・中国のWHO長期支配が、世界の新型ウイルス感染拡大を悪化させた(BW)

(2020.5.19 Bitter Winter  Massimo Introvigne

 5月12日付けの米週刊誌Newsweekは、中国が今年1月に世界保健機関(WHO)を”説得”して新型コロナウイルスに関する警報を鳴らすのを遅らせ、自国に世界中から輸入した医療資材を備蓄する時間を得た、という米中央情報局(CIA)の報告を入手した、と報道した。

 WHOが1月30日に公衆衛生上の緊急事態宣言を出す前、中国は1月24日から29日にかけて、海外から20億枚以上のフェイス・マスクを購入していた。この数字は、中国の税関当局のデータをもとにしたもので、WHOが宣言を出すのを遅らせたことが、中国をマスクの国際的な市場の支配者にさせ、その価格を支配し、しばしば恐喝ともいえる”マスク外交”で敵と味方を区別する事態を招いた。

 だが、正確に言って、なぜ、WHOがそこまで習近平主席に従順だったのだろうか? 話は、多くの人が考えているよりも、込み入っている。今、世界の注目は、現在のWHO事務局長、テドロス元エチオピア外相に集まっているが、中国がこの機関を支配する動きは、彼が事務局長に選ばれた2017年よりずっと前、今から少なくとも10年前に始まっていたのだ。

*中国のWHO”支配”は10年前から-SARS,法輪功信者の臓器摘出…

 現在の新型コロナウイルス感染の発生から17年前、SARSが世界を襲った。(注:SARSは重症急性呼吸器症候群の英語略称。2002年11月に中国南部の広東省で発生が報告され、その後、感染が北半球のインド以東のアジアとカナダを中心に32の地域や国々へ拡大。2003年7月にWHOが終息宣言を出すまでに8000人を超える感染者が確認された)だが、この時も、中国共産党政府は自国が発生源だという事を認めようとせず、そのために国際的な対応が遅れ、多数の感染者を出した、と批判された。

 2006年には、中国共産党政府が、邪教とする法輪功の信者を捕え、臓器を摘出していることが、国際的な主要メディアで明らかにされ、カナダの元国会議員、デービッド・キルガー氏と人権弁護士のデービッド・マタス氏が、この問題を調査する委員会を結成するなど、国際的な動きが出た。

 このように、中国は、SARSに関する情報を世界各国と共有しないことで、世界を危険にさらし、”宗教犯”と決めつけた人々から臓器を採取するで、”臓器移植産業”を推進したことで、公衆衛生上の国際的な信用を大きく損なった。いずれの問題でもWHOが重要な役割を担い、ことと次第によっては、中国は国際的に壊滅的な打撃を受ける可能性があった。

 だが、中国はタイミングよく対応し、2007年のWHO事務局長選挙に、元香港衛生局長で、WHO事務局長補の陳馮富珍(マーガレットチャン)氏を立てて当選させ、さらに2012年のにも再選させて、WHOに臓器採取の問題やSARSに対する中国の責任を調査させようとする、国際的なあらゆる試みをブロックした。

 

*台湾をWHOオブザーバーから追い出し

 2016年に、中国共産党政府が反対勢力と見なす蔡 英文(ツァイ・インウェン)氏が、台湾の総統に選出されると、陳WHO事務局長は、それまでWHO総会にオブザーバー出席していた台湾を締め出した。

*中国を持ち上げるテドロス事務局長

 2017年には、陳事務局長の後任に、テドロス・アダノム・ゲブレイェススを中国が主導権を握る共同推薦によって、選出するのに成功。テドロスは、中国から多額の援助を受けるなど密接な関係にあるエチオピアの元外相で、事務局長に就任早々、ジンバブエのロバート・ムガベ前大統領をWHO親善大使に任命することで、自身の立ち位置を明確にした。ジンバブエは世界で中国と最も密接な関係にある国の1つ。ムガベは、ジンバブエを独立に導いた人物だが、長期政権の中で独裁色を強め、国際社会から人権蹂躙を批判されており、親善大使任命も国際的な批判を浴びた。

 そして、新型コロナウイルス感染問題に関しての、テドロスの中国と習近平主席への一貫した”賞賛”は傍目で見ても恥ずかしいほど途方もないものだ。今年1月28日に習主席と会談したテドロスは、感染拡大への中国の対応を「中国モデル」と持ち上げ、「有効性、スピード」、そして「透明性」を口を極めて賞賛した。

*WHO宣言出し遅れは、中国の医療資材の海外からの手当て、大量備蓄の時間稼ぎ?

