・シノドス事務局が世界の司教協議会報告もとに”シノドスの道”中間まとめ発表ー課題は浮き彫りだが解決策はまだ(Crux)

(2022.10.27 Crux  Senior CorrespondentElise Ann Allen)

 ローマ – バチカンは27日、教皇フランシスコが主導する”シノドスの道”の歩みの第二段階ー大陸レベルーのまとめに向けた作業文書を発表した。

 「“Enlarge the Space of your Tent(あなたのテントのスペースを広げよう)」というタイトルのこの文書は、歩みの第一段階ー小教区・教区レベルーの成果について世界各国の司教協議会からバチカンのシノドス事務局に送られた報告をまとめたもの。大陸レベルの歩みのための作業文書の役割を持つ。

 今回の発表を受けて、先月から来年、2023年3月にかけて、世界の7 つの大陸すべての司教協議会がそれぞれの大陸ごとに集まりを持ち、この作業文書の内容を熟考し、意見を交わし、それをもとに報告書をまとめ、シノドス事務局に送る。そして、バチカンで来年、2023年の10月にバチカンで開かれる世界代表司教会議通常総会に第一セッション、2024年10月の第二セッションのための作業文書の起草に使用される予定だ。

 昨年10月から始まった”シノドスの道”の”synodos”は、これまで「世界代表司教会議」を指す言葉だった。だが、教皇フランシスコやシノドス事務局が頻繁に使うようになった”synodos”や”synodarity”の意味はもっと広く、難解で、世界の教会関係者を悩ますもととなってきたが、「聖職者と信徒のすべての教会員が教会の活動と使命についての決定に参加する、共働の協議的なスタイル」を指すと理解されているようだ。

 27日に発表された大陸レベルの歩みのための文書は、昨年以来の”シノドスの道”の歩みを世界的に見ると、必ずしも「聖職者と信徒のすべて」の参加が実現しておらず、特に西側諸国などでの参加率が低くなっているものの、「全ての期待を上回った」と肯定的な評価をしている。シノドス事務局にこれまでに報告が送られてきたのは、114の司教協議会でうち15は東方カトリック教会の全部の司教協議会。ほかに教皇庁の23の部署のうち17部署、修道会総長会議のいくつかの国際機関や一般信徒の活動体、となっている。

 これらから出された報告のまとめの要約版とも言える今回の文書では、「教会活動への女性の参加の欠如」「LGBTQコミュニティや、教会から正式に認められていない夫婦など、いわゆる”周辺”の人々の受け入れに消極的であること」など、これまで言われてきたにもかかわらず、未解決の問題が浮き彫りにされている。

 聖職者による未成年者や信徒などに対する性的虐待問題、旧ラテン典礼の是非、いまだに続く聖職者主義の問題、貧富の格差の深刻化、なども指摘され、「金持ちで高学歴の個人や家族の言うことが受け入れられ、教育のない、貧しい人は無視されている」と感じている信徒が少なくないことも、多くの司教協議会から出されている。

 また、「取り組みが始まった1年たった現在でも、『sinodos,sinodalityが何を意味するのか、理解が困難で、それが、(”シノドスの道”の)歩みに疑問を持つ一部の聖職者や信徒からの抵抗を生んでいる」との指摘もあった。

 さらに、「カトリック教徒が少数派の国や地域、あるいは様々に異なるキリスト教の儀式や教会がある地域においては、諸宗教との協力や、キリスト教の信仰一致の取り組みに、一層の努力が必要とされている」ことも書かれている。

 作業文書の主な内容は次のようなものだ。

 

 

*教会から排除され、”シノドスの道”の歩みに加われない人々がいる

  今回発表された文書には、以上のような課題は挙げられたものの、解決策はほとんど示されていない。

 だが、多くの司教協議会の報告では、教会が持つべきビジョンとして、が「包括的だが、均質ではなく、すべての人を守り、開かれていて、自由に出入りできるもの」とすべきだ、との方向は明確に主張されている。また、現在進められている”シノドスの道”の中心には「イエスの教えが示す徹底的な”包容”、帰属意識の共有、そして深い歓待があらねばならない」と主張している。

 またこの文書では、教会や一般社会で疎外感を抱いているのは「女性、再婚離婚、ひとり親、一夫多妻制の結婚生活を送っている人々、LGBTQ の人々、司祭職をやめた男性、貧しい人々、高齢者、先住民や移民、麻薬やアルコール中毒者、人身売買の被害者」「聖職者の性的虐待などによる被害者、受刑者、そして人種、民族、性、文化などで差別され、暴力に苦しむ人々」であり、世界の多くの教区で、これらの人々は”シノドスの道”の歩みの中にはおらず、「彼らのことを話し、そのことを嘆くのは、彼ら以外の人だ」と指摘。

