することだ。その名称がバチカンの役所に似合わないなら、「予期しない災難の中で人々の連帯を促進するための部署」という、ややこしい名前でもいい。どんな名称だろうと、カトリックの総本山に、遅かれ早かれ再発すると皆が分かっている事態に、世界の教会を備えさせる部署を置くことが、絶対に必要だ。

 そして、バチカンの新しい部署が効果的に機能するには、バチカンの既存の他の部署の台本書きに倣わないようにする必要がある。バチカン内部で支配的なイタリア語ではなく、英語を主体として使用するなど、”国際的”でなければならない。国際的な人道援助組織と同様に、世界の医療分野でも使用されているのは英語だからだ。また、その部署を率いるリーダーは、教会において重きをなしている人物でなければならない。”非の打ちどころのない血統”を持ったり、バチカン政治の現実の世界でうまく球を動かす能力があったりする人物は不必要だ。

 新しい部署の果たすべき役割は、次のようなものが考えられる。

 第1に、世界のカトリック教区の大感染対策や計画立案の調整。一般に言われているのとは違って、カトリック教会はバチカンが全てを統制する厳格なトップダウンの組織にはなっていない。実際は、教区長たる司教が”封建領主”のようになっており、”領土”において”絶対権力”をもつ。それが、新型コロナウイルス感染のような世界的脅威を前にすると、それぞれの教区がバラバラで矛盾をはらみ、ひどく脆弱であることが、露呈している。それを改めるためには、足並みをそろえて合理的な対応が出来るように、特定の人物に権限を与える必要がある。

 第2に、世界のカトリックの援助団体と協力して、次の大感染が発生した際に必要になるのが確実な資源の備蓄、供給体制を進めることだ。具体的には、食料と水、救急救命キット、感染保護防具などが含まれる。教会は、政府の失敗を全面的にカバーすることはできないが、最も脆弱な人々の支援なら可能だ。

 第3に、大感染が起きている最中に最も必要とされている霊的支援を特定し、教区やその他のカトリックの組織・団体を助ける一連の「best practices(最善の慣行)」を作り上げることだ。とりわけ重要なのは、新型コロナウイルス感染の経験を通して、”バーチャル霊性”の最も説得力のある形のものを見つけること、感染防止のための全面封鎖による規制を重んじた対面式の司牧ケアを見つけることであり、次の感染の波が来た時に、そうした対応が効果的に行われるような計画を、担当の専門家が立てることだ。

 そして、第4に、国や地方の政府によって、教会活動に制限が課せられた全ての分野における教会の経験を学び、次の公衆衛生上の危機発生の際にとられる公的措置への一連の対応指針をまとめる必要がある。そうする時、司教や他の教会の責任ある指導者たちは、これまでの新型コロナウイルス大感染への対応でみられたこと(注:失敗)を埋め合わせねばならない、と感じないことだ。そして、本当の「Big One]に備えること以上に重要なことを想像するのは至難だ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年6月12日