【教皇、ルクセンブルク・ベルギー訪問】教皇はベルギーで、”大歓迎”の裏で厳しい戦いを余儀なくされるのか(Crux)

(2024.9.22 Crux Editor   John L. Allen Jr.

*人気DJの教皇訪問への拒否反応、「脱洗礼」の流れ

 フランドル地域(ベルギー西部を中心に、オランダ南西部、フランス北東部にまたがる地域)で人気のあるラジオ、テレビ司会者、 トム・デ・コック(41)が、教皇フランシスコが28日に訪問を予定している、自分の母校、ルーヴァン・カトリック大学のフェローシップを放棄し、祝賀会にも出席しない、と表明した。

 地元紙の報道によると、彼は、「養子縁組詐欺、戦争、横領、権力の乱用、女性の抑圧、何十万人もの子供たちの組織的な虐待」に加担している教会の長のために、レッドカーペットを敷くことに反対する、とし、「教皇をあたかも尊敬すべき国家元首であるかのように受け入れるなどということは、私には理解できない。”犯罪組織”のトップなのに… 単刀直入に言うと、そのことに気づく前に、修道院の庭であと何人の赤ちゃんの体を掘り起こせばいいのだろうか?」と疑問を呈している。

 誰もが彼ほど辛辣に批判しているわけではないかもしれないが、デ・コックのような人物は決して一人ではない。例えば、最近のベルギーのトレンドの一つは「脱洗礼」-教会の洗礼名簿から自分の名前を削除するよう人々が要求すること―だ。

 個人がもはや教会の一部になることを望まず、自分の名前を登録簿に残すことを望まない。一部のベルギー人は、利用者の要求に応じて機関が個人データを削除することを義務付ける欧州法の規範を、教会が遵守するよう裁判所に求めている。

 こうして、教皇の46回目の今回の海外訪問はある意味で、最も困難なものの一つになりそうだ。理論的には、”ホームコート”で試合をする教皇が”アドバンテージ”を受けるに違いない、と考える人もいるかもしれない。

 

 

*カトリック人口は全人口の99%から57%に、日曜ミサの参加者は全信徒の2.6%のデータも

 

 16世紀に起きた宗教改革の間、スペイン・ハプスブルク家の支配は、新しく創設された二つの修道会、イエズス会とカプチン会の使徒的熱意と相まって、教会のために現代のベルギーを維持することに成功した。1900年までの公式統計では、ベルギーの人口の99パーセントがカトリック教徒であるとされていた。

 今日では、そのシェアは57パーセントまで落ちているが、教会は依然として、国際的に認められた2つの大学を含むカトリック学校の広範なネットワークを誇っており、また、国内の病院のベッドの総数の半分以上、老人ホームの3分の1を提供している。そして教会の役割を評価する一つのしるしとして、今日に至るまで、司祭の給与は国家によって支払われており、経済研究所によると、約1800人の司祭の平均年収はドル換算で約5万8000ドルで、国家支出は年1億ドルを超える。

 だが、ベルギーのカトリック教会の運命は、3つの基本的な力の同心円状に置かれ、ここ数十年で大幅に暗くなっています。第一は、西ヨーロッパにおける社会が、ますます世俗化に向かっていること。例えば、日曜のミサへの出席状況は、公式には、全信徒の6〜10パーセントと推定されており、これでも十分に悲惨だが、2022年10月第3日曜日の実際の全国集計では、信者席にいた人は17万2968人。全信徒のわずか2.6%だ。

 司祭、修道者、結婚式、洗礼、堅信など、どのデータを見ても、その数は全体的に急激に減少している。2017年から2022年の間だけで、ベルギーの教区司祭は915人減り、減少率は33%にもなった。

  だからといって、光が消えようとしているわけではない。教皇の今回のベルギー訪問の主催者によると、29日に予定している首都ブリュッセルのキング・ボードゥアン・スタジアムでの教皇ミサの入場券が当初予定の3万5000席が完売し、席を増設し2500枚を追加発売することになった。

 

 

*急速な社会の世俗化で、教会は”サブカルチャー”を代表する存在に?

