(2023.7.8 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)
ローマ – 10月に開かれるシノダリティ(共働性)に関する世界代表司教会議(シノドス)総会の参加者363名のリストは、世界のカトリック教会から出ている声にバランスを取っているように見えるが、同時に教皇フランシスコ治世下の緊張も浮き彫りにしているようでもある。
10月4日から29日まで開かれる第16回のシノドス総会の第一期は、「シノドス(共働)的教会のために:交わり、使命、参加」のテーマのもとに、教会の活動と仕組みをいかに変革し、教会をより開かれた場にするか焦点を当てた議論が展開される見通しだ。具体的には、教会における女性の役割の抜本的向上、女性の司祭職復活、あるいは、 LGBTQや離婚・再婚した信者への対応、聖職者による性的虐待の危機への対処などが議論されると予想される。
*全体として”バランス”のとれた代議員の構成だが
総会参加者は、バチカンのシノドス事務局、各国司教協議会、大陸の司教協議会連盟、修道会や研究機関、さらに、教皇フランシスコ個人によって選任されたが、最終的には全員が教皇の承認を必要とした。教皇フランシスコ自身が任命したのは50人だが、全体的としてみてかなりバランスのとれた構成になっているようだ。
だが、総会参加の米国の10人の高位聖職者(そのうち5人は米国司教協議会によって、5人は教皇フランシスコによって指名された)を例に挙げると、依然として代議員の立場に差が見られる。
司教協議会が選んだ5人の代議員には、ウィノナ・ロチェスターのロバート・バロン司教、ニューヨークのティモシー・ドーラン枢機卿、そして米国における”シノドスの道”の歩みを主導し、バチカンのシノドス事務局によってシノドス総会の準備を任されたブラウンズビルのダニエル・フローレス司教がいる。フォートウェイン・サウスベンドのケビン・ローズ司教と、米国騎士修道会のティモシー・ブロリオ大司教と米国司教協議会の会長。これらの高位聖職者のほとんどは従来、穏健保守派とみなされ、時には教皇フランシスコのより進歩的な精神とは完全に歩調を合わせてはいないこともあった。
教皇自身が選任した5人には教皇の重要な”同盟者”が何人かいる。
シカゴのブレーズ・キューピック、ワシントンのウィルトン・グレゴリー、 サンディエゴのロバート・マケルロイの3人の枢機卿は教皇が枢機卿に任命している。ニューアークのジョセフ・トービンは教皇が任命した代議員ではないが、教皇フランシスコによって枢機卿にされており、シノドス評議会のメンバーだ。バチカン未成年者保護委員会委員長のボストンのショーン・オマリー枢機卿も、教皇によって代議員に選任された。シアトルのポール・デニス・エティエンヌ大司教と、LGBTQコミュニティへの司牧的支援を明確に提唱したことで物議を醸しているイエズス会のジェームス・マーティン神父も代議員に選任した。
*各国司教協議会選任の”穏健保守派”と教皇選任の”進歩派”
一般に、米国司教協議会が代議員に選んだ高位聖職者に共通する穏健保守的な思考は、教皇による代議員の任命が”自身の政策を押し通そうとする意欲の表れ”と見なされるのと同じように、”反抗的な行為”とし見なされる可能性が高い。
教皇が選任した代議員について、米国以外を見ても”同盟者”がいる。フランスのジャンマルク・アヴリーヌ枢機卿、 イエズス会士の香港教区長のスティーブン・チョウ司教、ホンジュラスのテグシガルパのオスカル・アンドレス・ロドリゲス・マラディアガ枢機卿などだ。
もっとも代議員リストには、”ジョーカー”も含まれている。教皇フランシスコの敵対者として知られ、教理省長官のポストを追われたドイツのゲルハルト・ミュラー枢機卿といった面々だ。
教皇が、次期教理省長官に任命したアルゼンチンのビクトル・マヌエル・フェルナンデス大司教は神学者で、教皇庁を代表する代議員20人のうちの1人。教皇に極めて近く、いくつかの教皇文書のゴーストライターでもある。 2017年にミュラー枢機卿が退任した後の教理省長官、イエズス会士のルイス・ラダリア枢機卿も代議員リストに載っているが、穏健派とされており、ミュラー枢機卿の保守的な立場とフェルナンデス大司教のより進歩的な立場の中間に位置する。 教理省の長官経験者二人、それに新長官は、全員が神学的および教義上の問題について異なる視点を代表しており、シノドス総会での議論が多様かつバランスの取れたものになることを示唆している。
*ドイツの教会改革と”シノドスの道”に代議員は賛否あい半ば
教皇はまた今回の代議員選任で、現在ドイツで起きている”シノドスの道”の歩みと教会の将来の方向性をめぐる議論に関して、注目すべき判断をした。
ドイツ司教協議会が選出した代議員には、会長のリンブルグのゲオルク・ベツィング司教はじめフランツ・ヨーゼフ・オーヴァーベック司教、エッセンのバートラム・マイヤー司教、そしてアウグスブルクのバートラム・マイヤー司教など、過去4年間に物議を醸した”シノドスの道”の断固とした支持者が数人含まれている。
司教、司祭、一般信徒が歩みを共にし、このほど終結した、ドイツの教会の「シノドスの道」では、女性の司祭叙階、同性カップルへの祝福、などが主張され。さらに、司祭の独身制の廃止や聖職者の結婚、女性による洗礼の実施、司教選出に一般信徒の意見を反映させることなども提案されている。
これらについては、過去約2年にわたって、ドイツ司教協議会とバチカンとの間で絶え間ないやりとりがあり、バチカン当局はドイツ司教団に対して、責任を持って統治するよう求めている。教皇が代議員に選任した一人に、このようなドイツ式の”シノドスの道”を批判するパッサウのステファン・オスター司教が含まれているのは注目に値する。教皇選任ではないが、北欧諸国の代表として代議員に指名されたドイツ人のシスター、アンナ・ミリジャム・カシュナーも、ドイツ式の”シノドスの道”を批判してきた一人だ。
教皇が、バチカン司教庁の元長官、マルク・ウエレット枢機卿を代議員に選任したことも注目に値する。 ウエレット枢機卿は教皇の”同盟者”とみなされており、ドイツ司教協議会の”シノドスの道”のやり方に反対するバチカン当局者の一人。教皇の世界的な”シノドスの道”の一環としてなされてきたいくつかの提案に対しても懐疑的な姿勢を表明している。
*専門家・進行役に英国の教皇伝記作家も