・新使徒憲章公布へ、バチカン改革と主要枢機卿ポストの交替が目前に(LaCroix)

(2020.7.10 La Croix Vatican City Robert Mickens)

A reformed Roman Curia and a new batch of cardinals

これは恐らく、現在のバチカンの最も野心的なプロジェクトだ。カトリック教会の中心にあるバチカン、その官僚機構のメンタリティと構造を真に改革しようする試みだ。

 フランシスコは2013年3月に教皇に選出されてちょうど一か月後、「枢機卿顧問会議(G9)」を設けた。当初、世界各地から教皇が選んだ9人で構成され、世界のカトリック教会の統治で教皇を補佐する役割を与えられた。そして、現在のバチカンの体制を規定している使徒憲章Pastor Bonus』に代わる新使徒憲章によって、バチカンを抜本改革する計画を策定するという具体的な使命も与えられている。

 『Pastor Bonus』に代わる新使徒憲章『Praedicate Evangelium』の草案は1年以上前に完成しているが、教皇は世界各国の司教協議会、特定の修道会の総長たち、そして何人かの神学者たちから、追加の提案を受けることを希望された。そして、それを受ける形で、今年の2月22日の 聖ペトロの 使徒座の祝日、遅くとも6月末の聖ペトロ・聖パウロの祝日までに最終文書が発表される、ということが、今年の年初には言われていた。

 

(教皇ヨハネ・パウロ二世は、1988年6月28日付の使徒憲章『Pastor Bonusパストール・ ボヌス』で、 ローマ教皇庁の改組を発表した。この一覧表は、その後の多少の改組も加え、作成した ものである。 教皇庁は、国務省、省、裁判所、評議会、事務局、諸機関からなっている)

 

*バチカン改革の新使徒憲章は既に教皇の署名を終えている

 だが、新型コロナウイルスの世界的大感染の影響を受けて、現在メンバーが6人となった枢機卿顧問会議は、2月の第33回会合以後、開催予定の中止を余儀なくされ、発表のスケジュールが大幅に狂っている。

 だが、バチカンの情報筋によると、新使徒憲章『Praedicate Evangelium』は完成し、教皇フランシスコが既に署名を終え、主要言語への翻訳作業に入っている。翻訳が完成すれば、新使徒憲章は正式に公開される、という。

 ローマは今、夏の間ただ中にある。通常であれば、バチカンの主要文書の発表や重要なイベントを始める時期ではないが、しかし、新使徒憲章の決定、発表は通常の教皇の”業務”ではない。そして、新使徒憲章がいつ発表されようと、それは歴史的なものとなり、影響は多岐にわたると予想される。

 新使徒憲章が実施に移されて、最初の私たちが目にするのは、バチカン幹部の大規模な人事異動だろう。新使徒憲章が定める項目を完全に実行するには何か月、あるいは何年もかかるとみられ、教皇は、その実行を見届けるために、信頼のおける人材を見つけねばならない。

 

*バチカン”閣僚”の20人以上が変わる?

 間もなく、バチカンを拠点に活動する枢機卿20人以上が司教定年=現職の閣僚ポストからの退職の年令=を迎える。このため、あたらな指導者たちの任命が必要となる。

・司教省長官

 まず、教皇フランシスコは、司教省の長官、マルク・ウエレット枢機卿の後任を決めねばならない。ラッツインガ―(前教皇ベネディクト16世)の弟子であるウエレット枢機卿はこの極めて重要なポストに10年いるが、6月8日に76歳の誕生日を迎え、75歳の定年を超えた。

 彼の長官退任は、将来の教皇選挙の候補となる可能性が大幅に低くなる、ということだ。第二バチカン公会議の後の時代、司教が75歳になった時点、あるいはその後まもなくの時点で退任するのが普通のことになった。そして、教皇に選出された全員が、選挙の時点で、司教のポストにあった。

