(評論)教皇が全権を握る”シノダル(共働的)教会”に内在する緊張は緩みそうにない

(2024.10.8  Crux  Managing Editor   Charles Collins)

  シノダリティ(共働性)に関する世界代表司教会議(シノドス)総会第2会期が2週目を迎える中、8日に公開された教皇フランシスコがベルギー訪問中にイエズス会士たちに話された内容では、今日の教会におけるシノダリティ(共働性)の役割に関する教皇フランシスコのビジョンについてさらに詳しく述べられ、現代のカトリック教会におけるシノダリティと教皇の権力との間の緊張関係が強調される形になっている。

 教皇は9月28日にベルギーでのイエズス会士たちとの会合で「東方キリスト教徒はシノダリティを失っていないが、(教皇をトップとする)西方カトリック教徒は失っている」と語った。

 東方正教会では、代表司教会議(シノドス)が新司教の選出と国内の教区法の制定を担当している。東方カトリック教会もそのような目的でシノドスを使っている。西方では、初期教会の時代にシノドスが頻繁に開かれ、重要な神学上の議論もそこでされていた。だが、教皇の権力が強まるにつれ、シノドスはあまり一般的ではなくなったが、「評議会」(おそらくシノドス=代表司教会議=の別名)は存続した。第2バチカン公会議などの”エキュメニカル評議会”は、神学的に決定的な声明を出し続け、より地域的な評議会は一般に行政問題に取り組み、神学上の問題はバチカンに留保されている。

 しかし、西洋ではシノドスの定義が多少異なっていた。まず、教区シノドス(かつては10年に1回開く必要があったが、この規則は違反が多かった)には聖職者と信徒の両方が関与した。より伝統的なシノドスと同様に、地元の教区法を検討し、必要に応じて改革することも行った。

 はっきりしているのは、第2バチカン公会議後、教皇パウロ6世がシノドス(この場合は「世界代表司教会議」)を設けたが、これには実質的な権限がまったくなかった。できるのは、教皇に受容するか拒否するかの権限を委ねる「提案」を行うこととされた。発足して間もなく、シノドスは話し合いの場となり、参加者の多くは、バチカンでのシノドスの会合で議論される公式の問題よりも、ローマのレストランでの教会の噂話に興味を持つようになっていった。

 フランシスコは教皇に選出された時、シノドスをカトリック教会の活動の中でもっと重要なものにしたいと考えていたが、では、どのシノドスのことを言っていたのだろうか?。

 教皇は9月28日のイエズス会士たちとの会合で、  「シノダリティ(共働性)はとても重要です。『上から下』ではなく、『下から上』へ構築する必要があります」と語っている。だが、歴史的にみて、シノドスは上から下へ構築されてきた。あまり使われていない教区シノドスでは、一般信徒の参加が認められていた。

 「シノダリティ(共働性)はやさしくありません。対話の側面を守ろうとしない”権威者”がいるから、ということもあります。指導者は自分で決定を下すこともできますが、評議会と共に決定することもできる。司教もそうだし、教皇もそうです」とも、教皇は語っている。

 しかし、教皇の場合、評議会は通常、極めて「彼のもの」だ。第1回バチカン公会議は、ローマ司教(教皇)が教会に対して普遍的な首位権を持ち、教皇座から話すときは「絶対的」であるという教義を確認した。実務用語では、これは”シノダル(共働的)な教会”は「すべて教皇の言う通り」を意味する。

 このことは、ドイツの教会が女性の役割に関する教会の教えを改め、性に関するより自由な見方を認めようとした「シノドス方式」の会議を始めた時に、明らかになった。教皇は 米国のAP 通信の取材に対して、ドイツの「シノドス方式」は「エリート主義的」かつ「イデオロギー的」であり、バチカン当局はそれに絶えず反対してきた、と語ったのだ。

 現在開かれているシノドス総会第2会期の会合でも、バチカンは「下から上へ」という教会の在り方に疑問を投げかけている。参加者へのインタビューでは、教皇の考えや目標が頻繁に言及されている。ちょうど6日、教皇は 21 人の新しい枢機卿を任命すると発表した。任命リストの中にある最も興味深い名前は、シノドスで開会の挨拶をしドミニコ会のティモシー・ラドクリフ神父だ。神父は長年、教会におけるLGBT+の権利を支持してきた。公式には、この問題は今会合の議論の議題から外されていたが、この問題を議論できるという「ささやきとウィンク」なのかもしれない。

 教皇がベルギーのイエズス会士たちに述べた言葉を振り返ると、疑問が湧いてくる。なぜ東方教会でシノダリティ(共働性)が消えなかったのか? 理由の1つは、教会として決定を下さなければならない時、東方教会には決定を下す「普遍的管轄権」を持つ者がいないからだ。

 今、「完全かつ最高権力の管轄権」を持つ人物は、シノダリティ(共働性)を教会の中心に据えたいと考えている。今の状況のもとで「シノダリティ(共働性)」とは何を意味するのか? それは教皇が望む意味であり、87歳の教皇の後継者が望む意味でもある。

 全権を握る教皇職をいただく”シノダル(共働的)な教会”に内在する緊張は、すぐには緩みそうにない。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年10月10日