(評論)シノドスの討議要綱に書かれなかった課題ー女性助祭、既婚の司祭、LGBTQ+… (Crux)

(2024.7.10 Crux  Senior Correspondent   Elise Ann Allen) 

 ローマ 発– バチカンでの9日の記者会見で発表された世界代表司教会議(シノドス)第16回通常総会の第2会期のための討議要綱は、それが「何を言っているか」よりも「何を言わなかったか」の方が注目に値すると、ほとんどの”バチカン・オブザーバー”が評価するかもしれない。

 昨年10月の第1会期の終わりに、1か月に及ぶ議論をまとめた統合文書は、既婚司祭、女性の叙階、LGBTQ+の受け入れなど、最も議論を呼び続けている問題について行動を促すのを期待していた人々を失望させた、と広く受け止められた。統合文書に不満を持つ人々は、今回の討議要綱が「司祭の独身制や既婚の司祭職について言及しておらず、LGBTQ+コミュニティへの言及もないこと」に改めて不満を抱く可能性がある。

 たしかに討議要綱には、「同性愛者」、「指向」、「同性愛者」についての言及はないが、「さまざまな理由で、教会共同体から排除されている、または排除されていると感じている人々、または教会共同体の中で自分の尊厳と賜物を完全に認識するのに苦労している人々に関する」、世界のすべての地域の願望を一般論として認めている。「この心からの受け入れの欠如は、そうした人々に『拒絶された』と感じさせ、信仰の旅路における主との出会いを妨げ、教会から宣教への貢献を奪う」と記述している。

*教会における女性の役割については

 女性については、統合文書と同様に、「女性がリーダーシップと統治の役割をより頻繁に担い、女性のより大きな包摂を促進することを望んでいること」を認めている。女性の司祭叙階や女性の司祭職に関する具体的な説明はないが、世界の司教協議会に「女性がすでに行っていることを認め、これらの役割をさらに発展させる」よう呼びかけ、「現代の司牧的必要に応えて、聖霊が女性に注ぐカリスマと賜物をよりよく表現する、聖職者と司牧の様式の探求」を呼びかけている、としている。

 討議要綱は、「教会の識別の過程と意思決定過程のすべての段階」に女性がより広く参加し、「既存の規定に沿って、教区と教会機関の責任ある地位へのより広いアクセス」を提案。「奉献された女性の人生とカリスマ、そして責任ある地位に就くことに対する認識と支援の拡大」、女性が「神学校、研究所、神学部の責任ある地位に就くこと」、そして「すべての教会法上の手続きにおける女性裁判官の数を増やすこと」なども求めている。

 女性の司祭職について、「いくつかの司教協議会がそれへの対応を求めたが、他の司教協議会は反対を表明」しており、「第2会期の作業の主題ではないこの問題について、神学的考察が適切な時間スケールで適切な方法で継続されるべきである」と述べるにとどまった、と指摘した。

 教皇フランシスコは、教会の統治と改革について助言する枢機卿顧問会議という最高諮問機関で、女性の参加の在り方について方法を検討してきた。昨年12月以来、このグループは、教会の生活とリーダーシップに女性をよりよく参加させる方法について、助祭叙階を含む、指導的立場にある女性たちからいくつかの提案を聞いてきた。

 教皇は先の米CBSのインタビューで、「女性が司祭や助祭に叙階されることは、起こらないだろう」と答えているが、討議要綱は、聖職の特定の形態、および教会の生活と指導への女性の参加に関するいくつかの神学的および教会法上の問題が「シノドス事務局との対話の中で、バチカン教理省に委ねられ」、議論されている、と”継続案件”であることを示している。

*聖職者による性的虐待問題も

 また討議要綱は、聖職者による虐待スキャンダルについても取り上げている。教会は、著名な芸術家で元イエズス会士、マルコ・ルプニク神父が数十年にわたって30人以上の成人女性を虐待したとして告発され、教理省によって調査されている事件など、収まることのないスキャンダルに動揺し続けている。

 関連して聖職者の権力濫用問題については、文「聖職者主義が濫用の原因」と非難し、透明性と説明責任の強化を求める声が出ていることを指摘。「現代において、教会内および教会による透明性と説明責任の要求は、金融スキャンダル、さらには未成年者や弱い立場の人々に対する性的虐待やその他の虐待による信頼の喪失の結果として生じている」と述べている。