・典礼秘跡省、東方教会省、教育省の長官

 次に、典礼秘跡省の長官を務めているロバート・サラ枢機卿も6月15日で75歳になった。聖ヨハネ・パウロ2世は2001年に、当時あまり目立つ存在ではなかったサラをバチカンに呼び、福音宣教省の次官に任命した。そして、後任教皇のベネディクト16世は2010年に彼を枢機卿にしたことで、バチカン内部の保守派、伝統主義者の重要人物の一人になっていた。

 東方教会省長官のレオナルド・サンドリ枢機卿も76歳で、交替期を迎えている。彼は聖ヨハネ・パウロ2世の治世における重要人物として2007年から現職を務めてきた。ただ、最近、枢機卿団の副団長に選ばれたので、長官を退任しても、バチカンに留まることになるだろう。

 教育省長官も交替するだろう。現長官のジュゼッペ・ベルサルディ枢機卿は今月末に77歳になる。彼はイタリア北部の教区で司教を5年務めた後、前教皇ベネディクト16世の時代にバチカンに来た。

・聖職者省長官、列聖省次官

 また、フランシスコの教皇就任以来、聖職者省の長官を務めてきたベニアミノ・ステラ枢機卿も交替が求められている。イタリアのべ根と地方出身で、南米での豊富な勤務経験を持つベテラン外交官の彼は来月8月に79歳になる。同じ聖職者省の次官、ジョエル・メルシェ大司教も交替となる可能性がある。年初に75歳になっているからだ。

 列聖省の次官、マルチェッロ・バルトルッチ大司教も、10年以上現在のポストにあり、このほど76歳となったため、教皇フランシスコが彼の辞表を受理すると予想される。

 以前、新次官に前教皇ベネディクト16世の個人秘書、ゲオルグ・ゲンズヴァイン大司教を就けると噂されたが、それは教皇が大司教の教皇公邸管理部室長の役職を解く前のことだ。役職を解かれたのは、既婚司祭の実現に反対するサラ枢機卿が出版しバチカン内外に物議をかもしている本の共著者そして、ベネディクト16世が名前を出したことに、ゲンズヴァイン大司教が関わっていることと関係があるようだ。

・バチカン市国の管理者たち、内赦院長

 バチカン市国の管理者たちにも、新たな高位聖職者を選ぶ必要がある。現在の行政庁長官のジュゼッペ・ベルテッロ枢機卿は2011年からこの職に就いており、あと3か月で78歳の誕生日を迎える。総務局長を2013年から務めている大司教フェルナンド・ヴェルジェス・アルザガ大司教も定年だ。2人とも交替となる。

 前教皇ベネディクト16世の最も古い盟友の1人、内赦院長のマウロ・ピアチェンツァ枢機卿も、職務から解放される。枢機卿は、保守派の故ジュゼッペ・シリ枢機卿の薫陶を受けたジェノバ出身だ。フランシスコは2013年の教皇就任直後に、当時、聖職者省の長官だった彼を、通常の5年任期のまだ3年しか務めていなかったにもかかわらず、事実更迭し、現在の職に就けていた。

 

・文化評議会議長、聖ペトロ大聖堂首席司祭

 新使徒憲章が公表された段階で、定年に達するか、定年を過ぎているバチカンの高位役職者で交替するか、あるいは単に退任する者の中には、他に、文化評議会議長のジャンフランコ・ラバージ枢機卿が含まれる。2007年にミラノからバチカンの現職に就いた、この人気の高いイタリア人聖書学者は10月に77歳になる。

 また、2005年に聖ヨハネ・パウロ2世が亡くなるわずか2か月前に聖ぺトロ大聖堂の主席司祭になったイタリア人アンジェロ・コマストリ枢機卿も今年9月に76歳になる。

 

・キリスト教一致推進評議会次官、司教評議会議長の去就も注目

 キリスト教一致推進評議会の次官として2002年から卓越した仕事をしたブライアン・ファレル司教も、すでに76歳だ。教皇がバチカンの全面刷新を考えているなら、彼の辞表を受理するだろう。

