Archive photo of Cardinal Blase J. Cupich (2024 Getty Images)
(2025.2.19 Vatican News)
全米カトリック司教協議会(USCCB)は18日、難民再定住への資金提供を突然停止したトランプ政権を憲法違反などで訴えるとともに、声明を発表し、「この行動は違法であり、新たに到着した難民と国内最大の民間再定住プログラムにとって有害である」と強く批判した。。
これを受ける形で、USCCBの指導者の一人であるシカゴ大司教のブレイズ・J・キューピッチ枢機卿が19日声明を発表。トランプ大統領が議会が承認している海外援助を停止する大統領令に署名したことで、事実上、米国国際開発庁(USAID)の業務が停止されたことは、「世界の何億もの人々にとって不可欠なサービスを危険にさらすもの」と指弾。以下のように述べた。
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トランプ新政権は、発足からわずか数週間のうちに、突如として90日間の対外援助の停止を決定し、米国国際開発庁(USAID)の資金と人員を大幅に削減した。これにより、カトリック教会が資金援助しているものも含め、世界規模の人道的支援を管理する慈善団体のネットワークは混乱に陥った。
このように性急な行動には人道的コストが伴う。そのため、2月13日には連邦判事が「行政の行動が合衆国憲法および法律に違反しているという主張が認められる可能性が高い」として、行政に資金援助の復活を命じた。
米政府には納税者の資金が賢明に費やされるよう確保する権利と義務があるが、そのような審査が行われる前であっても、その支援を凍結することは、飢えやホームレス、病気への不安に苦しむ人々の苦しみを増大させる。政府は救命支援活動は免除されると発表したが、これらの免除は効果的に実施されていない。機能不全に陥ったUSAIDは、救命プログラムにおける過去および現在の業務に対する支払いを迅速に行っておらず、人道的支援団体による救命活動の能力に恒久的な損害を与える可能性がある。
これが、UCCBが2月18日に政権を相手取って訴訟を起こした理由のひとつである。「わが国に歓迎され、米国カトリック司教協議会が政府から保護を任された何千人もの難民の保護活動を継続することが、突如として不可能になった」と、USCCB会長のティモシー・ブロリオ大司教は説明している。USCCBは、連邦政府からの資金援助額を上回る額を、毎年難民の再定住に費やしているが、政府から支払いを受ける予定の1月24日以前の総額約1300万ドルはまだ実行されていない、という。
USAIDの資金を突然削減するという決定は、国際社会、特にバチカン市国から迅速な反応を引き起こした。200以上の国と地域で活動する162のカトリック救援機関の連合であるカリタス・インターナショナルは声明で、「USAIDの活動を停止すれば、何億人もの人々にとって不可欠なサービスが脅かされ、人道支援や開発援助における数十年にわたる進歩が損なわれ、この重要な支援に頼っている地域が不安定化し、何百万人もの人々が非人間的な貧困、あるいは死に直面することになる」と訴えた。
このような資金削減の影響は、1943年に設立されたUSCCBのカトリック救済活動(CRS)のような援助団体にとって、極めて深刻だ。
2012年から2016年までCRSを運営し、ノートルダム大学のメンドーサ・ビジネス・カレッジの学部長を務めたキャロライン・ウー氏は、「米政府の(海外援助の)凍結は、このようなプログラムに影響を及ぼし、人々の健康や生活を本当に危機的な状況に追い込み、実際に死をもたらす可能性がある」と語った。CRSは毎年、世界120か国の約2億1000万人に支援を提供しており、その予算の半分以上はUSAIDとの契約によるものだからだ。慈善団体の予算を半分に削減すれば、提供できる支援の量も半分になる。
CRSはどのような支援を行っているのだろうか? ウー氏によると、「USAIDの助成金により、CRSは緊急支援や長期的な変革的開発を行うことができている。その活動は、人類の繁栄のために、食糧、健康、生計、農業、教育、水と衛生、児童の発達、資本へのアクセス、平和構築など、さまざまな分野をカバーし、統合している」。この複雑な活動は、単なる”施し”ではなく、手を差し伸べる支援だ。
ウー氏は、長年にわたって作物の販売による利益が経費を上回ったために、自身が貧困に陥っていることに気づいた農民、エルネスト氏の話を語った。 CRSの支援で、彼は、持続可能な新しい作物の栽培方法を学び、その最初の利益で経済的な安定への道筋をつけることができた。 そして、彼は他の農民たちにその方法を教え、子供たちを大学に行かせるだけの貯蓄までできた。 このプログラムは、USAIDからの助成金で賄われた。
関係者の一部には、USAIDの活動を制限することは「無駄遣い」をなくすために必要、との意見もあるが、ウー氏は「(世界の各国、各機関による)対外援助によって、過去30年間で世界の貧困人口は人口の3分の1から10分の1に減り、妊産婦死亡率と乳幼児死亡率は50パーセント低下した」と指摘している。生活問題を優先する人々にとって、USAIDの予算が連邦予算の1%以下であることを考えると、これ以上の投資効果は考えにくい。
そして、(トランプ政権の)容赦ない予算削減が引き起こす人道的危機は、「信頼」の危機でもある。米国に対する国際的な信頼、つまり、約束を守り、公約を尊重する能力に対する信頼の危機だ。信頼の喪失は、深刻な結果を招く可能性がある。
このことは、元ウィーン大司教のクリストフ・シェーンボルン枢機卿も、契約破棄について触れた最近のコラムで、「現在、米国で起こっていることは危険だ。契約は私たちの生活の大部分を規定している。法の支配は条約が適用されるという事実によって成り立っている。それが破られ、強者が契約で合意された内容を無視して、自らの意志を押し付ける… 忠誠心や信頼、安全、そして何よりも弱者、貧困層、無防備な人々が犠牲になっている。私たちはそれを望んでいるのか?」と問いかけた。
この「私たち」という言葉が重要だ。どの国にとっても、対外援助は戦略的英知の表れだ。人類の苦しみが軽減された世界は、より安全な世界だ。各国が合意を順守する世界は、発展が成功する可能性が高い世界だ。人類が置かれている環境を改善する道は、内向きではなく、むしろ自分自身、孤立した地域や国家から、永続的な国際的パートナーシップと真の人間家族の繁栄に向かって外に向かうものなのだ。
最後に、海外への人道支援は、より深い意味で、その国の価値観の表明でもある。米国の価値観には、恵まれない人々への思いやり、虐げられた人々への支援、連帯による長期的な平和の構築が今も含まれている。米国は第二次世界大戦後の欧州再建を支援したことで、その価値観を表明した。これは米国の国家としての遺産であり、決して放棄してはならないものだ。
キリスト教徒として、私たちは「隣人を自分自身のように愛せよ」という主の呼びかけに従う。たとえそれが困難な場合でも。しかし、それよりも精神論よりも現実的な計算が必要だ。国内外の社会的安全網を弱体化させれば、いずれは私たち全員に影響が及ぶ、ということだ。健康や富に恵まれていたとしても、誰もが病気や不幸から無縁でいられるわけではない。米国は、諸外国とつながった世界において、自国の力を過信し過ぎないのが賢明だ。結局のところ、いつ「善きサマリア人」の助けが必要になるか分からないのだから。
(この記事は、シカゴ大司教区の英字新聞『Chicago Catholic』の許可を得て、Vatican News に転載した)
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)