・コロナの影響で若者が「失われた世代」となる恐れ(世界銀行報告)

(2023.2.17 世界銀行東京事務所Eニュース)

 コロナが子供・若者の認知力発達と生涯収入を損ない 複数世代の将来の豊かな暮らしと経済成長に陰り


 2月16日ワシントン発 – 新型コロナ危機は、ライフサイクルの中で人的資本構築にとって決定的に重要な時期に甚大な悪影響を与え、低・中所得国で数百万人に上る子供や若者の発育を妨げた、と世界銀行は、「崩壊と回復:コロナがむしばんだ人的資本と挽回への道筋」で指摘した。

 報告書は、コロナ危機が始まった時点で25歳未満だった子供と若者を対象に、新型コロナの世界的大感染による影響に関するデータを分析した初の報告書で、主要な発育段階を幼児期(0~5歳)、学齢期(6~14歳)、青年期(15~24歳)に分類している。分析の結果、現在学生の世代はコロナで教育機会が損なわれたことにより将来の収入を最大で10%失いかねないとされている。また、現在幼児の世代は認知力の発達が損なわれた結果、成人後の収入が通常より25%低くなる恐れがある。

 人的資本とは、人が長い時間をかけて積み上げる知識、スキル、健康のことで、子供の潜在能力を引き出し、各国が強靭な回復と力強い将来的成長を達成するための鍵となる。ところが、新型コロナの世界的大感染により学校や職場が閉鎖され、母子保健や職業訓練など、人的資本を守り強化するためのほかの主要サービスも途絶した。

 「新型コロナの世界的大感染の際の学校閉鎖、都市封鎖、サービスの途絶により、人的資本構築における数十年分の進歩が帳消しになる恐れが生じた。複数の世代の発育を損ねないようにするためには、基礎的な学習、保健、スキルの損失を挽回するための的を絞った政策が不可欠である。」とマルパス世界銀行総裁は述べた。「各国は、公衆衛生上のショック、紛争、低成長、気候変動という重複する危機への国民の強靱性強化のために人的資本への投資拡大の新たな道筋を示すと共に、迅速でより包摂的な成長のための強固な基盤を構築する必要がある。」

 新型コロナの世界的大感染により、多くの国で学齢期前の幼児の場合、コロナ前と比べ、早期の言語・識字学習機会の34%以上、数学の学習機会の29%以上が失われた。さらに、学校再開の後でも、学齢期前の就学率が2021年末までに以前の水準まで回復しなかった国は多く、10%ポイント以上低かった国もめずらしくない。また新型コロナの世界的大感染の間に子供の食料不足は一段と深刻化した。

 学齢期児童では、平均して、学校閉鎖30日間につき約32日分の学習が失われた。学校閉鎖と非効率な遠隔学習により学習機会が減った上、それまでの学習内容が忘れられてしまったからである。低・中所得国では学校閉鎖により、10億人近い子供が少なくとも1年分、7億人以上が1年半分の対面での学習機会を失った。結果として、コロナ前に既に57%だった学習貧困がさらに悪化し、10歳児の70%が基本的な文章を読んで理解することができないと推定される。

 新型コロナの世界的大感染は若者の雇用にも大きな打撃をもたらした。コロナ感染がなければ仕事についていたはずの4,000万人が、2021年末の時点で仕事についておらず、若者の失業増加傾向に拍車がかかっている。若者の収入は2020年に15%、2021年に12%減少した。学歴が低いまま労働市場に参入すると、最初の10年間の収入が13%低くなる。ブラジル、エチオピア、メキシコ、パキスタン、南アフリカ、ベトナムのデータでは、2021年に若者全体の25%が通学・就業せず、職業訓練も受けていなかった。

 資本蓄積の後退に対応するための機会は限られている。人生の早い時点での空白は時間と共に拡大する傾向にあるからである。緊急に対策を講じない限り、新型コロナの世界的大感染は貧困と格差の深刻化も招きかねない。報告書は、現在の損失から回復し、将来の損失を未然に防ぐための政策オプションを科学的裏付けに基づき示している。また、危機からの回復に向けて各国が様々に異なる政策オプションの中で優先順位をつけやすくするアプローチも示している。

 短期的には、幼児のために各国が注力すべきは、ワクチン接種と栄養補給の促進、学齢期前教育へのアクセス向上、脆弱世帯への現金給付の対象拡大に対象を絞った取組みが必要である。学齢期児童のためには、政府は学校の運営を続け、授業時間を増やすと共に、学習成果を測定して生徒の学習レベルに見合った教え方を探り、基礎的学習を強化するためカリキュラムを再編する必要がある。若者のためには、状況に応じたトレーニング、職業斡旋、起業家プログラム、労働者を重視した新たなイニシアティブが極めて重要な意味を持つ。

 長期的には、各国が機動的で強靭かつ状況に適応できる保健、教育、社会的保護システムを構築し、現在そして将来のショックにより効率的に備え対応できるようにする必要がある。

 「現在25歳未満の人々、つまり人的資本崩壊により最も大きな影響を受けた世代は、2050年に働き盛りの労働人口の90%以上を占めることになる。」と報告書の代表執筆者である、世界銀行のノーバート・シェイディ人間開発チーフエコノミストは述べた。「新型コロナの世界的大感染が彼らに与えた影響を挽回し、その将来に投資することを、各国政府の最優先分野とすべきである。そうでなければ、一つの世代だけでなく複数の『失われた世代』を生み出すことになってしまう。」

 世界銀行グループは、新型コロナの世界的大感染による打撃から立ち直ろうとする人々を守り、彼らに投資するため、各国政府と緊密に協力を続けている。世界銀行によるパンデミック対応資金は、2020年4月から2022年6月までに728億ドルに達した。ここには、国際復興開発銀行(IBRD)からの376億ドルと国際開発協会(IDA)からの351億ドルが含まれる。同期間に、人間開発に対する資金は475億ドルに上り、低・中所得国において300件のプロジェクトに充てられている。

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2023年2月18日