 また、司教評議会議長のクルト・コッホ枢機卿はまだ70歳だが、ドイツ語を話すこのスイス人高位聖職者は2010年からこの職を続けている。彼が他のポストに移るか、早期引退するのかも、注目点だ。

*去就が不明の枢機卿も

 すでに定年に達していて、去就がはっきりしない枢機卿が何人かいる。

 四大バシリカの一つ、サンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂の主任司祭、スラニスラウ・リュウコ枢機卿は、7月4日に75歳になった。

 聖ヨハネ・パウロ二世と同郷のポーランド、クラクフ出身で、彼から1987年に司祭に叙階され、彼の手でローマ入りした、いわゆる「ポーランドマフィア」の1人。ローマでは、現在は信徒・家庭・いのちの部署に統合された信徒評議会で、2003年から2016年まで議長を務めた。

 ヨハネ・パウロ二世が好みとした新教会運動の承認にの責任を持つ評議会だったが、それが無くなって、今のポストをあてがわれた。儀礼的な役職からの引退は、従来は異例と考えられたが、教皇フランシスコはこれまでの教皇とは違う。

・教皇の信任熱いラダリア教理省長官は?

 重要ポストの役職定年を過ぎているもう1人の枢機卿は、教理省長官のルイス・ラダリア枢機卿だ。スペイン人イエズス会士は今年4月に76歳になったが、ポストに就いてまだ3年だ。教皇フランシスコは彼を信頼しているようだが、教理省について予定される改革実行のための適任者とする自信があるだろうか?

 サルバトーレ・フィジケッラ大司教の運命もまだはっきりしない。69歳のイタリア人神学者は、2010年に前教皇ベネディクト16世が新福音化推進評議会を新設して以来、議長を務めてきたが、教皇フランシスコは現在、 同評議会の廃止、福音宣教省への機能統合を進めている。しかも、教皇は福音宣教省の長官に63歳のフィリピン人アントニオ・タグレ枢機卿を任命したばかりだ。

*経済評議会の枢機卿8人のうち5,6人も退任予想

 経済評議会を構成する8人の枢機卿のうち、5人ないし6人が退任すると予想されている。年齢が75を超えており、教区の大司教としての職務を終えているからだ。退任が予想される中には、間もなく81歳になる前香港司教・ 湯漢枢機卿も含まれている。他に退任が予想されるのはは、元ローマ司教代理で80歳のアゴスチノ・ヴァリーニ枢機卿、79歳で間もなく引退する南アフリカ・ダーバンのウィルフリッド・ネイピア大司教、78歳の元メキシコ・シティ大司教のノルベルト・リベラ・カレラ、76歳の元リマ大司教のファン・ルイス・チプリアーニ、75歳の元フランス・ボルドー大司教のジャン・ピエール・リカール枢機卿だ。

 米国のガルベストン-ヒューストン大司教で71歳のダニエル・ディナルド枢機卿は、経済評議会の座長で66歳のミュンヘン大司教、ラインハルト・マルクス枢機卿とともに同評議会に残る可能性がある。

*枢機卿顧問団に大司教、司教からの大抜擢も?

 そして当然のことながら、バチカン改革で教皇フランシスコを補佐する枢機卿顧問団も欠員を補充せねばならないが、対象者はまだ枢機卿になっていない者も含まれる可能性がある。そして、誰もが想像しなかったよりも早く、”赤い帽子””を手に入れているかもしれない。

 そのような予想の根拠は、近く開かれるであろう枢機卿会議に備えて15個の指輪を発注したことにある。これもまた、非常に珍しいことだ。(注:新型コロナウイルスの世界的大感染の中で)教会に行く信徒たちが”社会的距離”を保ち、マスクをしなければならない、とされている今であれば、なおさらだ。

 だが、教会法に、”赤帽子のセレモニー”が入念に準備された特別な催しでなければならない、という定めがあるわけではない。

 誰も予想しないような、小さな地味な舞台で、新たな枢機卿を一度のまとめて任命することがあるのか?ーそれは尋常ではないが、ありうることだ。教皇フランシスコの手に負えないことではない。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2020年7月13日