・教皇が日曜正午の祈りの説教原稿から「香港」を削除した理由は…(Crux)

(2020.7.7 Crux  Editor John L. Allen Jr.)

 ROME –バチカン担当の記者たちは、完全に報道できないニュースを手にして欲求不満を感じている。それは、一つには報道の倫理に縛られているためであり、一つには、自分たち自身、本当に何が起きているのか知らないためだ。そうした”真空状態”は、左右のイデオロギーの肉ひき器を作動させ、完全な情報を逃すリスクを冒させている。

 具体的に説明しよう。

 

*事前配布の説教の予定原稿は「香港問題」に言及していた

 7月5日の日曜、教皇フランシスコは正午の祈りで説教をいつも通りすることになっていた。教皇は、説教の最後に、時々の国際情勢に関係する一つか二つのコメントをされることがよくある。そしてバチカン担当の記者たちには、記事執筆の準備ができるように、事前に説教の予定原稿が「解禁時間厳守」で報道官から配られる。

 つまり、説教で教皇が実際にお話しになる前に、そうした教皇のコメントを記事にできないルールになっている。だから、事前発表の予定原稿に書かれていたコメントでも、教皇が実際にお話しにならなかったら、そのコメントはなかったことになるのだ。それでも、教皇は普通は、あらかじめ用意された原稿の内容と大きく異なる話はされない。1つか2つ言葉を入れたり、何らかの理由で一行とばして話されることが時々あるだけだ。

 ところが、5日の正午の祈りの説教はそうではなかった。予定原稿に書かれていた「香港」に関するかなりの量の文章が、”省略”されてしまったのだ。事前に予定原稿をもらえる条件を守らねばならないから、省略された内容を報道することはできない。

 ただ言えるのは、いくつかのイタリアのニュースサイトが、解禁の条件を付けられず、説教の予定原稿の内容や、「香港」への言及がなぜ省略されたのかについてのコメントを流した、ということだ。

*「中国政府・共産党との和解の動き」の一環?

 そうしたコメントを見ると、かねてから教皇に批判的な立場の記者や評論家は、説教の予定原稿から「香港」の部分を外したのは、二年前にバチカンが中国と司教任命に関して暫定合意し、中国当局に国内の司教任命に当たっての指名権を渡したことに始まる「中国と共産党指導部との和解の動き」の一環、と論評している。

 一方で、教皇を支持することで知られる評論家や記者は、「香港」の省略は、「中国との対話」の意思表明であり、「巧みな外交的、地政学的直観」がなせる技だ、と評価する。

 長年にわたるバチカン・ウオッチャーで、保守的とされているマルコ・トサティ氏は、挑発的な問いかけをする-「教皇にさるぐつわを嵌めるために、北京はどんな紐を使っているのか?」と。

 さらにクリスティアーノ氏は、「教皇は、良い判断をされました… 香港にいる誰もが実際には反抗できない権力を持った政治体制に打ち込む対立のくさびとして、この問題を使わずに、香港と全中国の人々を実際に助けようとする、教皇の努力の一環です」と強調した。

 長い間バチカンで記者をしてきたサルバトーレ・イッツォ氏が創設したニュース・メディアFaro di Romaも、肯定派だ。その社説は、「今は中国を批判するのにいい時だ、と考えない教皇を批判するには努力が要ります… 世間知らずの人に信じられるようにするテニックはいつも同じー来る日も来る日も、同じナンセンスを繰り返すだけで十分」と書いている。

*当事者の説明なければ、憶測が乱れるだけ…

・中国の諸問題とバチカンの諸問題。この二つの極めて異なった権力がどのように関係を進めていくか、が問題だ。

・そうだとすれば、5日の日曜正午の祈りの説教で教皇が香港問題に言及しないという判断をしたことが、記者の関心を引いたのは、道理にかなっている。

・香港問題になぜ言及しなかったのか、私たちには分からない。不安感にさいなまれたのかも知れないし、大きな戦略の一環だったかも知れない。本当に説得力のある動機から生じたのかも知れないし、単純にバチカン内部の意思疎通の欠如によるものかも知れない。あるいは、まったく別の理由があった可能性もある。いずれにしても、主要な当事者たちから説明を受けるまで、私たちは、人々の個人的に偏った見解を反映することの多い臆測の中に置いておかれることになる。

 そして、記者たちの疑問は、再びここに戻るー「なぜ、教皇はそのこと(注:香港問題)を言わなかったのか?」。

 この問いは、中国あるいは教皇フランシスコの指導力、あるいはその他をめぐる広範な議論の中に組み込まれるに一定の場を占めることになるかどうかも分からない。だが、これからの日々、記者たちがどれだけだけ努力しても、党派的な運動と見なされてしまうのではないか、という残念ながら理解できる不安から仕事をする意欲を失うことのないように、と希望する人はいるのだ。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。

Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

 

このエントリーをはてなブックマークに追加
2020年7月8日