☩「”シノドスの道”でドイツの教会改革はイデオロギー的でエリートが作ったもの」と教皇が批判ーAP通信と単独インタビュー(CRUX)

(2023.1.26  Crux  Senior Correspondent Elise Ann Allen)

 ローマ発 -教皇フランシスコはこのほど、米国の国際通信社 APと独占インタビューに応じ、聖職者による性的虐待問題や対中国など幅広い質問に答えられた。

 インタビューは24日にバチカンの教皇の住まいで行われ、25日に公開されたが、その中で最も意外な回答として受け取られたのは、教皇主導の”シノドスの道”の歩みの中で ドイツの教会が進めようとしている改革プロセスを「イデオロギー的」であり、「エリートによってなされているもの」と批判したことだった。

 ”シノドスの道”は一昨年秋に世界の小教区レベル、教区レベルで始まり、各国レベルの歩みを経て、現在、各大陸レベルの歩みに入っており、今年10月と来年10月にはそれを総括する形で世界代表司教会議(シノドス)通常総会が2期にわたって開かれる予定だ。

 APとのインタビューで、この”シノドスの道”との関連で、関係者の間で論争の的になっているドイツの教会の取り組みについて、「ドイツの経験は役に立たない。なぜなら、彼らのこれまでの歩み(で出された改革案)は、いわゆる”シノドスの道”をもとにしたものではあっても、神の民の総意ではなく、”エリート”によって作られたものだからです」とされ、ドイツのシノドスの道は「少々、エリート主義的であり、シノドス自体の手続き上のコンセンサスをすべて得ているわけではありません」と批判。

 そして、「対話をするのは良いことです。危険なのは、そこに、極めてイデオロギー的なものが入り込むことです。イデオロギーが教会のプロセスに入り込むと、聖霊は”家に帰って”しまいます。イデオロギーが聖霊に打ち勝ってしまうからです」と警告された。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 ドイツの教会の”シノドスの道”は、教皇が世界的取り組みとして始められたのに先立って、 2019 年に開始された。聖職者による性的虐待がドイツの教会にもたらしている危機への具体的対応、その一環として、一般信徒に教会の管理・運営上の重要な役割を与えることなどを柱とする教会改革をまとめるのが、主たる目的だった。だが、歩みの中で、女性の司祭叙階や、同性カップルに対する司祭による祝福、さらには聖職者の妻帯、同性婚の承認、司教選任に関して一般信徒の権利、などを肯定する声が有力司教や司祭、一般信徒から相次ぎ、バチカンや世界の教会関係者の間で大きな議論を呼ぶに至っている。

 バチカンは昨年夏、ドイツの司教団に「分裂をあおることのないように」と警告する声明を出し、「”シノドスの道”は、カトリックの教義と道徳の問題について判断する何の権限もない」と言明。 これに対し、ドイツの司教団は、これを「意外なこと」と受け止め、この問題についてバチカンと話し合いをしたい、との希望を表明した。そして、昨年11月にドイツの司教団がバチカンに定期訪問をした際、教皇庁の関係部署のトップと会合をもち、教皇庁側から、ドイツの”シノドスの道”の歩みを”一時停止”するように、との提案がされた。

 ドイツ側はこれを拒否し、対話継続で合意したものの、今週になってバチカンが、ドイツ司教団にあてた書簡で、ドイツ共働評議会ードイツの教会を管理・運営する、司教と一般信徒で構成する常設の立法機関ーの設置案の却下を表明したことで、対立が再燃した。却下の理由として、バチカン側が「ドイツ共働評議会は、ドイツ司教協議会に取って代わるリスクを冒し、司教団の権威を損なうことにつながる」と説明したのに対して、ドイツ司教協議会会長のゲオルク・ベッツィング司教は「バチカンの懸念は妥当なものではあるが、根拠に乏しい」と反論している。

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

*シノドスの主たる目的は

 教皇はAPとのインタビューで、現在進められている”シノドスの道”とそれを総括する場としての今年秋と来年秋の二度にわたって開かれる世界代表司教会議総会の狙いは、「カトリック教会をすべての人に対して、もっと思いやりのある、包括力のある存在とすることある」と強調。これまでの世界の各教区レベルの意見交換の中で、女性たちに教会における場、特に指導的地位に着く機会を増やすことの必要性などが強く指摘されているが、「歩み中で生まれたこのような”新たな課題”はどれもが、私個人ではなく、聖霊からもたらされたもの」と指摘された。

 また、女性の司祭叙階と女性助祭は、”シノドスの道”以前から課題とされており、「既婚司祭と女性助祭の是非については、2019 年のアマゾン地域代表司教会議で多く関係者の注目を集めましたが、実際の会議では、この地域にとって差し迫った課題ーカテキスタの増員や現地での司祭召命を促進する神学校の増設などーへの対処が中心となりました」と付け加えられた。

*聖職者による性的虐待ールプニク神父の問題

 教皇フランシスコはまた、聖職者による虐待がもたらしている教会の危機、同性愛を犯罪とする法律を撤廃する必要性、バチカンと中国との関係、ご自身の健康、そしてご自分を批判する人々への思いなどについても、質問に答えた。

