・「”マカリック”を生んだのは聖職者主義だ」ー米国の教会指導者たちが自省の弁(Crux)

 2002年4月24日、教皇ヨハネ・パウロ二世とのバチカンでの2日間の会合を終えて記者会見するジェームス・フランシス・スタフォード枢機卿(写真左=バチカン信徒評議会議長)、セオドア・マカリック枢機卿(中=当時・ワシントン大司教)、米国カトリック司教協議会のウイルトン・グレゴリー会長(右=ベルビル教区長)。聖職者による性的虐待問題で激論が戦わされた臨時会合の後だった。 (Credit: Pier Paolo Cito/AP.)

 

(2020.11.11 Crux National Correspondent John Lavenburg)

U.S. Church leaders point to clericalism as reason for rise of McCarrick

 ニューヨーク発—バチカン国務省が”マカリック報告”を公表したのを受けて、米国のカトリック教会の有力指導者たちは、マカリックが何十年にもわたって性的な違法行為と虐待の告発を受けていたにもかかわらず、司教、大司教、そして枢機卿と昇進し続けること許した「聖職者主義の文化」の問題をそろって指摘した。

 *ニューヨーク大司教のティモシー・ドラン枢機卿は現地時間10日午後のラジオ番組「ドラン枢機卿と語る」で、「マカリックは、聖職者主義の文化すべてよりも、もっと非難されるに値する唯一の人物」と指摘。

 「本当の悪役は1人しかいません。テッド・マカリックです。そして2番目の悪役は、あえて言わねばなりませんが、『聖職者たちを法に優先し、彼らに特権を与え、誰に対しても説明責任を負わない』という、教会内部の”空気”。私たちはそれを『聖職者主義の罪』と呼びます」と批判を込めて語った。

 さらに、「これは悲劇的な”空気”」であり、そのような”空気”の中で、当時の若い神学生たちには(注:性的虐待を受けたことを)訴える場がなく、仮にそうすれば、神学校から追い出されてしまう恐れ、言い出せなかったのだ、と述べた。

(注:聖職者主義clericalism)=聖職権主義]、あるいは教権主義とも言う。ギリシア語で「聖職者の」を意味する「クレーリコス」( κληρικός)に由来する語・概念であり、もとは、特定の宗教権威・権力(教権)やその聖職者による国家社会支配を、肯定・容認・推奨・支持・支援する立場のことを指したが、現在では、カトリック教会内部で、あるいは一般社会で聖職者が絶対的な権力を持つように振る舞うことを当然とする”時代錯誤的”な考え方、行動を指すことが多い=「カトリック・あい」)

 

 *シカゴ大司教のブレイズ・キューピッチ枢機卿は、10日午後の時点で449ページの報告書全文を読んでいなかったが、概説を読んだ限り、「問題のある文化」を浮き彫りにしている、と語った。「私たちは匿名の告発を真剣に考慮する必要があります。まず被害者を第一番に置き、ケアをし、そのことで動かされねばならない」とする一方、マカリックがカトリック教会で昇進を続けていったのを許したことについて、誰も非難しなかった。

 ただし、ニュージャージー州の4人の司教について、報告書ではこのうちの3人が当時の駐米バチカン大使のガブリエル・モンタルボ大司教に、マカリックに対する性的虐待の訴えについての調査のために、「不正確で不完全な」情報を提供した、としていることについては、「彼らは、正確な情報を伝えるべきだったし、そうする責任があった」と批判したうえ、こうした個別の行為は問題の一部に過ぎず、もっと大きな問題は、当時存在した”(注:聖職者主義の)文化”にある、と述べた。

 さらにキューピッチは「被害者へのケアが足りなかった。この問題全体に関して、私がいつも言ってきたのは、子供を部屋の真ん中に置き、注目し、注意を払えば、事実が明らかになります」とし、「今回の報告書が、私たちが責任を負うべきものに目を向け、互いに説明責任を負い、透明性を保つ機会になることを願っている」と強調した。

 

 *フロリダ州ペンサコーラ-タラハシー教区のティモシー・ワック司教は、この報告書でニュージャージー州の3人の司教が自分たちが提供すべき情報に誠実ではなかった、と指摘している箇所を読んで、「深い悲しみ」を感じた、と述べた。そして、マカリックを当時、調査した時点で真実が明らかにされなかったことを「狂気」と呼び、「これは真実が隠されている時に、物事が雪だるま式に膨らんでしまう完璧な例です」と語った。

 また、マカリックのワシントン大司教への昇進を認めた聖ヨハネパウロ2世の対応にも批判の目を向けるとともに、マカリックを昇進することに果たした教皇の振る舞いは、「私たち全員が罪人であることを思い出させるもの、とした。だが、それは教会における教皇の重要性を奪うものではなく、「それは、教皇を含む私たち全員が罪人であることを示している。『すべての聖人には過去があり、すべての罪人には未来がある』という諺があるが、聖ヨハネパウロ2世の振る舞いを見て、地球上の誰も彼が完璧だとは言わなかった。私たちが報告書で見たように、教皇は間違いを犯したのです」と批判した。

 これからの対策として、ワック司教は、教会が聖職者に説明責任を負わせる制度を続けることを望んでいること、新任の司教として、聖職者たち全員が享受している「自主性」に驚いていることを認め、それが「特に聖職者たちに責任を負わせる教区レベルに人々を配置することが、各地の司教たちにとって重要である理由です」と述べた。

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 また米国のカトリック教会の他の何人かの指導者たちは、この報告書が出されたことに感謝する声明を発表し、「カトリック教会にとって、透明性をもって前に進むことために、”欠かせない第一歩」としている。

*ニュージャージー州メツチェン教区のジェームズ・チェッキオ司教は、報告書で述べられた内容に「うんざりし、愕然とした」と述べた。マカリックが同教区の初代司教であり、そこで彼の虐待の一部が起きた、とされているからだ。「この報告書は、間違いなく悲しみ、不安、欲求不満、怒り、嫌悪感、痛みを引き起こします」としたうえで、「教会が単に間違いを認識し、赦しをめるだけでは不十分です。誠実さと透明性をもって前進するために、これらの”酷い章”を記憶しておく必要があります」と自省を込めて語った。

*米国カトリック司教協議会の会長、ロサンゼルス教区のホセ・ゴメス大司教は10日発表した声明で、「司祭、司教、あるいは他の誰かに性的虐待を受けたことで苦しんでいるすべての人々を助けることに尽力している」と弁明。「兄弟の司教たちと私は、虐待被害者たちが前に進めるのを助け、彼らの苦しみが繰り返されないようにするために、私たちができることは何でもする、と誓っていることを知っていただきたい」と理解を訴えている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

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2020年11月11日