バチカンとの司教任命に関する暫定合意はバチカン側が2年延長を提案しているにもかかわらず、中国側からの公式な回答は明らかにされていないが、そうした中でも、国内の宗教活動の規制・監督の権限を持つ中国共産党が地方当局を通じで、党の管理・統制に服したカトリックの聖職者に対し、中国国内の”革命的遺産”への訪問や愛国教育に関する講座など、教化活動への参加を強制している。
江蘇省東部の徐州市のカトリックの司祭と修道女たちは10月1日、中国建国71周年記念行事の一環として、隣接する山東省の台児荘革命教育基地で行われた記念イベントに参加を強制された。
地元のニュースメディアによると、参加者は1938年に日中戦争で「中国初の大勝利」をおさめた台児荘の戦いの現場を訪れ、「革命的な殉教者の銅像に敬意」を表した。また、「革命的殉教者の遺産を受け継ぐこと」と「国と宗教を愛し、カトリックの”中国化”の目標を堅持し、社会主義の核心的価値を実行すること」を誓った。民族宗教局の幹部は司祭たちに、今回の行事での経験を活かし、「愛国心の前向きなエネルギーを積極的に信徒たちに説く」よう要求した。
*浙江省杭州市の蕭山地区のCPCA職員とカトリック教徒が台児荘大戦紀記念館に。
河南省の鄭州の民族宗教局によると、同市の中国天主教愛国協会(CPCA)と国家天主教会管理委員会(NACCCC)の司祭を含む20人以上が10月1日前に、「赤い遺産群」を訪れた。その1つは、鄭州市外の赤旗運河で、1950年代後半から60年代前半にかけての毛沢東の大躍進運動の中で開始された灌漑プロジェクトだ。
習近平主席は、この運河を「党の貴重な精神的な富」と呼び、地元の信者たちの訪問を義務とした。訪問中に、信者と司祭たちは、毛沢東の言葉ー「天国との戦闘は無限の喜び、地球への挑戦は無限の喜び、そして人類との奮闘は無限の喜びである」とともに、その無神論と自然の制御についての話を聞いた後、”記念写真”の撮影に応じた。
地元のカトリック教徒はBitter Winterの取材に対し、宗教局の職員が聖職者に対して、「訪問の印象を書き留め、教会での活動の中で信徒たちと共有」するよう求めた、と述べ、「こうした行事は、中国共産党のイデオロギーを押し付けられているのを感じます。邪悪で、本当に不親切です」と、行事に参加を余儀なくされた河南省のある司祭は語った。
河南省の天主愛国協会(CPCA)のメンバーのある司祭は「聖職者を”赤い行事”に参加させることは、共産党を賛美する歌を歌わせることに等しい… 私たちがこのような命令に従うのは、私たちの教義に反します」と批判し、 「習近平・主席が政権を握った後、人々の宗教的自由を剥奪する多くの規制を導入しました。この悪魔のような政府と折り合いをつけていくのは容易なことではない。それが、私がCPCAを離れようとする理由です」と述べた。
鄭州のカトリック信徒は、修道女が革命的遺産を訪問するのを余儀なくされている、と聞いてショックを受けた、と述べたー 「習近平は神に反対している。彼は世界中のすべての人々に彼の政権を崇拝することを望んでいるのです」。別の年配の信徒は、「共産党はカトリック教徒を迫害し、それでも私たちに党を愛するように求めています」と、現在、党が進めている信徒教化に不満を語った。
*四川省政府の幹部と宗教団体の代表は、9月29日に省都、成都で開かれた中国建国71周年を記念した「あなたの国、宗教、故郷を愛する」行事に参加した*
中国天主愛国協会(CPCA)に所属する浙江省東部の司祭は「中国共産党の”教義”を学ぶように、との信徒たちへの圧力が高まっています」と述べた。 今年7月、彼は1956年に設立された党幹部の中央学校である社会主義研究所の地元支部での講座に出席を求められた。出席者全員に感想文を書くことが義務付けられ、チェックのために党の統一戦線工作部に送られた、という。
やはりCPCAに所属する山東省の教会のある司祭は、Bitter Winterの取材に対して、彼と他の聖職者が今年6月、”革命的な殉教者”の墓地を訪れ、7月には習近平の演説を研究するために集められた、と語った。
「共産党はプロパガンダを通じて成長し、繁栄しているのです」と、愛国的な教育講座への出席を余儀なくされた山東省の別の司祭は言う。
司祭とシスターは、中国天主愛国協会(CPCA)あるいは国家天主教会管理委員会(NACCCC)の命令を受けた場合、さまざまな愛国的活動に参加する義務がある。河南省のある司祭は「党に異議を唱えたとして非難されたり、参加を拒否すると、問題が起きる可能性がある」とし、「さらなる抑圧から教会を守るためにも、参加をあえて辞退する人はほとんどいません。習近平は、聖書を含め、すべての宗教を中国化しようとしています。この独裁政権の下で、私たちは静かな怒りを込めて、窒息しているだけです」と苦悩を語った。
過去数年、中国共産党の管理統制に従う教会では国旗掲揚が義務付けられてきた。鄭州市の二七区にある明光路カトリック教会は、バチカンと中国の暫定合意2周年を記念して、9月に国旗掲揚の式典開催を義務付けられた。「教会の事務所の前にあるイエスの聖心の像は取り壊され、当局の命令で中国国旗に置き換えられました」と、ある信徒は悲嘆。 「この1年間、教会は原形をとどめないほど、変えられてしまった… 当局は、徐々に教会を党の組織に変えようとしているのです」と訴えた。
「当局の言うことを聞かなければ、常に私たちの落ち度を見つけようとし、ミサを捧げるのを妨げ、聖堂を破壊するかもしれません」と別の信徒は力なく嘆いた。
*江蘇省の省都、南京市秦淮地区のカトリック教会でも、愛国教育の一環として9月23日に中国国旗掲揚の式典が行われた*