・新型ウイルスが脆弱なバチカン財政直撃、歳入激減で歳出削減始める(LaCroix)

(2020.5.13 La Croix  Vatican City Nicolas Senèze)

 新型コロナウイルスの世界的大感染の影響はバチカン財政にまで及び、歳入約2億7千万ユーロ(約310億円)に対し歳出3億2千万ユーロ(約370億円)の構造的経常赤字の脆弱な体制に深刻な打撃を与えると予想されている。

 バチカンの財政赤字はこれまで、バチカン銀行(IOR)の資金運用による利益とバチカン市国の剰余金によって補填されてきたが、これら2つの”救命いかだ”も、新型ウイルス危機に直撃を受けている。

 IORは、昨年は1750万ユーロの利益を上げたが、新型ウイルスの世界的大感染による証券市場の大波乱と、もともと収益性の低い倫理的に好ましい証券に投資するというバチカンの姿勢が重なって、既に大幅な急激な減益を余儀なくされている。

 一方、バチカン市国は、これまで入場料収入だけで年間約1億ユーロ(約110億円)という世界的に有名なバチカン美術館などや土産物店からの収入で、黒字財政を続けてきたが、美術館などの閉鎖だけで既に1700万ユーロ(約20億円)の予定収入を失っている。来週から開館されても、海外からの信徒や観光客の回復は当分望めそうにない。

 バチカン銀行と美術館など以外のバチカンの収入源も大きく落ち込んでいる。20〜30億ユーロ(約2300億円~3500億円)と推定される不動産を管理・運用する聖座財産管理局(APSA)は、イタリア国内の全面封鎖が始まった当初、保有建物・土地の賃料引き下げの可能性を示唆しており、減収は避けられそうにない。

 従来は聖ペトロ・聖パウロの祝日である6月29日に全世界の教会を対象に実施されていた「ペトロ献金」は、新型ウイルス大感染の影響で、アッシジの聖フランシスコの祝日、10月4日に延期された。この世界から集められる献金は、教皇の慈善活動資金とバチカンの歳出補填に使われてきたが、その収入も減少が懸念されている。ローマの日刊紙Il Messaggeroの5月11日付けの記事によると、今年の献金額は、昨年の9700万ユーロ(約110億円)に対し、6800万ユーロ(約78億円)に落ち込む見通しという。

 5月4日の教皇フランシスコと教皇庁の幹部との会合で配布された文書では、以上のような投資収益が、過去の危機の嵐をバチカンが乗り切るのに役立った、と指摘しているが、そうした投資対象としては、現在、不適切行為があったとしてバチカンの司法当局が捜査中のロンドンでの不動産取引も含まれている。

 このような財政状況から、バチカンの財務事務局では現在、3通りのシナリオを想定している。

 最も楽観的なシナリオでは、前年比3割ないし5割の歳入減と歳出抑制で、2020年の最終赤字は7000万ユーロ(約80億円)程度にとどまるが、最も悲観的なシナリオでは、歳入は最大80%減少し、歳出を抑制しないと約1億5000万ユーロ(約170億円)の記録的な赤字となる。

 他の国家と違って、このような状況の中で歳入を増やす手立てをほとんど持たないバチカンにとって、可能な対応は歳出の削減だが、選択肢は限られている。教皇の慈善活動資金(2400万ユーロ=約30億円)または人件費(バチカンの3000人の職員給与が44%を占める)に手を付けることは困難だ。教皇は特に家族のいる一般信徒の一時解雇に難色を示している。

 そうした中で、既に、新規雇用と昇進・昇給が全面的に凍結され、さらに財務事務局は、特に管理職クラスの職員を部内で移動させることを狙いに「最もふさわしいスキルに報いるための柔軟な報酬体系」を導入した バチカンの幹部職員に対しては、出張回数の削減、ローマでの会議の縮減が求められた。

 「世界青年の日」や「世界家族会議」など、大きな年間行事も既に延期が発表されているが、これも”緊縮財政”の一環だ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2020年5月15日