 この文書は、「若者や障害者の声にもっと熱心に耳を傾けること」「独身の誓いを破った司祭の妻や子供、深刻な不正や差別の危険にさらされている人を温かく受け入れ、守ること」の必要性も強調している。

 

*”シノダリティ(共働性)”は「共に歩むように」との神の人類家族すべてへの呼びかけ

 さらに、”シノドスの道”で強調されている「シノダリティ(共働性)」は、信仰や文化的背景に関係なく「人類家族すべてと共に歩むように、との神からの呼びかけ」であると明言。

 現在の世界にはびこる部族主義、宗派主義、人種差別、貧困、ジェンダーの不平等に関連する問題を強調し、これらの問題の解決、平和構築の取り組みにおいて教会が果たすべき役割を強調している。

 関連して、多くの司教協議会から出された報告には、「キリスト教徒間の一致なしに完全なシノダリティは存在せず、一致は、異なる典礼を持つ教会の緊密な交わりの呼びかけから始まる」と述べられている、としている。

*非キリスト教文化への適応

 「非キリスト教文化への適応」も文書では、主要課題の一つとして取り上げられ、ラオスとカンボジアの司教協議会では、教会や聖職者の活動で「もっと有意義な異文化間アプローチをするように」あるいは「現地の文化ともっと大幅な統合が、特にミサ典礼においてなされるように」との要望が出された。

 

*聖職者主義に対する強い批判

 聖職者主義も主要課題とされ、多くの司教協議会が報告の中で「司祭を育成し、共に歩み、疎外された司祭を作らないこと」を強く希望し、聖職者主義を「霊的な貧困化、叙階された聖職者の真の善きものを奪う形」、「聖職者を阻害し、一般信徒を害する文化」と批判。

 文書は「聖職者主義的なメンタリティは、信徒たちを神から引き離し、洗礼を受けた人々の間の関係を損ない、硬直性を生み、法的な権力に執着し、”奉仕”ではなく”権力”として、聖職者の権威を行使するものだ」とし、「聖職者主義は、聖職者と同じように一般信徒にとって誘惑となるもの」であり、その解決には、本質的にもっと協力指向のリーダーシップをあらたに作ることを考える必要がある、と指摘している。

 

*女性を対等に扱う文化を作れ

 この文書で最も明確に言及されことの一つは、教会文化の改革、とくに女性の位置、役割に関する教会文化を改めることで、「この問題に向けた認識と意識の高まりが、全世界から示された」とし、すべての大陸の司教協議会連盟からの報告には、男女両方の修道会から「女性を”神の民の平等なメンバー”として評価すべき」との呼びかけがあったとしている。

 そして、文書は、「女性はミサ典礼への出席者、教会活動への参加者の大多数を占めているが、男性は”少数派”にもかかわらず、教会の意思決定と指導的役割の大半を担っている」と指摘。

 この矛盾を解消するために、「男性にもっと教会活動に積極的になるような工夫をすること、女性が教会活動のあらゆる責任ある立場に参画できるようにすること」だが、すべての司教協議会からの報告は「そのための決定的な方策で合意したものはない」とし、「どのようにすれば女性に教会の統治管理で積極的な役割を与えることができるか、の検討を続けることを希望し、小教区において説教のための十分な訓練を受けることや、女性の助祭叙階についても触れている。

 女性の司祭叙階については様々な意見が、世界の司教協議会連盟の報告には出されており、「ある報告書には支持する意見、他の報告書には”触れない問題”とする見解が示されている」とし、また、女性がすでに担っている教会での役割についても、もっと口に出して定着させるべきだ、との主張もされている。

 

*“シノドス的(共働的)”な教会の仕組みを作る

 またこの文書は、教会活動の特定の側面に関するいくつかの意見の相違で緊張があったことを認める一方、「緊張は恐れるものではなく、破壊的にならないように前向きのエネルギー源として活用する必要がある」とした。

 そして、特に教会の統治に関して、シノダルな形と機関の構築と構造に進む方法を与える必要があり、教会法がこの過程に付随すべきであり、「現在のルールに必要な変更を加えるような教会法の改正」も必要になる可能性を示唆した。