 聖職者による性的虐待について、教皇は「より透明性を高め、傷つきやすい成人に注意を向ける必要性」を強調し、最も最近明らかになった性的虐待の被疑者であるイエズス会士、マルコ・イヴァン・ルプニク神父に対しては、「驚きであり、傷です」と述べた。

 バチカンや世界中のバジリカや礼拝堂などの壁画で知られる著名な芸術家でもあるルプニクは、1990 年代に数人の修道女を性的および精神的に虐待したとして告発されたが、昨年のバチカンの調査では、告発の対象となっている事案がすでに時効になっている、として罰則は適用されなかった。また、性行為の相手の女性を聴聞司祭の立場を利用して無罪放免にしたとして、いったん破門になったものの、1カ月もたたずに破門解除となった。結果、彼が受けている制裁は、イエズス会本部による聖職者としての活動制限のみだ。

 これに対して教皇は、ルプニクに対する訴訟で「自分ができるのは、通常の裁判を続けること。そうでないと、手順が分裂してしまい、すべてが混乱してしまうからです。私自身は、この問題とは何の関係もない」と述べ、ルプニクに対する訴えの対象には未成年が含まれていなかったため、「時効を適用しない、という判断はしなかった」と説明した。

 

*教皇自身の健康状態は「正常」

 自身の健康状態について聞かれた教皇は、「私の年齢では、正常です」と答え、精神的な状態については「私は少し頭がおかしい」と冗談を言ったうえで、「全体的には良好です」とされた。

 教皇は2020年7月に炎症を起こした結腸の一部を切除する手術を受けているが、「術後、腸壁の膨らみが元に戻った」。また、昨年、転倒の際に膝をわずかに骨折し、しばらく杖と車椅子の使用を余儀なくされたが、「レーザーと磁気療法のおかげで手術をせずに治癒しました」と語った。

 

*自身への批判について

 昨年12 月 31 日に教皇の前任者、ベネディクト 16 世が亡くなった後、自身に対する批判と新たな抵抗の動きが出ていることについて、AP通信に聞かれた教皇フランシスコは「そのような私への批判はいつもあります。彼は、教会の司牧的実践に対する私の手法と対立している、とよく言われてきました」としたうえで、そのような声を耳にして、「最初は驚きがありましたが、良いこともありました。 そして、私の欠点に気付き始めると、それを嫌う人もいます。 どんな多様な考え方であっても、いくらかの批判は存在します…しかし、批判の声があるということは、発言の自由があることを意味します」と述べた。

 そして「私がお願いしたいのは、私に面と向かって批判すること。それによって、皆が成長できるからです」と強調した。

*ベネディクト16世、ペル枢機卿の死を受けて

 また、ベネディクト16世に続いて、オーストラリアのジョージ・ペル枢機卿も1月初めに帰天した。枢機卿は、後に教皇フランシスコの統治を「大惨事」と呼んだ匿名の手紙の筆者であることが明らかになり、議論を呼んだが、教皇は、「彼には批判する権利があった。批判する権利は人権の一つです」とする一方で、ペル枢機卿は「バチカンの財政改革で私を大いに助けてくれた。偉大な人物でした」と評価した。

 ベネディクト16世は亡くなるまでの9年間、名誉教皇として過ごしたが、帰天を機に「名誉教皇」に関する新たな規範を作ることを考えているかどうか、と尋ねられた教皇は、「考えていません。私自身は、遺言書を書くことさえ、考えていません」と答え、「物事は自然に起きねばならないと思います。 そして、あと何回か現職教皇が生前辞任を繰り返した後で、規則あるいは規制が整えられる可能性がありますね? でも、それは私に思い浮かんだ考えではありません」と述べた。

 

*中国との司教選任の暫定合意と陳枢機卿に対する評価

 中国との対話、また司教の任命に関するバチカンと中国の暫定合意に関して、教皇は「忍耐が必要である」ことを強調し、「中国は複雑な存在ですが、私たちは対策を講じています」と述べた。

 そして中国国内での司教選任について「(問題のある点を)”拡大鏡”で見られていますが、そうでない場合は、込み入った対話がある場合はどうでしょうか。重要なのは、対話が途切れないことです」と強調。「中国人は親切ですが、時には少し閉鎖的で、また時にはそうでない場合もある。辛抱強く、歩かねばなりません」と語った

 関連して、昨年の秋、中国政府・共産党によって鎮圧された香港の民主化運動を支持したとして、香港の裁判所から有罪の罰金刑を受けた陳日君・枢機卿(元香港教区長)を称賛。自身の対中政策を強く批判していた同枢機卿を「魅力的なお年寄り。優しい心を持った方」と讃えた。

 教皇は、1月5日のベネディクト16世の葬儀ミサに香港当局の特別許可を得て参列した同枢機卿と会見したが、彼のことを「勇敢な方」と評した。そして、教皇の書斎に来て、中国で大切にされている『佘山の扶助者聖母像』を見て子供のように泣き始めたことを思い起こされ、「陳枢機卿は、意志が強く積極的であるという側面をほとんど表に出しません。『無い』と言うのではなく、『ある』のですが、(子供のような)純朴さの裏に隠れているのです」とも語った。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

このエントリーをはてなブックマークに追加
2023年1月27日