 

 だが、それにもかかわらず、長期的な軌跡は教会にとって励みになるものではなく、教会はますます世俗的な環境の中で”サブカルチャー”を代表する運命にあるように思われる。

 教会の立場に影響を与える第二の力は、中絶、産児制限、同性愛者の権利、女性などの問題に対するカトリックの立場を非常に不人気にしている国の大部分が進歩的な政治情勢だ。

 ベルギーは2003年に世界で2番目に同性婚を合法化した国となり、2011年から2014年までは、同性愛者であることを公表しているエリオ・ディ・ルポが首相を務め、当時、LGBTQ+を自認する首相は世界で2人しかいなかった。最近のUS News and World Reportの調査で、ベルギーは、「世界で最も進歩的な10か国」の1つにランクされている。

 極右勢力は最近、6月の選挙で歴史的な躍進を遂げたが、ほとんどの評論家は、それは主に「反移民票」であり、基本的にリベラルで寛容な社会的態度の真の変異を意味しない。と考えている。時代の一つの兆候は、クリストフ・デ・ボッレという名の公然としたゲイの歌手が、どうやら教皇のために演奏するらしいことだ。クリストフは2021年に「教会が宗教的である必要はない。それはただの制度です。時代遅れの機関だ」と発言している。

 教皇は、「異端者、女性に力を与え、LGBTQ+コミュニティに手を差し伸べる」という彼の個人的な評判のために、多くの論争の的となっている問題に対する教会の保守的な姿勢への批判をあまり感じないかもしれない。だが、ベルギーの現在の一般的な社会情勢は、おそらく、どんなに個人的に人気があっても、どの教皇もベルギーに”厳しい部屋”を感じる可能性が高いことを暗示している。

 

 

*聖職者の性的虐待で、司教解任、教会の組織的隠ぺい工作も疑われている

 

 そして最後に、聖職者による性的虐待スキャンダルがある。

 ベルギーの教会は、この問題で特に大きな打撃を受けている。それには、3月にバチカンが解任したロジャー・ヴァンゲルウェ司教の悪名高いケースも含まれる。2010年に初めて告発が表面化した後、ヴァンゲルウェは最終的に、自身の甥に対する行為を含むいくつかの性的虐待行為を認めた。だが、告発を受けた捜査の過程で、ヴァンゲルウェの甥の一人に対して、告発を公にするのを思いとどまらせたように思わせる元ブリュッセル大司教のゴッドフリード・ダニールス枢機卿の会話の録音が明らかになり、組織的な隠蔽工作があったを受け止める一般の印象を煽る結果になっている。

 最近、カトリック司祭による複数の虐待事例を記録した「Godvergeten」または「Godforsaken」と題されたテレビ・ドキュメンタリーが放映されたが、全国的な関心を呼び、各エピソードで視聴者は約80万人、フランドル地域の総人口の約12%を占めた。メディアの反響を考えると、少なくとも300万人がその内容をフォローしていたと考えられている。フランドル地方政府の暴力被害者のためのホットラインは、シリーズ終了後に電話がそれ以前より31%の増加を記録した。この放送は、フランダース地方の新たな議会調査の火付け役にもなり、一部の議員は「政府による司祭の給与支給を止め、その分を被害者の補償基金に充てる」という提案を出した。

 そのような衝撃の後でさえ、多くの評論家は、「ベルギーの司教たちは、スキャンダルの教訓を完全には理解していないようだ」と言っている。例えば、5月には、虐待で告発された3人の司祭が大司教区の長老評議会に選出される候補者名簿に載せられたことが明らかになり、ブリュッセルでは広範な反発を引き起こしている。リュック・ターリンデン大司教は「重大な過ち」としてすぐに謝罪したが、多くの人々はなぜそのような失態が可能になったのか疑問に思わずにはいられなかった。

 

*教会の信頼回復の”最後のチャンス”になるか

 教皇は、ベルギー滞在中に15人の虐待被害者と面会する予定だが、それさえも、論争を引き起こしている。デ・ケルクの被害者擁護団体、「Werkgroep Mensenrechten(教会における人権のための作業部会)」は、「昨年のドキュメンタリーに登場した被害者はこの15人には、含まれていない」と異議を唱えている。

 要するに、教皇は、相当に嫌気をさしている大衆に、「カトリック教会にもう一度チャンスを与えるように」、あるいは、少なくとも、「カトリック教会を敵と見なすのをやめるように」と説得するために、ベルギーで登るべき険しい山を目前にしている。

 確かに、多くの教皇の海外訪問は、事前に多くの悲観的な予想を生み出し、彼が実際に到着すると、熱狂的な群衆の肯定的なイメージに置き換えられているが、基本的な文化的状況に永続的な影響を与えることができるかどうか、まだ疑問が残る。

 彼がそれをやってのけることができれば、他の深く世俗的な社会を巻き込むための”テンプレート”を貼り付けられるかもしれない。もしそれができないなら、これが教会の最後の、そして最高のチャンスだったのではないか、と後で思う人が出るのではなかろうか。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。
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2024年9月26日