 また、「シノドス的な慣行、あるいは枠組み」がどのようなものかについて、文書は明確な定義をしていないが、各大陸のレベルでは「確立されたシノドス的な慣行」が不足しており、対処する必要がある、と述べている。

 さらに、各国・地域レベルでは、司牧評議会、経済と教区の評議会が、共働性と透明性を助長する良い歩みをしており、これらの組織は「不可欠」で、「包括、対話、透明性、識別、評価、権限を推進する制度的な場所として、一層、その役割を果たることが求められている。実現には、民主的な多数決でなく、共同体の識別を働かせることが重要」とし、具体的には、大学や学術関係の期間がシノダリティの原則に沿って教育プログラムを研究、策定することを提案している。

 関連して、司教協議会連盟の圧倒的多数の報告が「”シノドスの文化”を幅広く支援するための人材の継続的な養成」と求め、「シノドスを推進する専門家、チームと指導者の養成、特に、司祭のための養成コースを設ける」という案も浮かんでいる。

*旧ラテンミサ典礼をめぐる論争への対応は

 文書では、教皇フランシスコが旧ラテンミサ典礼を規制強化する方針を打ち出して以来、世界中で起きているこの問題をめぐる教会関係者の緊張関係にも触れ、特に米国司教協議会会議(USCCB)の報告は、問題について、「ミサ聖祭をどのような典礼で祝うかについての意見対立が、時には『敵意むき出し』のレベルにまで達することもある、と多くの教会関係者は、感じている」と深刻な事態を説明しいる。

 これについて文書は「キリストにおける一致と愛の秘跡としてのミサ聖祭をめぐるイデオロギー的な対立が、教会に亀裂や分裂を招く理由になってはならない」とする一方、多くの司教協議会連盟の報告では、「すべての違いを受け入れ、すべての奉仕を尊重し、すべてのカリスマを認め、すべての信者が積極的に参加できるようにする『シノドス的なミサ典礼』の実施が提唱されている」とし、さらにミサ典礼で改めるべき点として、「司式者に集中しすぎ、会衆が受け身になりがちな典礼の見直し」が挙げられ、「一般信徒の積極的な参加、女性も聖職者の役割を担でるようにする可能性」の検討も挙げられている。司祭による説教の「質」の向上は、各地の司教協議会連盟から”満場一致”で報告されている、という。

 また、教会のミサ典礼に関わる懸念事項として、離婚して再婚した夫婦や一夫多妻制の下で結婚している人が聖体拝領をできずにいる問題なども強く指摘されている。

 

*”シノドスの道”の歩みをこれからどう進めるかー大陸レベルと各国・地域別の司教協議会での対応は

  ”シノドスの道”の歩みのこれからについて、文書は、9月から始まった現在の各大陸レベルの歩みに焦点を絞って、次のような三つの問いかけをしている。

①この作業文書を共に読み、祈った後で、あなたの大陸の教会での生きた経験と現実に最も強く心に響き、残った箇所はどれか?あなたにとって新しい経験、またはあなたを照らす経験となるものはどれか?

②作業文書を読み、祈った後で、あなたの大陸の観点から、特に重要な緊張や相違となっているものは何か?”シノドスの道”の次の段階で対処し、検討すべき課題や問題は何か?」

③上記の二つの問いかけから、世界中の他の教会と共有でき、来年10月の世界代表司教会議(シノドス)通常総会の第一セッションで議論すべき優先事項、再浮上するテーマ、取り組みへの呼びかけは、どのようなものか?

 そして、このような問いかけへの答えを含めて、世界の7つの大陸でそれぞれ司教協議会の集まりが開かれ、バチカンのシノドス事務局に出す最終報告を策定する。これらの最終報告は、来年6月までに策定されるシノドス通常総会の公式作業文書の基礎に使われる。

 また今回の作業文書は、「あらゆるレベルで信徒たちが大陸レベルの集まりに参加する」こと、その集まりが「単なる司教の集まりではなく、教会としての集まりであり、参加者の構成が、神の民の多様性を適切に表したものとなること」を求めている。

 このため、大陸レベルの作業文書は、世界のすべての司教協議会と教区の司教に送付し、来年秋の世界代表司教会議(シノドス)までに、司教協議会は上記の3 つの問いかけをもとに「識別のプロセス」を実施、要約にまとめ、大陸レベルの集まりで共有し、最終的には20ページの報告にまとめて、来年3月末までにバチカンのシノドス事務局に送付すること、としている。

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2022年10月28日