*説明責任と透明性は司教にとどまらず、あらゆるレベルに

そのうえで、教会がよりシノダル(共働的)となり、それゆえに、より歓迎的であるためには、「説明責任と透明性が、権威(司教)のレベルにとどまらず、あらゆるレベルでの行動の核心に置かねばならない」と強調。

さらに、「権威ある立場にある人々は、この点に関してより大きな責任を負っている」と述べ、司牧計画の起草、福音宣教の方法、そして「教会が人間の尊厳をどのように尊重するか、例えば、その機関内の労働条件」に関して検討する際に、「透明性と説明責任を従来よりも重く考慮する必要がある」とし、「上司に対する説明責任の実践」は、教会では一般的な慣習になってきたが、「(軽視されてきた)権威を持つ者(司教)の教会共同体に対する説明責任」も果たされねばならない、と言明している。

そして、「透明性は、教会における権威の行使の特徴でなければならない。今日では、あらゆる分野のトップの責任がどのように行使されているかについての定期的な評価の構造と形式が、必要に応じて浮上している」と述べている。

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 この討議要綱は、昨年10月の総会第一会期の会期末に公表された統合文書に対する反省と議論をまとめた様々な報告書に基づいて編纂され、公表され、世界の司教協議会からの意見などをもとにまとめられた。

 バチカンからの情報メモによると、6月30日までに、バチカンのシノドス事務局は、司教会議、様々な宗教団体、大学、学部、信者団体、個々の共同体や個人を含む200以上の国際機関から、統合文書に関する108件の報告を受けました。

 この討議要綱は、世界中の司教、司祭、修道士、平信徒を含む神学者のグループによって書かれ、シノドスの通常評議会のメンバーが最終調整を行った後、教皇フランシスコに正式に提出されました。

 シノドスの通常評議会のメンバーは、ジャン・クロード・オロリッシュ枢機卿(ルクセンブルク)、シノドス事務局長 のマリオ・グレック枢機卿(マルタ)。同事務局次長のルイス・マリン・デ・サン・マルティン司教(スペイン)とシスター・ナタリー・ベクカート(フランス)だ。

 討議要綱の原案は、司祭、奉献者、平信徒、神学者、司牧者など、さまざまな教会の階級を代表する約70人に送られ、いくつかの修正の後、文書は通常公会議に送り返され、その後、教皇に承認を求めて送付する前に、さらに調整が加えられた。

 討議要綱は5つのセクションに分かれ、序論から始まり、シノドスを理解するための基礎に捧げられたセクションが続く。教会の「宣教シノドス生活」に焦点をあてた「密接に絡み合った」3つの部分が続き、その第1は、「神との関係」「他者との関係」「教会間の関係」の視点だ。

 第4部では、前節で探求した関係のダイナミックさを具体的に支え、育む道に焦点を当て、第5部では、信仰に根ざした、これらの関係の具体的な場所、およびこれらの関係の違いと相互関係の性質に捧げられている。

 また、情報ノートが「神学的助成」と呼ぶものを提供し、instrumentum laborisで提示されたさまざまなテーマの正典的および神学的参照を提供します。これらの言及は、シノドスの参加者が作業文書の内容の根源を理解するのを助けることを目的としており、聖書、教会の伝統、第二バチカン公会議、教皇フランシスコの教導文書からの参照を指し示しています。

 今年10月のシノドスに関する世界代表司教会議総会の最終会合では、過去と同様に、教皇に提出する最終文書が作成され、熟考と使徒的勧告の可能性が期待されているが、女性の助祭叙階のような具体的な問題への言及が欠如していることから、一部のオブザーバーは、教皇が「最初からコンセンサスを欠いたホットな問題で議論を脇道に逸らさないように、潜在的に扇動的な問題をテーブルから外した」と見ている。

 教皇は昨年10月の総会第一会期の開会に先立って、5人の保守的な枢機卿がこれらの問題について提起した一連の疑念に対する回答を発表し、その中で、女性の司祭叙階の禁止を再確認する一方、それは「研究可能である」と述べ、条件付きで同性婚の祝福に慎重な扉を開いた際にも、同様の対応をしている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年7月11日