(2025.5.27 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)
ローマ発 – これまでの歴史を振り返ると、新教皇の最初のバチカン幹部人事や会見の相手や内容をざっと見れば、司牧および行政上の優先事項に関して、何をまず第一に考えていることが少しは分かる。
就任から1か月近く経った教皇レオ14世は、これまでいくつもの会見をこなし、いくつかの決定を行ったが、教皇就任式のためにバチカンを訪れた各国首脳たちの会談は当然のこととして、自身の最優先課題はすでに具体的に見え始めている。そして、全体としては、財政問題、聖職者による性的虐待問題、教皇庁の改革など、前任の教皇フランシスコが全うできなかった課題を引き継ぐ意向をうかがうことができる。
*金融犯罪で有罪判決の元枢機卿ベッチュと非公式に会見
最も注目すべき会見の一つは、バチカンで「世紀の裁判」と称された金融犯罪事件(ロンドンでの不透明な不動産取引に関連し、バチカンが約2億5,000万ドルの損失を被った事件)で2023年12月に有罪判決を受けたイタリアのアンジェロ・ベッチュ枢機卿(76歳)との、5月27日の非公式の会見だろう。
バチカンの民事裁判所で有罪判決を受けた最初の枢機卿となったベッチュには、懲役刑に加え約8700ドルの罰金とバチカン市国での公職の永久禁止の制裁が課せられているが、本人は一貫して容疑を否認し、控訴を申し立てている。
レオ14世教皇を選出した教皇選挙の前、ベッチュは全体会議に出席し、自分には投票権がある、と主張したが、教皇フランシスコからの書簡を示され、投票権がないことを知らされ、参加を断念していた。全体会議に参加した枢機卿たちは、ベッチュが教皇選挙への参加を控えたことを感謝する声明を発表し、適切な司法当局が「事実を明確に確定する」ことを希望。好き教壇の一部には、ベッチュが不当な扱いを受けた、と考える者もいた。
ベッチウと会見したことで、教皇は必ずしも彼を復権させたり、復職させたり、彼の容疑否認を認めるサインを出したわけではないが、少なくとも一部の枢機卿たちに不快な印象を残している、最も緊急かつ重要な課題の一つ対処しようと考えている可能性がある。
*前教皇と対立したサラ枢機卿に公式のポストを与えた
ロバート・サラ枢機卿(典礼秘跡省元長官)に、名目上とはいえ公式の職を与えたことを考えると、教会だけでなく枢機卿団内の”好ましくない状況”についても、ある程度の修復を考えている、と見ることもできるだろう。
教皇は5月24日、フランスで農民イヴォン・ニコラジックに聖アンナが現れてから400周年を迎える7月の祝賀ミサを主宰するの特別使節にサラを任命した。サラは教皇フランシスコと複数の問題で対立し、フランシスコが司祭の独身制廃止を検討していた時期に、当時存命だった元教皇ベネディクト16世との共著で独身制廃止を批判する本を出版し、ベネディクトとフランシスコが対立しているかのように見えたことで批判を浴びていた。
伝統的なラテン語ミサの熱心な支持者であるサラは、フランシスコによってその活動が制限され、2021年に75歳の司教定年を迎えて退任するまで、実質的に手足を縛られた状態だったが、教皇フランシスコに軽視されている、と感じる保守派のカトリック信者にとって、英雄であり殉教者のような存在であり続けた。レオ教皇が彼に比較的責任のない地位を与えたことは、和解を示唆する努力と見なされている。
*教皇庁未成年者・弱者保護委員会のオマリー委員長との会見は、性的虐待問題重視
だが、”軌道修正”で最も象徴的な会見の相手は、教皇が就任後、教皇就任ミサ出席のために訪れた人々以外に初めて公式に会見した人物。5月14日に会見した、ボストン大司教名誉職で教皇庁未成年者・弱者保護委員会の委員長、ショーン・パトリック・オマリー枢機卿だ。