 こうしたWHOの親中国的な態度は、新型コロナウイルスの感染拡大の危機発生の前には、いらだたしくは見えても、差し迫った危険ではなかったかもしれない。だが、危機の発生で、台湾に対するWHOの振る舞いは、重大な問題として浮上した。

 昨年12月31日、台湾は、中国・武漢におけるSARSのようなウイルスによって引き起こされる致命的な肺炎の発生を、WHOに通知するとともに、衛生当局が直ちに行動。同日夜から、武漢からの訪問者の健康状態のチェックを開始するなどの手を打ち、台湾は新型コロナウイルスの感染が深刻化せずに済んだ。

 だた、WHOは台湾からの情報を、正当な理由なしに無視した。中国はその後、この12月31日にWHOに対して、武漢での「非典型的肺炎」の発生を報告したと主張しているが、おそらく中国のメールは台湾のメールの後にWHOに届いたのだろう。いずれにしても、問題は、WHOが事態を軽視したことにある。

 テドロス事務局長は2020年1月になっても、新型コロナウイルスの世界的感染に対して、緊急事態宣言を発するようにとの各方面からの要請に、抵抗を続けた。 1月22日に至っても、彼は依然として「将来的には国際的になる可能性はあるが、まだ国際的には問題ではない」と言い続け、ようやく緊急事態宣言を発した1月31日の会見でも「この宣言により、中国に挑戦するつもりはない… WHOは、中国が新型ウイルスを封じ込めるられると、全面的に信頼している」と、あくまで中国擁護の姿勢を強調した。

 Newsweekは、WHOが緊急事態宣言を遅らせたのは、単なる無能のためでも、中国共産党の政治宣伝を助けるだけでもなく、今後何が起こるかを見越した中国が、海外からの大量輸入を含め、マスクなど感染対策の医療資材を備蓄する時間を稼ぐのが狙いだった、とCIAがみている、としている。

*WHOの中国追随で、失われずに済んだ無数の人命が失われた

 いずれにしても、フランスの有力新聞LeMondeが述べているように、新型コロナウイルスの世界的大感染に関するWHOのあらゆる対応について「中国が節回しとタイミングを設定した」のだ。

  WHOが平時において全体主義国家の代弁者として振る舞うのは、十分に悪いことだ。現在のような地球規模の致命的な危機の中で、WHOが中国政府と中国共産党に服従したことで、世界の無数の人命が失われた。国際社会は、WHOの役割とその中国との結びつきを見直すことを、これ以上、後回しにはできない。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

*Bitter Winter(https://jp.bitterwinter.org )は、中国における信教の自由 と人権 について報道するオンライン・メディアとして2018年5月に創刊。イタリアのトリノを拠点とする新興宗教研究センター(CESNUR)が、毎日5言語でニュースを発信中。世界各国の研究者、ジャーナリスト、人権活動家が連携し、中国における、あらゆる宗教に対する迫害に関するニュース、公的文書、証言を公表し、弱者の声を伝えている。中国全土の数百人の記者ネットワークにより生の声を届け, 中国の現状や、宗教の状況を毎日報告しており、多くの場合、他では目にしないような写真や動画も送信している。中国で迫害を受けている宗教的マイノリティや宗教団体から直接報告を受けることもある。編集長のマッシモ・イントロヴィーニャ(Massimo Introvigne)は教皇庁立グレゴリアン大学で学んだ宗教研究で著名な学者。ー「カトリック・あい」はBitterWinterの承認を受けて記事を転載しています。

 

 

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2020年5月21日