・中国の人権問題に沈黙続ける教皇フランシスコに高まる世界の圧力(Crux)

(2020.8.1 Crux  SENIOR CORRESPONDENT Elise Ann Allen

Pressure on Francis increases over human rights in China

中国・湖北省のHuangtugang(黄土岗镇)のカトリック教会に翻る中国国旗 (2018年に撮影・Credit: Thomas Peter/Reuters via CNS.)

 ローマ発 –中国政府が香港の実質支配を強化し、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒弾圧のニュースを世界が耳にし続けている中で、教皇フランシスコがこの問題について語るのを避けていることに対して、国際社会の圧力が増している。

*米外交専門誌に掲載された記事「教皇は対中国でひどく誤っている」

 抑圧された人々の擁護者として世界でも際立った存在である人物の沈黙は、べネディクト・ロジャース氏が米国の有力外交専門誌「 Foreign Polic」に載せた記事の主題になった。彼は、Christian Solidarity Worldwide(キリスト教徒世界連帯)の東南アジア班のリーダーで、 Hong Kong Watch の創立者でもある。

 その記事で、彼は、自分は教皇フランシスコに共感を持ち、カトリックに改宗した信徒だが、「教皇が中国への対応でひどく間違っている」ことに当惑している、と語った。

*ユダヤ人組織の代表、イスラム教の英国の有力者、そしてボー枢機卿も…

 そして、今月初めに在英・中国大使あてに中国政府の新疆ウイグル自治区でのイスラム少数民族への扱いをナチのユダヤ人大量虐殺になぞらえる抗議の文書を送った、英国ユダヤ人代議員会のマリー・ファン・デル・ジル会長などなど高名な人々の声明を引用。

 その中で、ファン・デル・ジル会長は中国大使あての文書で、女性たちの不妊措置強制、強制収容所への収監など新疆ウイグル自治区で起きていると伝えられている事と、ナチが支配するドイツで起きたことの類似点を挙げた。英国のイスラム教徒のリーダーで、過激派に反対の立場をとるマージッド・ナワズ氏は、新疆ウイグル自治区でのイスラム教徒に対する中国政府の行為に抗議してハンガーストライキを行い、英国による対中国制裁を議題とするよう英国議会に求めている。

 また、アジア・カトリック司教協議会連盟会長のチャールズ・ボー枢機卿は先頃出した声明で「中国で、ウイグル人イスラム教徒が、現在の世界で最悪の残虐行為にさらされている。国際社会に、実情調査を強く求めたい」と訴えている。

*中国問題に限って沈黙する”人権を守る”教皇

 ロジャース氏は記事の中で、これまでのところ、イスラム教の代表者たちからウイグル人イスラム教が受けている残虐行為に対する非難は出されておらず、英国国教会のトップであるジャスティン・ウェルビー・カンタベリー大司教からも声明はないが、何よりもショックなのは、「抑圧されている人々のために率直に発言している教皇フランシスコが、この問題に沈黙していること」と述べた。

 教皇フランシスコは、これまで、ミャンマーで悲惨な状態に置かれているロヒンギアのイスラム教徒のために意思表示をしている。 2017年12月にミャンマーを訪問された際、同国の政府関係者など刺戟しないように「ロヒンギャ」という言葉を使うのを避けたが、隣国のバングラデシュに入国到着して間もなくロヒンギャ難民の代表たちに会い、「ロヒンギア」を口にされた。

 2015年には、20世紀初頭のトルコによるアルメニア人の大量虐殺の100周年を記念するミサで、教皇は「ジェノサイド」という言葉を使い、トルコ関係者を立腹させるのをためらわなかったーこの発言に反発したトルコ政府は、駐バチカン大使を一時召喚する措置を取った。 さらに、教皇はシリア、イエメン、ウクライナ、ナイジェリアでの紛争の早期終結を繰り返し訴え、先月、イスタンブールのアヤソフィア博物館をイスラム教のモスクに戻すトルコ政府のの決定に、強く遺憾の意を表明している。