教皇選挙前に枢機卿団が連続して開いた全体会議では、教会が直面する最も深刻な問題として、バチカンの財政危機と聖職者性虐待スキャンダルが繰り返し取り上げられた。オマリー枢機卿を最初の公式会見の相手として選んだことは、特にレオ14世がペルーを拠点とするSodalitium Christiane Vitae(SCV)という使徒的生活団体との広範な経験を持つことから、聖職者による性的虐待がもたらしている世界の教会の危機への対処が、教皇在位中の最優先課題となることを示している。
SCVは、教皇フランシスコが今年初めに死去する直前に解散させられたが、レオ14世は、ペルーでの司教時代と枢機卿時代を通してこの問題に個人的に関与していた。
*Opus Deiのトップとの会見は、改革巡る問題の早期解決の意向
レオ14世は、5月12日にローマ教区の大司教代理であるバルダッサーレ・レイナ枢機卿と会見したが、テーマは、ローマの教皇大聖堂(サン・パオロ・フオーリ・レ・ムーラ大聖堂、フランシスコ教皇が埋葬されているサンタ・マリア・マッジョーレ大聖堂、ローマ教皇の公式大聖堂であるサン・ジョヴァンニ・イン・ラテラノ大聖堂)の管理権を引き継ぐための式典に関するものだった。
また5月14日には、今年の「希望の巡礼」の聖年を主催する関係者たちと、スペインのフェルナンド・オカリス大司教(「Opus Deiの責任者)と会見した。その主要テーマは、教皇フランシスコが命じたOpus Deiの規約改革に関する議論が中心だったとみられる。この改革は途上にあり、教皇がその代表と会見したことは、この問題を早期に解決したいという意向を示している可能性がある。
同じ14日、教皇は、バチカン報道局が発表した日程表に載っていない非公式の会見を、バチカン奉献・使徒的生活会省の長官としてSCVの廃止令に署名し、他の複数の案件を管理するシスター・シモーナ・ブラムビッラと行った。
*使徒座管財局長との会見は、バチカンの財政問題も優先課題
22日には、使徒座管財局(APSA)の局長、ジョルダーノ・ピッチノッティ大司教と会見し、バチカンの財政状況への対処も優先課題であることを示した。
レオ14世は、バチカン各省の長官・幹部と会見を重ねており、15日には総合人間開発省の幹部全員と会見した。長官のミハエル・チェルニー枢機卿、次官のシスター・アレサンドラ・スメルリ修道女らだが、特に注目すべきは、教皇が5月27日にチェルニー長官不在の状態でスメルリ次官らと再び会見したことだ。これは、教皇フランシスコが亡くなる前、チェルニー長官が78歳で、司教定年の75歳を超えていることから、スメルリ次官を長官に昇格させる意向だったという噂が浮上していたことを念頭に置いたものとみられる。
また教皇は16日、26日と教理省長官のヴィクトル・フェルナンデス枢機卿と続けて会見している。会見では、スロベニアのマルコ・ルプニク神父(元イエズス会士で著名な壁画家で、性的虐待で訴えられている)に関する継続中の問題について議論された可能性が高い。ルプニク神父は、30~40人の成人女性に対する性的虐待の容疑で告発されており、過去2年間でカトリック教会で最も注目された事件の一つとなっている。
レオ教皇は当初、すべての省庁長官を現在の職位に留め、変更を行う前に時間をかけて聴取し、祈り、判断する意向を示していた。そのため、長官との会談は、人事決定を行う前に現状を正確に把握するための努力の一環であると考えられる。だが、オマリー枢機卿との会見や、一部の省庁長官よりも先にピッチノッティ大司教と会見したことなど、一部の会見は、教皇の優先事項を示唆しており、これは教皇選挙前に示された姿勢とも一致している。
教皇はまた、オカリスとの会談などにおいて、教皇フランシスコの「未完の課題」に取り組む意欲を示しており、サラやベッチュとの和解も図りたいと考えているようだ。だが、いくつもの会見をどう解釈するにせよ、レオ教皇が本腰を入れて仕事に取り掛かろうとしていることは疑いようがない。過去2週間のスケジュールが示すように、彼はまさにその通りに行動している。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)
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