・ロシア正教のキリル総主教「西側がロシアの弱体化を狙って起こしたもの」ープーチンへの戦争停止の働き掛け要請を拒否(Crux)

(2022.3.11 Crux  Senior Correspondent   Elise Ann Allen)

ローマーロシアのウクライナ軍事侵略で多くの人々が傷つき、苦しむ中で、その張本人であるプーチン大統領に影響力を持つロシア正教会の指導者、キリル総主教に対して、キリスト教の指導者たちがそろって、戦争の即時中止を働きかけるよう求めている。

 これに対して、キリル総主教が10日、世界教会協議会(WCC)のイアン・サウカ事務局長代行に書簡を送り、サウカ事務局長代行から2日付けで受け取った書簡にあったプーチン大統領への働き掛けの要請には直接答えず、「西側諸国がロシアの安全保障上の懸念を無視し、ロシアを弱体化させるために、ウクライナとの間の緊張をかき立てた」と非難した。

 この書簡で、総主教は「ロシア正教会は1961年にWCCに加盟している」としたうえで、1950年のWCCの常任委員会で合意したトロント声明を引用する形で、「WCCは、一つの主張や一つのグループの道具になることはできない… メンバーの教会は互いの連帯を認識し、必要に応じてお互いに助け合い、兄弟的な関係に相応しくない行動を控えなくてはならない」と主張した。

 さらに、WCCのメンバーは、世界のキリスト教徒の連帯と支援とともに、世界の共同体社会における「正義、平和、そして被造物の誠実さ」に責任を共同で負っている、とも指摘した。

 そして、現在のウクライナにおける”conflict (紛争)”に言及して、「それが、世界中のキリスト教徒の”思い”と”祈り”の核心にあるが、この紛争は今日始まったものではない」と述べ、「私が確信しているのは、紛争が、キエフ大公国の一つの洗礼盤から生まれ、共通の信仰、祈りを持ち、歴史的運命を共有するたロシアとウクライナの人々から起きたのではなく、ロシアと西側諸国の誤った関係がもたらしたものだ、ということだ」と言明。

 「1990年代までは、ロシアの安全と尊厳が守られる、と約束されていた。だが、時が経つにつれて、ロシアをあからさまに敵視する各国の軍事力が、我々の国境に迫って来た。年を追うごとに、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は、武力行使についてのロシアの懸念を無視して、軍事的なプレゼンスを構築してきた。さらに、ロシアを封じ込めようとする政治勢力は、それ自分が戦うのではなく、ロシアとウクライナという兄弟間で憎悪をかき立てた」と、プーチン大統領と同じ論法で西側諸国を非難した。

 さらに、キリル総主教は書簡の中で、ギリシャ正教のバーソロミュー・コンスタンディヌーポリ総主教について、自分の意向に反して、「2018年にウクライナ正教会・キエフ総主教庁と少数教派のウクライナ独立正教会を統合させ、ウクライナ正教会にした、と批判。

 また、ウクライナの人々が2014年に、当時の親ロシア派の大統領を大規模な抗議活動によって追放した時、当時のWCC事務局長が「多くの無実の命を深刻な危機にさらしている」とし、「集団的、原則的対応が必要な多くの緊急課題に、今、あるいは将来、国際社会の対応力を弱体化させるリスク」について懸念を表明した、と指摘。

 その後まもなく、ロシアはウクライナ領のクリミア半島を武力で併合し、ウクライナ南東部のドネツクとルガンスクの分離主義者を支援したことからさらなる紛争が発生した。キリル総主教は「この紛争は、ウクライナ政府がこの地域の人々にロシア語を話すことを違法にしたのに対し、ロシア語を話す権利を守り、歴史的、文化的伝統の尊重を求める人々によってなされた」人々によって行われたもの。何よりもまず、ロシアの弱体化を目的とした大規模な地政学的戦略の一部になっていた」と、プーチンの武力行使を正当化する説明をした。

 そして西側初稿はじめ多くの国々が、不法な武力侵略を停止するよう求めて、ロシアに対して経済制裁を実施していることに対しては、「こうした行為は、ロシアの指導者を罰する効果はなく、全ての人に有害だ。そうした国々は、ロシアの政治、軍事の指導者たちだけでなく、すべてのロシアの人々に苦しみをもたらそうとする、狙いをこのことで明らかにしている」と批判。「”Russophobia(ロシア嫌悪症)”は前例のないスピードで西側世界に広がっている」とし、「神が、正義の基づく、永続的な平和のすみやかな確立を助けてくださるように」と祈った。

 キリル総主教の今回の書簡は、プーチン大統領のウクライナ軍事侵略決定をあからさまに支持するような,”新ロシア派”の立場を明確にする総主教に対する批判の高まりの中で出された。

 10日の書簡に先立つ6日、「赦しの主日」のミサ中の説教で、キリル総主教は、ウクライナ東部ドンバス地域の分離主義者を支援し、「同性愛者を支持するパレードを禁止する国々に対して西側の匿名機関が虐殺キャンペーンを準備している」という虚偽に満ちた指摘さえもした。また、9日のミサでの説教では、ロシア人とウクライナ人は一体だ、とし、ロシアが軍事力を強化していることを恐れ、弱体化させるために西側がウクライナに武器を供給している、とも非難している。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)
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2022年3月12日