☩マドリード二日目「分断が進む世界で、希望の絆を紡ぐ『新たな主役』となるように」ー文化、芸術、経済、スポーツ関係者との集い

(2026.6.7  Vatican News   Linda Bordoni)

   スペイン訪問中の教皇レオ14世はマドリード訪問二日目の7日夕、モビスター・アリーナで開かれたイベント、「文化、芸術、経済、スポーツの世界とのネットワークを紡ぐ」に参加。「急速な社会・技術的変化の中で人間を守る」という組織・団体と個人に共通する責任について語られ、分断が進む世界で「連帯と対話、そして希望の絆」を紡ぐ「新たな主役」となるよう呼びかけられた。

 イベントの参加者には、「信仰と芸術的表現の不変の関係」について考察した映画俳優のアントニオ・バンデラス氏、教育・科学界を代表して発言したマドリード・コンプルテンセ大学のホセ・マリア・コエジョ・デ・ポルトガル学長、「人工知能や経済変革がもたらす倫理的課題」について語った企業・労働団体の代表者たち、そしてスポーツを通じて学んだ「回復力」「謙虚さ」「連帯」という価値観を強調した著名なアスリート、テレサ・ペラレス選手とカロリナ・マリン選手がいた。Antonio Banderas addressing the Pope at the event

(写真左:教皇に語りかける映画俳優のアントニオ・バンデラス氏=@Vatican Media)

 

*私たちはどのような遺産を残しているのか?

 彼らの言葉や、著名なダンサー、サラ・バラス氏とそのカンパニーによるフラメンコ公演を聴いた後、教皇は挨拶の冒頭で、スペインの豊かな文化遺産を称賛され、都市や記念碑、大学や教会、音楽、芸術、舞踊、そして食文化など、同国の歴史の至る所に織り込まれた美しさについて語られた。

 そのうえで教皇は、「過去の世代の功績に対する称賛は、必然的にすべての人に関わる問いを提起します―『私たちは未来にどのような遺産を残しているのか、どのような共同体を築いているのか?』と」とされ、「社会が持つ革新とコミュニケーションへの並外れた能力」を認めつつも、「技術的、経済的進歩が人間そのものから切り離されてしまえば、そのより深い目的を見失う危険性があります」と注意された。

 そして、「私たちは”メディアの専門家”や”有能な生産者”としてのリスクを負っていますが、なぜ、どのような目的で、誰と共に、誰のために生産しているのかについては、不確かなままになることがあります」と指摘された。

(写真右:サラ・バラスと彼女のフラメンコ・カンパニー=@Vatican Media) Sara Baras and her flamenco company at the Weaving Networks event in Madrid

*「人間性の専門家」としての教会

 また教皇は、聖パウロ6世と第二バチカン公会議の教えをもとに、現代世界との対話に対する教会の関わりを再確認され、「決定的な問いは、今も変わらない。『真に人間であるとは、どういうことか?』です。歴史を通じて人類に寄り添ってきた教会の数世紀にわたる経験に基づき、キリスト教の信仰が、尊厳と共通善への道を提示するのは、イエス・キリストの中に人間存在の最も深い問いへの答えを見出しているからです」と強調。

 先に出された回勅Magnifica Humanitas』を引用して、「人間こそが、『教会の道』であり、真の包括的発展の中心であり続けます… そして、文化そのものが、人類が、そのアイデンティティを表現し形成する主要な手段の一つである以上、教会は、文化に対して無関心でいることはできません」と言明された。

(写真右:イベントで教皇に語りかけるカロリナ・マリンとテレサ・ペラレス=@Vatican Media)Carolina Marin and Teresa Perales address the Pope at the event

私たちは何を育んでいるのか?

 教皇は続けて、「文化(culture)」と「耕作(cultivation)」という語の語源的なつながりについて考察され、イベント参加者たちに「現代社会が、将来の世代のために、何を蒔いているのかを考えるように」と促された。

 そして、「私たちの社会で、何が繁栄し、何が静かに枯れつつあるのか?」「私たちはどのような価値観を守り、どのような価値観を死なせているのか?」-これらの問いには、「傾聴、尊重、そして出会いに基づいた、誠実かつ継続的な社会的対話が必要です」と説かれた。

 

 

*ネットワークは相互尊重のもとで集うことを必要とする『芸術』

 このイベントの中心的なテーマは、「ネットワークを織りなす」というイメージで表現された。教皇は、これを「人々や組織・団体が相互尊重のもとで集うことを必要とする『芸術』」と形容され、「そのような対話は、常に人間の尊厳を中心に据えねばなりません」とされた。

 そして、「大学は、真理を見捨てることも、労働の現実から孤立することもあってはならない。企業は、従業員を単なる経済的変数に還元してはならない。芸術は、エリートだけの専有物になってはならない。スポーツは娯楽や利益追求に還元されてはならない。技術の進歩は、高齢者や貧しい人々、そして声が届きにくい人々の声に常に耳を傾けなければならないのです」と強調。

