・教皇フランシスコが、バチカン財政改革第二弾の”撃ち方始め”(Crux)

(2020.5.22 Crux Editor John L. Allen Jr.

Opening salvos in Pope Francis’s financial ‘Reform 2.0’

Pope Francis meditates as he celebrates a Mass for the 100th anniversary of the birth of Pope John Paul II, in St. Peter’s Basilica, at the Vatican Monday, May 18, 2020. (Credit: Vatican Media via AP.)

News Analysis

 ROME-迫り来る経済危機の中で、これまでの財政改革の諸措置が思うような効果を上げない事態に直面する教皇フランシスコとバチカン財務当局は今週、”爆弾の破裂”を回避するための新たな措置をとったーバチカンの資産のいくつかを管理運用していたスイスの持ち株会社9社を閉鎖し、金融財政関係のデータ収集担当の部門を配置替えした。

 この二つの措置は、問題解決の決定的な措置には程遠いが、スキャンダルを引き起こし、関係したバチカンの職員5人が犠牲になった、バチカンの財務関係の疑わしい取引が、新型ウイルスの世界的大感染の影響による大幅な歳入減とあいまって、教皇の関心を引いたことを示している。

 19日付けのイタリアの新聞Corriere della Serraは、教皇がスイスのローザンヌ、ジュネーブ、フリブールに拠点を置く9つの持ち株会社を閉鎖しことを伝えた。いずれもバチカンの一部の資産の運用と保有不動産を管理するための会社で、 バチカンとイタリアのムッソリーニ政権が1929年に結んだラテラノ条約に基づいて、同政権がバチカンに対し、1870年に当時のイタリア王国による「教皇領」没収の補償として支払った約1億ドル(現在の価値に換算して約15億ドル)などが原資になっていた。

 そして、翌20日には、教皇が Centro Elaborazione Dati ( CED=データ詳細分析センター)の所管を、これまでの聖座財産管理局から、財務事務局に移された、とバチカンが発表した。このセンターは、バチカン関係の資金の流れの監視と、その財政状況への影響についての評価を担当している。つまり、バチカンがどれほどの金融資産を持っているのか、あるいは少なくとも、いくらの現金を持っているのか、いつでも知ることができる人物が地球上にいる、としたら、それは、このセンターの人々だ。

 これらの出来事の背景には、最近起きた二つの事がある。

 一つは、新型コロナウイルスの大感染が起きる前、バチカンは新たな金融スキャンダルー国務省が絡んだ2億2500万ドルに上る不動産取引が物議を醸していたーと”格闘”していた。事件にからんだバチカン職員5人が最終的に解雇され、バチカンの資金洗浄防止の第一人者と憲兵隊のトップが突如、辞任する、という事態に発展していた。

 もう一つは、イタリアの新聞Il Messaggeroがスクープした、教皇フランシスコと財務事務局長官のために財務事務局が作成した内部報告だ。それによると、バチカンの今年の財政赤字は前年より1.75倍増えて1億5,800万ドルに達する可能性がある、と予測し、維持しきれない過剰な職員への年金積立金の不足などをもたらす新型ウイルス感染拡大による歳入の落ち込みで悪化した脆弱な財政基盤を警告している。

 

 そして、今週明らかになった2つの動きは、この両方に対応しているようだ。

 スイスの持株会社に関して、財務管理局の報告は、バチカンの全ての資産運用を一つの基金にまとめて行うように提言した。そうすることが、運用の透明性を確保し、一つの巨大な基金が小さく分散した基金よりも有利な取引を可能にする、という理論に基づいて、投資収益を増すことができる、という理由を挙げている。

 スイスの持ち株会社の閉鎖は、提言を受け、資産運用の一元化に向けたむけ措置だ。ジュネーブにあるProfima Société Immobilière et de Participations は、ラテラノ条約によってもたらされる巨額の資金運用のために、当時の教皇ピオ十一世の要請の受けたイタリアの銀行家で信徒のベルナルディーノ・ノガラによって1926年に設立された。 (ノガラはバチカンの聖座財産管理局の初代局長となった。)

 バチカンのスイスにおける現在の資金運用額は推定約5000万ドル(約50億円)だが、財務管理局の提言を受けて、9つの持ち株会社は聖座財産管理局の下に、一社に統合されるだろう。

 また、CEDの聖座財産管理局から財務事務局への移管によって、資産管理と、資産管理に対する監視の間に明確な区分がなされ、スキャンダルの再発を避ける手立ての一つとなろう。

 補足説明をするとすれば、今回の具体的な二つの措置は、資産運用業務が聖座財産管理局から財務事務局に移管されて、初めてのものとなった。新設された財務事務局には、初代長官に就任したジョージ・ペル枢機卿が、出身国のオーストラリアで未成年性的虐待容疑で裁判にかけられ、退任を余儀なくされる、という問題があった。

 教皇フランシスコは、2015年と2016年に、ペルのスタイルが財務事務局長官のポストに求められているではない、と疑い始め、財務事務局の業務の一部を聖座財産管理局に戻し、そのことは関係者の間で、改革の当初の展望が死滅したと受け取られた。だが、2018年6月に、教皇の最側近の一人であるヌンツィオ・ガランティーノ司教が聖座財産管理局の局長に就任し、それが、ペルの後を継いだ財務事務局長官、教皇の仲間のイエズス会士、ファン・アントニオ・ゲレーロ神父への教皇の信頼を示す意思表示もされている。

 したがって、今週の二つの動きを読む1つの方法は次のとおりだ。教皇フランシスコは現在、自身が信頼を寄せる人々をバチカンの金融業務に置いており、少なくとも、これらの分野の統合再編、簡素化された資金運用の流れを監視、評価のシステムの確立を含む改革の道筋を開いた。

 とりわけ、中央集権化された投資基金の創設は、ペル前財務事務局長官のアイデアだったが、”ペル改革”の中断で、それが否定されたわけではない。別の人々によって、別の方法で進められはするが。教皇の「改革2.0」がこれからどこに行くかは、時が知らせてせてくれるだろう。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年5月23日