アフリカ資源搾取の‶無自覚”を批判‐教皇、機上会見で(CRUX)

(2017.9.11 Crux Vatican Correspondent Inés San Martín)コロンビアからのローマに向かう機上にて―教皇フランシスコは11日、コロンビア訪問を終えてローマにもどる機上で同行記者団と会見し、移民規制法で家族の分離を支持する人々は「“pro-life(生命重視派)”と自称することはできない」と批判。さらに、「先進国がアフリカを、もっぱら資源―それが人的資源であろうと天然資源であろうと―を搾取する場所とみなすことは、容認できない」「ベネズエラで起きている危機の打開に国連が介入することを期待する」「北朝鮮をめぐる情勢については、理解を超える利害をめぐる戦いがあるようだが、地政学を知らない私には判断できない」「腐敗した人々は赦しを求めることができず、自分たちを助けることを難しくしているが、神にはそれがおできになる」などと語った。

「大統領は“pro-life”のはず」-トランプ政権の移民規制強化を暗に批判

 移民規制強化の方針を打ち出しているトランプ米大統領の下で、セッションズ司法長官が5日、Deferred Action for Childhood Arrivals(幼少期に米国に到着した移民への退去延期措置)を半年以内に打ち切るとの方針を発表し、米国はもとより国際的に大きな論議を呼んでいる。

  教皇は、この問題についての質問に答えたもので、打ち切りの方針について具体的な文書にまだ目を通していない、と前置きしたうえで、「この(DACA打ち切りは)米国議会が法律として決定したものではなく、米政府の高官が決めたものと承知している。そうであれば、再考されることを期待しています。なぜなら、トランプ大統領はご自身を“pro-life”と言っておられると、聞いていますから」と述べ、「良い“pro-life”の人は、家庭が命の揺りかごであり、家庭が一つであることは守らねばならない、ということを理解しています」と強調した。

  また、超大型のハリケーン・イルマがフロリダ州を襲っていることと関連して、気候変動対策に懐疑的な見方に対して強く批判、「疑いを抱く人は、科学者に話すべきです」と語った。帰途の飛行時間は10時間に及んだが、途中、ハリケーンによる気流の乱れから搭乗機が大きく揺れ続けたため、会見の時間も30分に短縮された。

「アフリカ搾取に集団的無自覚が働いている」

  アフリカや中東の飢きんや紛争から逃れようとする移民・難民の欧州への流入が続いている問題については、教皇はまず、ギリシャとイタリアが移民・難民に心を開いていることに感謝を表明したうえで、「それでも、心を開いているだけでは十分ではありません。常に歓迎しなさい、というのが神の掟です。何故なら『あなた方はかつてエジプトでは奴隷、移民だった』のだから」とさらに積極的に受け入れの姿勢を示すように求めた。そして、「一国の政府は、この問題に政治指導者に求められる資質―忍耐―をもって対応しなければなりません。何人の移民・難民を受け入れることができるかを見極め、実行し、自分たちの社会に取り込まねばならない」と一層の努力を希望した。

   また、移民・難民に関する人道上の問題についても指摘し、「砂漠を越えて非難してくる人々の非人道的な状況を写真などでも目にします」と述べた。

  さらに、教皇は「集団的な(訳注・相手に罪を働いている事に対する)無自覚」の原理―アフリカは搾取されるものだ、という原理―が(訳注・欧州の国々に)働いていることを強く非難した。そして「ある国の指導者が、アフリカの人々が飢えから脱し、自分たちの国の成長のための資源開発に投資するのを助ける必要がある、といったことがありますが、先進国がアフリカに行く時は、資源を搾取しに行くのです。アフリカは友人です、成長を助けねばなりません」と訴えた。

 「ベネズエラ危機克服へ国連の介入を期待」

  中南米で最大の危機を迎えているのはベネズエラ。7月30日に新しい憲法を制定する制憲議会の選挙でマドゥロ大統領率いる与党・統一社会党が大勝し、大統領の権力掌握が進み、政治危機に拍車。世界最大の原油埋蔵量を誇る同国で深刻な食糧・医薬品不足が進み、混乱と暴力が広がっている。

  このような事態を引き起こしている大統領に、同国の司教団は強く反対しているが、大統領は司教団を批判する一方、「教皇は味方だ」と公言している。これに対して教皇は「バチカンは極めて明確に意見を表明している。大統領の発言が何を意味するのか、本人に聞かねば分かりません。彼が何を考えているのか、私には分からない」としたうえで、「バチカンは危機解決に向けた努力をたくさんしています。四人の元大領領による対話の試みに教皇特使を送り、現大統領には、バチカンでの日曜正午からの祈りの後で度々、危機克服の努力を求めるアピールを出しています。だが、現状は極めて困難なようです」と述べた。

  さらに「最も痛ましいことは、人道的な問題です。たくさんの人々が家を捨て、苦しみを味わっています。私たちが対応を助けねばならない人道的問題が起きているのです。国連が助けの手を差し伸べるのと信じています」と人道面からの国連の役割を強調した。

「腐敗した人物は赦しを願うことができず、願い方を忘れている」

 今回の訪問先となったコロンビアの記者からは、同国が54年に及ぶ内戦状態が終結した後、政治・経済の腐敗が改めてマスコミのキャンペーンの対象となってきたことが取り上げられ、「腐敗に手を染めている人々は教会から破門すべきではないか」と質問があった。

 教皇は、「その問題は、私が何度も自問してきた問題です」としたうえで、「でも、私たちは皆、罪人なのです。主は私たちの傍におられ、赦すことに疲れることはありません」「腐敗した人物は赦しを願うのに飽き飽きし、赦しの願い方を忘れています」と指摘した。また、痛みに直面して、人を搾取する事態に直面して、何も感じないのは、重大な問題だ、とし、「(腐敗した人物は)赦しを願うことができません。腐敗した人物を助けるのはとても難しいことですが、神にはそれがお出来になります。私は彼らのために祈ります」と付け加えた。

「気候変動・・抑制へ1人1人に道義的責任がある」

 気候変動の問題については、欧米の記者から、「現在、三つの巨大ハリケーンが米国を襲っているが、科学者からは、海洋の温暖化が進んだ結果だ、との指摘もある。気候変動を抑えるために各国と協力する道義的責任が、政治指導者たちにはあるのではないか」との質問があった。

 教皇は「気候変動を否定する人たちは科学者のところに行って、聞いてみる必要があります。科学者の見解は明瞭で正確です」「進むべき道ははっきりしています。『一人一人が程度の違いはあっても、道義的責任がある』ということです」と語った。さらに、「気候変動は、私たちが冗談で済まされない深刻な問題です」と指摘し、「一人一人がこの問題についての意見を持ち、どう行動するかを決める必要がある。歴史はその判断を裁くでしょう」と付け加えた。

 また「名前は忘れましたが、ある大学が言っていました。『現在の流れを逆転するために残された時間は3年しかない。さもないと大変なことになる』と。3年しかないというのが本当かどうか分かりませんが、引き返さなければ、落ち込んでいく、というのは確かです」とも述べ、気候変動の影響について意識をもつのに長い時間がかかる人がいるのは何故か、との問いには、「古い諺にこうあります。“Man is a stupid and hard-headed being who doesn’t see.”『人はおろかで石頭だ。見えないのだ』と。人は、同じ石をもって二度旅をする単に創られた動物なのです(教皇は「同じ穴に足を突っ込む」と専門的な言い方をされた)。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載します。

 

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2017年9月12日