・バイデン新大統領就任で米国のカトリック教会との関係は(LaCroix)

(2021.1.21 LaCroix Malo Tresca | United States)

 ジョン・F  ・ケネディ以来、米国史上二人目のカトリックの大統領に就任したジョー・バイデン。そのカトリック教会にとっての意味などについて、このほど新大統領についての著作を出版したマッシモ・ファッジオリ・ビラノバ大学教授に話を聴いた。ビラノバ大学は米フィラデルフィア近郊にあるペンシルバニア州最古のカトリック大学で、ファッジオリ教授の専門は神学と教会史。以下はその一問一答。

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問:大統領選挙でのバイデン勝利は、米国のカトリック教会にとってどのようなインパクトを与えるものでしょうか?

答:新しい時代の始めるを告げるものかも知れません。ケネディから約60年、バイデンは米国の歴史で二人目のカトリックの大統領となりましたが、ケネディの1960年代の米国とは極めて異なった環境の中での大統領選の勝利、大統領就任です。

 1960年代の米国では、カトリック教徒は少数派であり、ケネディのホワイトハウス入りは、政界にカトリック教徒が完全に受け入れられた象徴的な出来事。カトリックの政治家たちは自分の発言に細心の注意を払わねばなりませんでした。だが、現在では、カトリック教徒ははるかに多く見受けられます。政治の世界に幅広く進出し、米国議会下院、最高裁判所などなどで、重要なポストを占めています。

 これまでのカトリックの政治家たちは、信仰を隠すことをしないまでも、表に出さず、慎重に振る舞う傾向がありましたが、バイデンは、選挙中も信仰をしばしば表に出す、熱心で、実践的なカトリック教徒です。

 そして、今回の大統領選挙は、米国の民主主義にとって極めて危機的な状況の中で行われた、重要な選挙であり、また、米国の教会内部の深い分裂の時期に行われたものでもありました。

問:そのような、ひどく二極化した教会の裂け目が、新大統領の下で、さらに広がる恐れはないのでしょうか?

答:米国のカトリック教徒は、二つの政党支持で分かれているだけでなく、妊娠中絶の是非をはじめ、LGBT(Lesbian, Gay, Bisexual, Transgender の頭文字をあつめた造語で性的少数者の総称の一つ)の権利、信教の自由、環境問題、移民、人種的正義など、幅広い分野にわたっています。
大統領は米国の全国民のための大統領になることが求められており、バイデンは「すべてのカトリック教徒ためのカトリックの大統領」になることも、要求されます。これは難しい仕事です。選挙中、彼と米国の司教たちとの関係は緊張していました。

問:緊張関係はどのようにして修復可能でしょう?

答:ここ数ヶ月、特に中絶に対する彼の立場のために、一部の司教たちはバイデンに対して敵対的でした。フィラデルフィア名誉大司教のチャールズ・チャプットのように、交わりを断つように彼に求めた司教もいます。昨年11月半ばには、全米司教協議会の会合で、「妊娠中絶支持者のホワイトハウス入り」に対応する臨時の委員会の設置が話し合われました。彼らはカトリックの大統領と話すのが、難しいと感じています。

 1960年代にもケネディの大統領選での言動に不満を持っていた司教が何人かいましたが、そのことを公けにするのに疑問の余地はありませんでした。今は、そのようなことは当てはまりません。権威ある者との関わりの問題は、まず第一に、司教たちの内部の問題になっています。組織として、司教たちは意見を一致させることができず、聖職者による性的虐待問題で(信徒の教会離れが進み)弱体化しています。

 そうした中で、ワシントン教区長のウィルトン・グレゴリー枢機卿のように、新大統領との関係を良好な形で始めたい、と希望する司教たちもいますが。

問:トランプ前大統領との4年にわたる緊張の後、バチカンと米国の二国間関係はどのようになっていくでしょうか?

答:バチカンにとって、大統領の交代は、確かに”激動の時代”の終わりです。(前大統領のために)予期せぬことが日常茶飯事で、何も前向きの関係進展は期待できませんでした。今、バチカンは、通常の、安定した、そして敬意をもった外交関係に戻ることができる、と期待しています。バイデン新大統領と教皇フランシスコには重要な問題で見解の一致があり、特に、環境、移民、社会正義の問題については、一致した取り組みが期待できるでしょう。

 しかし、二人の関係に緊張や意見の不一致がなくなるとは思いません。バイデンはこれまで上院議員時代などに、バチカンと欧州諸国が反対する”リベラルな介入主義”を擁護し、アフガニスタンとイラクでの戦争に賛成票を投じました。今でも、国際政治における米国の主導的役割を信奉しています。

 これに対して、バチカンは、今後数十年を展望して、世界が米国との関わりを減らし、もっと中国やインドと関わりをもたねばならないだろう、と認識しています。このことは、一部のアメリカ人が聞きたくないことのようです。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2021年1月27日