(2025.6.9 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)
ローマ 発- 5月8日のローマ教皇レオ14世の選出から1か月が経ったが、「ハネムーンの期間 」はまだ続いている。
いわゆる 「ロールシャッハ・テスト 」と呼ばれる教皇職の段階は、人々が教皇に好きなことを投影することができるとされるものだが、レオ14世がその治世への道を歩み始めているように見えることから、まだしばらく続きそうだ。
就任からわずか4週間で、新教皇は冷静さと自制心を示し、大きな決断を下す前に現場の状況を把握し、物事がどう動くかを理解することを好んだ。また、バランス感覚を発揮し、前任者との明確な継続性を表明する一方で、自分自身の優先順位や個人的なスタイルを切り開いている。
*統一を目指す羊飼い
前任の教皇たちと異なり、レオは「改革派」、「伝統主義者」、「リベラル派」、「保守派」など、多くの識者が熱望するカテゴリーには、簡単に当てはまらない。南米での豊富な経験、欧州での滞在経験、そしてアウグスチヌス修道会の総長として世界のさまざまな地域と接してきたことで、非常に”丸み”を帯びた視点を持つようになった。
そしてレオ14世は、教皇就任後1か月にして、自らを「統一者であり、交わりを育もうとする奉仕者」としてのスタイルを取り始めている。
5月8日、教皇選出後初めて聖ペトロ大聖堂のバルコニーから挨拶したレオ14世は、キリストに従うよう信者たちに促し、こう言った—「私たち一人ひとりが、対話と出会いを通して橋を架け、いつも平和な一つの民として結ばれるよう助けてください」と。
そして、5月18日の教皇就任ミサの説教の中で、次のように述べた—「私は、自分自身の功績もなく選ばれました。そして今、恐れおののきながら、皆さんの信仰と喜びの僕となり、皆さんとともに神の愛の道を歩むことを望む兄弟として、皆さんのもとに来ました」と。
レオ14世はその説教の中で、教皇としての司牧の優先事項の”道しるべ”のようなものを示した—「愛と一致、これがイエスからペトロに託された使命の二つの側面です」。その際、彼は 「不和 」と 「憎しみ、暴力、偏見、差異への恐れ、地球の資源を搾取し、最貧困層を疎外する経済パラダイムによって引き起こされる多くの傷 」を嘆いた。
そして、このような背景から、教会に対する彼の最大の願いは、教会が 「和解した世界のための“パン種”となる一致と交わりのしるし 」であり、「世界の中での一致、交わり、友愛の小さな“パン種” 」となることである、と語り、さらに、「私たちは、違いを打ち消すのではなく、一人ひとりの個人的な歴史とすべての人々の社会的・宗教的文化を大切にする一致を実現するために、すべての人に神の愛を捧げるよう求められています 」と強調した。
*継続性と独自性
レオ14世はまた、就任当初から前任のフランシスコ教皇との明確な”連続性”を示しており、最初の発言で「シノダル(共働的)な教会」を呼びかけ、フランシスコの対話と友愛の「架け橋を築く」という言葉を使い、聖マリア大聖堂にあるフランシスコ教皇の墓を訪れている。
また、5月18日の就任説教を含め、演説や説教の中で教皇フランシスコの言葉を繰り返し引用し、環境、貧しい人々、移住者への配慮、より大きな世界的友愛の意識を求めるフランシスコの呼びかけに共鳴している。
その一方で、レオ14世は、伝統的に教皇が着用する赤いマント「モツェッタ」を復活させるなど、教皇の服装の選択から、民衆の信心深さを自ら表現するなど個人的な献身に至るまで、教皇が自分自身であることも明らかにしている。
教皇フランシスコは、ローマ人に愛され、歴史的にイエズス会士にも愛されてきた聖マリア大聖堂の有名なイコン「マリア・サルス・ポポリ」をたびたび訪れていたが、レオは教皇に就任した最初の週に、ジェナッツァーノにあるアウグスティノ会が運営する「善き助言の母」教会を訪れ、このタイトルを持つマリア像の前で祈りを捧げた。
フランシスコは、バチカンの聖アンナ小教区を訪問した際、バチカンとイタリアの国境を越えて友人に挨拶に行ったり、移民の主な目的地であるイタリアのランペドゥーザ島への訪問したりすることを頑なに主張し、側近が訪問に反対すると、「自分でチケットを買って、行きます」と言い切った。