 さらに、「コミュニケーションそのものが道徳的責任を伴う。あらゆる表現形式は語りかけ、意味を伝える。それは人を傷つけることも癒やすことも、期待を打ち砕くことも、新たな地平を開くこともできます」と注意された。

 

Pope Leo XIV addresses the public at Madrid's Movistar Arena

*創造主は愛の糸で人間を織られた

 教皇はまた、「キリスト教の視点から言えば、真の対話は、すべての人間の内在的な尊厳を認めることから始まります… 創造主は、愛の糸で人間を織られました。(そうしておられた人間の)尊厳は、制度や政府によって与えられるものではなく、生来のもの、奪うことのできないもの、それゆえに、あらゆる真の社会的関係の基礎を成すものなのです」と説かれた。

(写真右:イベント参加者たちに語りかけるレオ14世教皇=@Vatican Media)

 

*変容をもたらす美

 教皇は、美と芸術的表現の役割にも繰り返し触れられ、信仰は「詩や音楽を生み出し」、「美を生み出す」というベネディクト16世の言葉を引用し、「人々を内面から変える体験―歌、詩、教会、声、視線、あるいは友人同士で楽しむ遊びさえも―」について語られた。

 教皇は、聖週間の『サエタ』*からロペ・デ・ベガ**、アビラの聖テレサ、十字架の聖ヨハネ、カルデロン・デ・ラ・バルカ***の著作に至るまで、スペインの豊かな精神的・芸術的伝統を挙げ、「人間の存在における物質的側面と精神的側面の間の深遠な対話の証し」として示された。

 *注*聖週間にスペインで行われる。キリストの受難や聖母マリアの悲しみを悼み、群衆の中からバルコニー等に向かって捧げられる無伴奏の即興フラメンコ歌唱で、ギターなどの楽器を使わず、感情をむき出しにしてアカペラで歌われる宗教的な祈り。**セルバンテスと並び称されるスペイン黄金世紀(16〜17世紀)を代表する劇作家・詩人。***同じくスペイン黄金世紀を代表する劇作家・詩人。シェイクスピアと並ぶバロック演劇の巨匠とされ、哲学、宗教、名誉などをテーマに数多くの名作を残した。

 

*欧州はキリスト教の遺産で数多くのものが形成された

 公的生活へのキリスト教の貢献に話題を移された教皇は、信仰の霊感によって設立された数え切れないほどの学校、病院、慈善活動を挙げ、欧州そのものがキリスト教の遺産によってどれほど形作られてきたかについて、省みるよう促され、「信仰の影響がなくても、欧州は(影響があった現在と)同じ姿だった、と本気で信じられるでしょうか?」と、参加者たちに質問。聖ヨハネ・パウロ2世の言葉を引用し、「恐れるな。キリストへの扉を大きく開きなさい」と呼びかけられた。

 

*美徳や能力にもかかわらず、排除されているのは誰なのか?

 教皇はまた、貧しい人々の苦境を考察の中心に据え、「その美徳や能力にもかかわらず、排除されているのは誰なのか?」と問いかけ、「貧しい人々の状況は、社会、政治体制、経済、そして教会そのものにとって、依然として課題であり続けています」とされ、教会の社会教説をもとに、「経済的・制度的構造が、すべての人の全人的な発展を促進し、すべての人の責任ある参加を促す場合にのみ、公正であると見なすことができるのです」と強調された。

*”形式的な教育”よりも競技場で、尊敬、忍耐、フェアプレーを効果的に学ぶ

 教皇は、挨拶の終わりに、ご自分にとって特に身近な世界であるスポーツについて考察され、「多くの人々が、形式的な教育を通じてよりも、競技場において、尊敬、忍耐、フェアプレーをより効果的に学びます。運動選手こそが、悔しさを抱かずに負けること、他者を辱めることなく勝つこと、そして失敗から再び立ち上がることを社会に教えています」と指摘。

 かつて運動選手でもあった聖ヨハネ・パウロ二世の言葉を引用され、「暴力や分裂が共同体を結びつける絆を脅かしている今、スポーツは一致、平和、社会的結束に対する力強い証しとなり得ます」と強調された。

未来は、人類の真の偉大さが今後も輝き続けるかどうかにかかっている

 そして最後に、教皇は、参加者全員に対し、「新たな社会の構築の主役になるように。それは、時間が永遠へと開かれており、文化が記憶を保存し対話を促し、教育が知的な誠実さをもって真理を追求し、芸術が驚嘆を呼び起こし、ビジネスがすべての人の尊厳を認め、そして仕事が希望の源であり続けるような社会です」と呼びかけられた。

 さらに、聖パウロの「喜ぶ者と共に喜び、泣く者と共に泣け」という勧めを引用し、「調和と平和のうちに生きるように。未来は人類の真の偉大さが今後も輝き続けるかどうかにかかっている。人生のあらゆる領域を調和させる新たなネットワークを紡ぐための、新たな主役となりましょう!」と訴えられた。

 (翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

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2026年6月8日