*ウイグル人イスラム教徒、香港市民、そして中国の聖職者たち…

 だが、新疆ウイグル自治区でのウイグル人イスラム教徒に対する残虐行為、香港に対する国家安全維持法の施行、中国本土全域でのカトリック”地下教会”の司教、司祭などへの脅迫など、中国政府の動きに国際社会の注目が高まっているにもかかわらず、けていることにでの新しい安全保障法の強制、およびカトリック聖職者への嫌がらせが続いているにもかかわらず、教皇が沈黙を続けていることが、余計に目立つ。

 中国が国際社会から非難されているのはそれだけではない。最近になって、人身売買、特に近隣国や遠くアフリカからも結婚相手とする目的で女性を買い入れている、と強い批判されている。米国の国務省は、2020年の人身売買報告で、中国を南スーダン、北朝鮮、シリア、アフガニスタン、エリトリア、ニカラグア、ベネズエラ、ロシアなどと並んで最悪の国に分類した。。

*”結婚”目的の人身売買も問題になっている

 米国の人権監視団体「Human Rights Watch」が最近出した報告書 “Give Us a Baby and We’ll Let You Go: Trafficking of Kachin ‘Brides’ from Myanmar to China(我々に赤ん坊をくれれば、お前を解放する-ミャンマーから中国へのカチン族の『花嫁』の人身売買)”によると、2017年に少なくとも226人の女性がミャンマーから中国に人身売買され、ミャンマー政府、毎年、中国から戻ってくる約100〜200人の人身売買被害者の女性たちを助けている、という。 今年初め、カンボジア内務省は「2019年に国内から少なくとも112人の女性が中国に『花嫁』として売られた」と報告した。

  「Women’s Rights Without Frontiers」の創設者である 女性の権利活動家、レジー・リトルジョン氏は、こうした中国における性的奴隷に関する数字を「胸が張り裂けるようだ」と表現した。「男児選好と強制的な妊娠制限の致命的な組み合わせによって、女児は選択的に中絶され、捨てられ、医者から無視されています… その結果として生じる”結婚市場の崩壊”が、性的人身売買に目をつぶり、時にはそれを助長する中国政府の動きに繋がっています」。また、新疆ウイグル自治区でのウイグル人イスラム教徒に対する中国政府の行動を非難し、その残虐行為には「強制労働、強制中絶、強制不妊」が含まれている、と述べた。

*中国は暫定合意で、教皇の沈黙を“買った”

 ロジャース氏は記事中で、これらすべての問題に関する中国に対する教皇沈黙は「バチカンと中国政府の司教任命に関する2018年の暫定合意がもたらしたものだ」とし、同合意は来月の期限切れを前に延長交渉に入っているが、「それによって、中国は、教皇の沈黙を『買った』のだ」と言い切った。交渉が続いている間は、非難を公けにすることはありえないからだ。 多くのバチカン専門家は、暫定合意の結果、少しの変化もない-投獄されている聖職者は釈放されておらず、暫定合意が結ばれた後のこれまで二年の間にさらに何人かの聖職者が逮捕、あるいは拘禁されているーと指摘している。

*教会の指導者たちは今、「目覚める」時

 記事の中でロジャース氏は、「今や、教皇フランシスコやウェルビー・カンタベリー大司教などキリスト教のリーダーたちが「目覚め」、現在に至る自分たちの立場を見直す時だ」と訴えている。

 「リーダーたちは、自分たちの信仰の教え-人間の尊厳、自由、正義-を信じていることをはっきりと示す必要がある。それは、残忍な政権とのいかなる疑わしい取引よりも重要なことだ。彼らは”信じやすさ”を捨て、人間の命と尊厳については妥協しない、と言う必要がある」。そして、ヒトラーと対峙し、ナチの強制収容所で処刑されたプロテスタントの牧師、ディートリッヒ・ボンヘッファーのこのような言葉を引用した-「悪を前にした沈黙はそれ自体が悪だ… 話さないことは、話すこと、行動しないことは、行動することだ」。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年8月3日