一方、レオ14世は、枢機卿としてほぼ毎日昼食をとっていたローマのアウグスヌス会本部を突然訪れ、共同体とともに過ごし、アウグスチヌス会の総長である友人アレハンドロ・モラルの誕生日を祝うなど、レオなりに自発的に行動している。
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これまでのところ、レオは内部的には、いかなる決定も急がず、むしろ時間をかけて現状を把握し、組織や人事の面で大きな変化を起こす前に、物事がどのように機能しているかを理解しようとしていることを示し、当分の間、すべてのバチカン各省の長官など留任させることを決めた。
例えば、教皇庁未成年者・弱者保護委員会会長のショーン・オマリー枢機卿とデリケートな性虐待問題について話し合ったり、オプス・デイの指導者と面会して、フランシスコの下で発足したものの完了しなかったグループの改革について話し合ったりしている。
レオはまた、イタリアのアンジェロ・ベッチュ枢機卿とも会っている。彼はバチカンの「世紀の裁判」で金融犯罪で有罪判決を受けたが、教皇フランシスコの教皇職の後期で最も論争となっていた人物の一人であり、先に教皇選挙から除外されたことでも論争を巻き起こした。
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人事では、バチカン各省の長官を留任させる一方で、奉献・使徒的生活会省の次官にシスター、ティツィアーナ・メルレッティを任命している。80歳を迎えた生命アカデミー総裁のヴィンチェンツォ・パリア大司教をレンツォ・ペゴラロ大司教と交代させ、ヨハネ・パウロ2世結婚・家族科学神学研究所の理事長をバルダッサーレ・レイナ枢機卿からレンゾ・ペゴラーロ司教に交代させた。
そして、まもなく、司教省における自身の後継長官の任命や、75歳という司教定年を過ぎている列聖、典礼秘跡、キリスト教一致推進、総合人間開発、命・信徒・家庭の各省長官の後継者の任命という、新教皇自身の判断による重要な人事に手を付けねばならなくなる。
*擁護者となる
レオ14世の教皇就任後1か月は”平静さ”が特徴となっているが、カトリック教会にとって多忙な聖年暦の中で行動し、教皇職の重みを伴う発言力を暫定的に行使し始めている。
ウクライナやガザの和平を繰り返し訴え、人質の返還や援助、停戦を求めるだけでなく、ウクライナのゼレンスキー大統領やロシアのプーチン大統領とも電話会談をし、和平実現を最優先させたいという強い意志を示している。
それだけでなく、微妙で、反発を招く可能性のある政治的な問題についても発言し始めている。
教会の運動体、諸団体、新しい共同体の人々が参加して行われた8日の聖霊降臨の祝日のミサの説教では、femicide(ジェンダーに関連した動機による故意の殺人)と政治的ナショナリズムを非難。他者との関係における 「境界を開く 」聖霊の役割について語り、聖霊は 「疑い、偏見、他者を操ろうとする欲望のような、私たちの関係を乱す、より深く隠された危険を変容させる 」と述べたうえで、「私は、不健全な支配欲が関係し、最近多く起きているfemicideが悲劇的な形で示しているように、暴力につながる事例の発生を、深い悲しみとともに思い起しています」と述べた。
教皇のこのfemicideへの言及は、長年にわたって家庭内暴力とfemicideの多発に悩まされているイタリアの社会・政治界全体に反響を呼んだ。イタリア政府は現在、加害者の最高刑を終身刑に処するfemicide防止法を検討しているほどだ。
教皇はまたこの説教で「人々の間の境界を開く」という聖霊の役割についても語り、聖霊は「障壁を打ち破り、無関心と憎しみの壁を破壊」し、代わりに「偏見」や「悲しいことに、今や政治的ナショナリズムの中にも現れつつある排他的な考え方」の余地を残さない愛を育む、と指摘した。
”擁護者”としての教皇レオ14世の発言は、女性差別と欧米を含む世界の大部分を席巻している民族主義的ポピュリズムの動きを非難した教皇フランシスコの思いのいくつかを反映させながら、徐々に彼自身のスタイルとトーンで主張を始めている。
レオ14世の最初の1か月を特徴づけているのは、バランスと冷静さ、行動する前に考えること、静粛に針を動かすことだ。彼が統治のプロセスに本格的に取り組み、彼の主張がさらに具体化するようになればなるほど、教皇としての蜜月期は衰える可能性が高くなるが、これまでのところ、「あまり波紋を起こさずに決断や発言を行う能力」を発揮しているようだ。