・独ミュンヘン教区の未成年者虐待と対処に関する報告書ー前教皇ベネディクト16世も対象に

(2022.1.20 Crux   Geir Moulson(Associated Press)

Report on sexual abuse in German diocese faults retired popePope Emeritus Benedict XVI sits in St. Peter’s Basilica as he attends the ceremony marking the start of the Holy Year, at the Vatican, Dec. 8, 2015(Credit: Gregorio Borgia/AP.)

 ドイツのミュンヘン大司教区における聖職者などによる性的虐待の事件の教会の対応に関する調査報告書が20日発表された。

 同教区の委託を受けたWestpfahl Spilker Wastl法律事務所が作成したもので、約1900ページに及ぶ膨大なもの。対象期間は1945年から2019年にわたり、調査対象者には、1977年から1982年まで同大司教区で教区長を務めた前教皇ベネディクト16世(当時はラッツィンガー枢機卿)も含まれている。前教皇の書面による回答も掲載されているが、実名は黒く塗りつぶされている。

 調査期間は1945年から2019年迄で、この間に少なくとも聖職者など少なくとも235人が性的虐待を犯し、少なくとも497人が被害に遭っていることが確認されたが、実際には加害者も被害者もさらに多数に上る、と報告書作成者たちは述べている。

 調査報告書は、前教皇は同教区の大司教を務めていた際、制定虐待の訴えのうち4件の処理を誤った、としている。法律事務所は、前教皇は、いかなる不正行為についても強く否定している、というが、この調査結果が前教皇に対する批判を再燃させることは間違いない。

 大司教区と法律事務所によると、教会の最高幹部は調査報告書の内容を事前には知らされていない、としている。教皇フランシスコの著名な盟友で、教会改革推進の旗頭の一人であるラインハルト・マルクス枢機卿は現在、ミュンヘン大司教区のトップを務めているが、この調査報告書では、彼も、2つの案件で対応を誤った、と判断している。マルクス枢機卿は、報告書発表を受けて声明を出す予定だ。

 前教皇ベネディクト16世に関して、調査報告書の作成者の一人、マルタン・ブシュ氏は「合計4つの案件で、当時の大司教であるラッツィンガー枢機卿が不正行為で告発される可能性がある、という結論に達した」と語っている。
そのうちの2件は、前教皇が大司教を務めていた期間に、性的虐待行為で訴えられた複数の加害者に関するもので、国の司法制度によって罰せられたが、教会においては制限なく司牧活動を続け、教会法に基づく何の措置もとられなかった。

  他の1件は、国外の裁判所で有罪判決を受けた聖職者がミュンヘン大司教区で奉仕活動をし、当時の大司教である前教皇ベネディクト16世は、この聖職者のこのような事情を知っていた、と判断されるとしている。

 2010年にドイツの教会で聖職者による性的虐待問題が最初に表面化した際、これとは別の案件に注目が集まった。1980年にミュンヘン教区に移すこと認られた小児性愛者の司祭の問題だ。この司祭は、ミュンヘン教区で司牧活動を行うことが認められたが、それは大司教の相談することなく、教区の担当者によってなされた。だが、この司祭はその後、 1986年に少年に対して性的行為をしたとして執行猶予付きの判決を受けている。

 調査報告書の別の作成者ウルリッヒ・ワストル氏は、「1980年に司祭のミュンヘンへの移送が議論された会議に出席しなかった」という前教皇の主張は信頼性に欠ける、と述べた。 またマルタン・ブシュ氏は「すべての案件で、ベネディクト16世は自身に不正行為があったことを厳しく否定している」と言い、「前教皇は事実に関する”知識の欠如”と”教会法および刑法の下での関連性の欠如”を強調しているが、”知識の欠如”の主張は、我々が精査した教区の関係資料の内容と一致させるのが難しい場合がある」と付け加えた。

 バチカンのスポークスマン、マッテオ・ブルーニ氏は、聖座が報告書を完全に読み、内容を「注意深く詳細に検討」できるまでコメントを保留する、と述べた。 教皇としてのベネディクト16世の”遺産”は、2010年に聖職者による性的虐待スキャンダルの世界的に噴出した際、バチカンの教理省長官として問題への対処を適正に行う責任があったにもかかわらず、そうしなかったことで、すでに”色付け”されていた。

 彼は、ミュンヘン大司教を務めた後、1982年に教理省長官となり、性的虐待問題について世界的かつ直接的な知識を得た。そして、前教皇は2001年に、世界中の司教たちが加害者を罰せず、性的虐待を再度犯す可能性を残して他教区に移していることに気付いた後、このような問題を処理する責任を負うことを言明していた。

 また、調査報告書によれば、前教皇からミュンヘン大司教の職務を引き継ぎ、2008年まで務めたフリードリッヒ・ウェッター枢機卿は、21件の事件の処理について過失を犯した。ブシュ氏は、「彼もまた、不正行為があったことを否定している」と述べた。

 ウェッター枢機卿からミュンヘン大司教の職務を引き継いだ現職のラインハルト・マルクス枢機卿は、ケルン大司教区で補佐司教を務めていた時期に、性的虐待問題への対応を誤ったとして、引責辞職を教皇フランシスコに申し出たが、教皇は辞表を受理せず、代わりに、性的虐待の再発を防ぐ改革の必要性を強調するとともに、すべての司教が、「性的虐待危機」の責任を負わねばならない、と述べていた。

 ドイツの教会では、2018年に外部委託していた性的虐待に関する調査の結果、少なくとも3677人が聖職者による性的虐待の被害に遭っていることが明らかになり、その後、ケルン大司教区における虐待問題への高位聖職者による対応の誤りを指摘する報告書が明らかになり、司祭、信徒の間で大きな動揺が起きている。とくに、教区のトップ、レイナー・マリア・ウォルキ枢機卿の対処の過ちに、多くの信徒が激怒し、教皇フランシスコが、枢機卿に数か月間の職務停止を言い渡している。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年1月21日