・バチカンの不動産投資を巡るもう一つの裁判ー”ブダペスト宮殿”での敗北の教訓は…(Crux)

(2022.3.17 Crux  Editor John L. Allen Jr.)

 ローマ–プーチンのロシアによるウクライナ軍事侵略に世界の耳目が集まっているが、そうした中で、バチカンでは「世紀の裁判」という名の激しい戦いが繰り広げられている。”戦場”はバチカンの裁判所。教皇の名の下に行動する検察官が相手にするのは、かつてはバチカンで教皇の懐刀ともされてきた前列聖省長官、アンジェロ・ベッチウ枢機卿を含む10人の被告だ。

 裁判官3人の合議の結果、弁護側の裁判手続き上の異議申し立てすべてが、3月1日に却下され、これまで数か月にわたって滞っていた審理が、再美動き出すことになった。検察側にとって、大勝利というわけだ。ベッチウ枢機卿が証言台に立つ日も近くなった。

 だが、検察側にとって良いニュースばかりというわけではない。最近の挫折の舞台となったハンガリーでの裁判は、現在のバチカンでのこの裁判、ロンドンにバチカンが保有していた不動産を巡るスキャンダルと不気味に似ている。

 バチカンで裁判になっている、ロンドンでの不動産を巡るスキャンダル。その始まりは、数年前、バチカンが、ロンドンの高級商業・住宅街のチェルシー地区にある土地・建物に約4億ドル(420億円)もの投資をした。高級ブティックや住宅の入る建物に改装して、投資額を上回る賃貸収入を得ようという考えだったが、思惑が外れて多額の損失を被ることになった

 この問題物件への投資は、バチカンの担当部署の承認を得てなされたという事実にもかかわらず、バチカンは、イタリア

Budapest case asks: Is the Vatican’s money problem fraud, or incompetence?

の金融業者とバチカン内部の腐敗した職員が関与する詐欺に遭った、と主張。その意向を受けて、バチカンの検察当局が公判に持ち込んでいるというわけだ。

 だが、この裁判と並行した別の問題案件がある。

  2013年、バチカンで預金・送金・投資を担当する宗教事業協会、いわゆる「バチカン銀行」が、マルタの投資機関、Futura Fundに約1900万ドル(約20億円)を払い込み、Futura Fundは子会社を通して、ハンガリーのブダペストにある証券取引所のかつての建物(”ブダペスト宮殿”として知られる)を取得する目的で、ルクセンブルグの不動産保有会社に現金を支払った。

 だが、ロンドンの不動産投資と同じように、取引は失敗し、バチカン銀行が多額の損失を被り、取引が関係するマルタ、ルクセンブルグ、ブダペストの裁判所に救済の訴えを起こした。

 バチカン銀行は、Futuraがブダペスト宮殿の取引価格を銀行側に不当に高く提示して払い込ませ、実際の購入額との差額、約1300万ドルを違法に手にした、と主張している。だが、いずれの裁判所も、バチカンが主張する詐欺行為を立証するに至っておらず、救済の要件を満たしていない、との判断を示した。

Budapest Stock Exchange Palace. (Credit: Wikimedia Commons.)

 バチカン銀行は「陰謀と疑わしい取引の威嚇的なネットに巻き込まれた」として、ブダペスト地方裁判所に、ブダペスト宮殿の所有者であるTKKFTがこの物件を他者に売却するのを差し止めるよう申し立てたが、却下され、さらに、TKKFTの弁護士への弁護費の支払いを命じられた。

 Futuraのスポークスマンは声明で、「当社は、バチカン銀行が主張する不正行為すべてを強く否定する。物件への投資は(バチカン銀行)自身の外部アドバイザーと幹部の話し合いにより、完全に承認された通りの条件で行われたものだ」とのべ、さらに、当時のバチカンの財務・金融の責任者だったジョージ・ペル枢機卿が2017年に、Futuraと和解交渉をしたが、バチカン当局が交渉を妨げた、と主張した。

・・・・・・・

 しばらく前、妻と私はローマで不動産を購入しようと考え、相手の会社に手付金を払った。だが、その後、私たちは気が変わって、購入を取りやめ、手付金を没収された。それは私たちが署名した契約にそう書いてあったからだ。さらに、所有者からこの不動産の売却を委託された不動産業者から、「売却の機会が失われたので、所有者に対して、この保証金と同額の賠償金を支払わねばならなくなった」と没収された保証金と同額の支払いを求められた。だが、私たちは、契約でそうなることを知っていたので、手付金を取り戻す訴えは起こさなかった…。

 これと同じように、ブダペスト宮殿の件も、バチカン銀行が支払った金は取り戻せない、ということだ。

 現在行わている裁判がこれと同じ結果になるとは限らないが、「バチカンが疑わしい金融ブローカーとベッドに入り、彼らが提案する契約文書に署名し、最終的に損失を被ってしまう」というパターンの繰り返しとなる可能性を示唆している。もちろん、それは苛立たしいことではあるが、これまでのところ、ロンドンまたはブダペストの取引を検討したバチカンの外部の裁判官のほとんどは、犯罪者の存在を認めいない。

 今月後半にバチカンでの裁判が再開されが、今後の展開については、悲観論、楽観論が相半ばしている。教皇フランシスコが、こうした問題への対応を可能にし、”バチカン文化”に直接挑戦しているのは心強いことだろうか?それとも、「教皇と担当チームが、バチカン内部の管理・監督体制の不備と欠陥に向き合う代わりに、バチカン外の裁判所が詐欺とは判断できないとした案件を犯罪行為の事案としようとしているのは、厄介なことだろうか?

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年3月18日