(評論)バチカン外交は対トランプに”現実路線”、是々非々でいくか(LaCroix)

2017年5月24日、バチカン市国にて、教皇フランシスコとの会見後、システィナ礼拝堂を見学するドナルド・トランプ大統領とメラニア夫人。(ホワイトハウス/パブリックドメイン)

President Donald Trump and First Lady Melania Trump tour the Sistine Chapel following their meeting アルゼンチン出身の教皇は、就任したばかりの米国大統領の移民政策を常に批判してきた。しかし、世界で最も小さな国は、米国に対して現実的な外交を維持し続けている。

 教皇フランシスコは、一般に言われているようにドナルド・トランプ氏に対して強硬な反対派なのだろうか? 1月20日の就任式当日、教皇はトランプ新大統領にメッセージを送り、「心からの挨拶」と祈りを捧げることを約束するとともに、トランプ氏の「国境侵入阻止」計画に反対の意を示した。

 メッセージで教皇は「米国は機会に満ちた国であり、すべての人々を歓迎する国であるという、あなたの理想に触発され、あなたのリーダーシップのもとでアメリカ国民が繁栄し、憎悪や差別、排除の余地のない、より公正な社会の構築に常に努力することを願っています」と述べた。

 教皇は、気候変動との闘いと並んで、移民の受け入れを、教皇在任中の主要テーマの一つとしている。

 一見すると、石油と天然ガスの採掘を「促進」すると約束し、一方で不法移民の国外追放の大規模な計画を実施すると公言したトランプ氏と、教皇は、対照的であるようだ。

 19日に放映されたイタリアのテレビ局とのインタビューで、教皇は、トランプの不法移民国外追放計画を「恥ずべきこと」とまで批判した。「もしそれが本当なら、それは恥ずべきことです… 不法移民の大量強制送還は)問題の解決策でありません。何の取り柄もない貧しい人々に不均衡の代償を払わせることになるからです。それは良くありません」と。

*移民追放も、妊娠中絶支持も「生命」に反する

 

 しかし、今回の米大統領選挙前には、バチカン外交は共和党候補に敵対しているように思われないように、細心の注意を払っていた。教皇は昨年9月、東南アジアからの帰路の同行記者団との機上会見で、カマラ・ハリスとトランプの民主、共和両党の大統領候補者を「生命に反対する」立場として、同一視し、「いずれの候補者も『生命』に反対している。移民を追い出す者も、赤ん坊を殺す者も(同様)です」と批判し、中絶を支持する民主党と移民に敵対的な共和党の政治的主張を否定した。

 ただし教皇は続けて、「投票に行かないのは良くありません。投票に行かねばならない… より小さな悪を選ぶべきだ。その女性か、その紳士か? 私には分からない。誰もが良心に従って考え、行動しなければなりません」と付け加えている。

 そして、この発言から数週間後、米大統領選の1か月前、ベルギーへの”激動”の訪問から戻った教皇は、妊娠中絶について次のように強調した。「これを行う医師は、言葉を選ばせてもらうと、『殺し屋』です。彼らは殺し屋なのです」。この問題は、2022年6月に全米で中絶の権利を認めた判決が破棄されて2年後の2024年の選挙に向けた民主党のキャンペーンの主要テーマとなっていた。

*カトリック信者の6割がトランプに投票

 

 米有力日刊紙Washington Postによる大統領選の世論調査によると、カトリック信者の約59%がトランプ氏に投票、ハリス氏の得票率を20ポイントも上回った。前回の大統領選挙の2020年、ピュー・リサーチ・センターは、米国の有権者の52%が民主党のジョー・バイデン氏を支持したと推定した。バイデン氏はアメリカ史上2人目のカトリック信者の大統領だった。カトリック信者は米国の総人口の約5分の1(20.8%)を占めている。

 「今回の米大統領選挙で2人の候補者を同一視することは、教皇が未来を侮辱しないための方法だった」とバチカンの関係者は説明した。「私たちは、バチカン外交が価値観のみに基づいていると考えることが多いが、実際には現実的でもある。バチカンは米国を必要としており、大統領の立場がどうであれ、良好な関係を維持する必要があるのだ」。

 

 

 

*バチカン外交は”現実的”、新大統領とは”是々非々”でいく

 

 教皇フランシスコとバイデン前大統領は、後者の在任中の4年間で個人的な関係を築くことに成功したが、中国との対話、ウクライナへの武器輸出、人工知能の規制など、米国とバチカン政府の政策が常に一致していたわけではない。この点について、特に、X、テスラ、スペースXのCEOであるイーロン・マスクが米国の公共支出削減に関する助言者に任命されたことで、シリコンバレーの有力者と親しいトランプ氏に対するバチカンの懸念が高まっている。

 だが一方で、新大統領が「急進左派の目覚めたイデオロギー」と戦うことを約束していることは、バチカンの外交上の優先事項のひとつ―昨年12月5日のCOP29のように、国際フォーラムにおけるリベラルな性に関する法律の推進を抑制しようとすること―と部分的に一致している。

 ウクライナに関しては、新大統領がロシアのプーチン大統領との平和対話を繰り返し約束していることも、教皇が新年のメッセージの結びで何度か述べた呼びかけ―「あらゆる戦闘が止み、平和と和解に向けた断固とした努力がなされるよう祈ろう」を反映している、とも解釈できる。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二=聖書の邦訳は「聖書協会・共同訳」による)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2025年1月22日