・バチカン外務局長、中国との暫定合意を擁護「何かをせねばならない」(Crux)

(2020.10.7 Crux Editor John L. Allen Jr.)

 ローマ発–司教の任命に関する中国との暫定合意を更新しようとするバチカンの方針に対し、米国のポンペオ国務長官などから強い批判が出ているが、バチカン国務省のポール・ギャラガー外務局長は6日、Cruxとのインタビューで、今月末で期限を迎える暫定合意の更新に楽観的見通しを示すとともに、「何かをせねばならなかった」ので(注:合意更新から)逃れるわけにはいかない、との考えを強調した。

*今月末までに中国側から返答なければ、暫定合意は失効、そうならないと信じる

 バチカンが、司教の選定に重要な役割を中国に与えなかったら、「私たちは、すぐにではないにしても、十年経つうちに、教皇と共にある司教は、ほんのわずかになってしまうでしょう… 今始めないなら、先のことになってしまいます」と外務局長は語った。

 そして、バチカンは中国側に、暫定合意ーその内容は、暫定的な取り決めであるため、引き続き公表されない)の更新、二年延長を提案したことを確認した。さらに、「月末までに中国側から返答がない場合、暫定合意は失効することになる」が、「中国側が提案を受け入れる」と信じる理由があることを示唆。「本格的な取り決めに進む前に、まず試しにやってみることです」と述べた。

 さらに、「私たちは、暫定合意の条件の範囲内でバチカンとの対話を継続することを中国当局が望んでいると楽観しています」とし、適切な条件のもとで、最終的に正式合意になることが「強く望まれます」と強調した。

*暫定合意のままの延長を提案したのは、成果に十分には満足していないから

 バチカンが2年間更新を”暫定合意”にとどめる形で中国側に提案した理由のひとつは「私たちは99%は満足しておらず、多くの約束がされたにかかわらず、多くのことが私たちの望んでいたようになされてなかったから」とした。

 だが、「バチカンが中国側に譲歩したことで、ほとんど得るものはなかった」とする米国務長官たちの批判に対して「実際に、具体的な成果も上がっている」と主張。その成果として、1950年代以来初めて中国のすべての司教たちを教皇と交流させることができた、という事実、そして中国当局が教皇に司教たちの任命について控えめな発言を認めている、という事実を挙げ、とくに最後の言葉は非常に注目に値する」と指摘した。「実態以上に誇張するつもりはありませんが、パロリン国務長官がよく言われるように、それは『隙間から射し込む小さな光、窓』です… 英語で表現すれば、『It’s getting your toe in the door(足がかりをつかみつつある)』ということになるでしょう」

 これに対し、外務局長は「そうした批判は傾聴に値すると思います。批判は理解できます」としつつ、バチカンは中国との外交関係がなく、使うことのできるカードが他にない小国としては、関わりを続ける方法を見つけねばならないのです… 強い影響力のある国は、中国との関係で見解を示させたり、要求を出したりするために、使える手段をたくさん持っていますが、バチカンにはそうした手段がない。あるのは対話だけなのです」と理解を求めた。

 そして、「暫定合意がなかったら、中国とのコミュニケーション手段はまったくない、と言ってもいい… 暫定合意は、中国に他の問題を提起する機会があることも意味します。仮に私たちが対話から完全に離れるなら、その機会はなくなります。北京にバチカンは外交使節団を置いていません。香港には代表を置いていますが、それはほとんど教会レベルでの交流で、政治的交流ではなく、何も外交的成果は残されていない」と強調。

 「現時点では、あまり多くを得ているとは言えませんが、私の上司の1人である(イタリア人の)アンドレア・コルデロ・ランザ枢機卿は何年も前、私が新人外交官だった時に、ウルグアイでこう言われましたー『何かあると何もないの間には大きな違いがある』」と述べた。

*コロナ大感染の影響は克服できている

 新型コロナウイルスの世界的大感染の交渉への影響については、感染防止のための海外旅行制限で、中国側の代表と実際に会って協議する会合が不可能になっているが、「在イタリアの中国大使館を介して、協議は非常にうまくいっています」と述べた。

 また、バチカンが、中国側に対して暫定合意の履行が不十分と考えているのは、教皇の司教任命を承認するペースが遅いことを除いて、司教候補者の審査の厳しさと、中国政府の約束と地方レベルの履行とのギャップの二点。「ある程度の進歩を遂げていると思いますが、難儀しているのは、司教候補の名前を提示した後、中国側の[評価]が非常に厳しい、ということ」。 「通常は、世界中にいる(教皇大使)と連絡を取り、相手と話をしますが、中国のように現地に常駐者がいない場合、それが難しい。書類の交換だけで約束ごとをするのは、非常に困難なのです」と苦労を語った。

*中国側の問題は、中央政府の約束が地方政府レベルで実行されにくいこと

 そして、中国の場合、中央政府の取り決めを、地方政府レベルで実行に移す、という問題を克服することについて、楽観的には見ていない、とし、「中央政府と交渉する際、交渉担当者はよく、『はい、それは合理的な提案ですね。それで行けます』と言いますが、そうした前向きの答えを現地の地方政府の実行に移すのは、必ずしも容易ではありません」とも述べ、さらに続けた。「国務長官のパロリン枢機卿の立場は常に『長く、困難で、時には不確実なプロセスになるだろう』というものでした… しかし、そのプロセスから離脱する、という強力な根拠はないと思います」。

 そうした困難にもかかわらず、暫定合意を正式な協定にすることについては、「合意内容の適用の問題のいくつかを解決できれば、望ましいことだと思います… 私たちはあくまでも、”オープンマインド”を保ちます」と希望を捨てていないことを強調した。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2020年10月8日