・教皇が教皇庁未成年者保護委員会のメンバーを刷新、男女同数にー「委員会そのものが”被害者の声”になる」とオマリー委員長

(2022.9.30  Vatican News)

   教皇フランシスコが9月30日、性的虐待などから子供たちを守るために教皇庁に設けている未成年者保護委員会のメンバーに新たに10人を任命した。委員長のショーン・パトリック・オマリー枢機卿はVatican Newsとの会見で、新たな使命として「地域社会の被害者の声」に耳を傾けることを強調している。

 同委員会は、先に教皇が実施した教皇庁の抜本的な組織改革で、教理省の委員会に位置付けられ、役割、権限が強化された。

 新任の10人のうち7人は女性、3人は男性。また再任された10人を合わせて20人では男女同数になる。地域別では、アジア/オセアニアとヨーロッパが各6人、南北アメリカ大陸が4人、アフリカから4人。また、司教が3人、女性修道者が3人、司祭が2人、一般信徒が10人、他のキリスト教会派が2人となった。

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 新体制での抱負についてオマリー委員長は、Vatican Newsの Christopher Wellsのインタビューで次のように語っている。

 

*バチカンに”保護の文化”を徹底する”模範”に

オマリー枢機卿: 教皇が始められたこの委員会は、これまでに大きく進化しました。そして教皇庁改革によって、委員会がもはや単なる独立機関ではなく、教皇庁の機関として活動することになり、教皇庁そのものの”保護の文化”を促進するという使命を遂行することになった。これは、私たちにとって、とても特別な機会を与えられたということです。

 私たちの存在が、聖座と教皇庁にとって、そして教会全体にとって、最高水準の「保護の模範」となるよう努めることが非常に重要であると感じています。この意味で、これまで教会内で保護を促進する努力の一部になれたことをうれしく思っています。

 教皇は、私たちに未成年者保護のガイドラインに関する新しい責任を与えられました。教皇は、私たちが世界の個々の司教協議会と従来以上に直接関わりを持ち、ガイドラインが順守される体制が整えられ、適切に実施されるように支援することを、望んでおられます。そして、現地の教区においてなされた虐待の訴えに関する報告が信頼でき、誰でもが入手可能となり、被害者を助けるものとなることを確実にするよう、希望されています。

 私たちは、世界の多くの地域で、このような教皇の希望に応じつことにできる人的、物的な資源が非常に不足し、これまでこの問題を十分に議論することがなかったのを知っています。ですから私たちにとっての課題は、そうした地域(の司教協議会、あるいは教区)と共に努力し、現地の人々に奉仕し、保護を進めることのできる人的、物的資源を見つけ、その種のセンターを作るのを助けることだ、と認識しています。

*教理省の組織の一部となって役割が明確になった

問:教皇庁改革で、委員会が教理省の組織の一部となったわけですが、実際に、委員会の仕事はどのように変わるのでしょうか?

オマリー枢機卿:私たちの委員会はこれまでも、教理省と協力してきました。発足当初から、委員会のメンバーの一人は教理省から出ています。また、委員会が個々の事件や、保護の全分野の法的問題への対処に関して、何の役割も持たないことを明確するよう努めてきました。

 今回の教皇庁組織改革で、教理省の機関として位置付けられたことで、委員会の役割、機能が明確に、つまり未成年者の保護と予防がバチカンの司法制度とどのように関係を持っているかを明確にすることになりました。そして、私たちの委員会の役割をよりよく定義し、教理省に組み込まれることになった今回の組織改革で、独自に、しかも同省の関係機関とどのように密接に働くことができるかを具体的に明確にするため、多くの対話を関係者と続けています。

問: 委員会をこれまでの基本的に独立した機関から、教理省の機関に代わることに、どのような意味があるのでしょう?

オマリー枢機卿:はっきりしているのは、教理省が、すべてのケースにおいて、未成年者の保護に最大の責任を持っているということです。ですから、教理省の担当者と密接に関係を持つことは重要です。連携がうまく進めば、私たちが彼らの仕事に司牧的な要素をもたらすのを助け、彼らの仕事は私たちが虐待の現実と世界中で起こっていることをより深く理解するのを助けることができるでしょう。

*虐待被害者と教会の指導者たちを結びつける

問: あなたは司牧的要素についておっしゃいましたが、虐待の被害者が教会の司牧的関心事の中心にあるのは明白です。委員会は、被害者と彼らの幸せが優先事項であり続けることを、どのように保証しようとしていますか?

オマリー枢機卿:委員会は発足当初から、虐待被害者とその両親をメンバーに入れています。そして今回の委員会のメンバー刷新後も、それは続いています。そして、委員会のメンバーは皆、自分の国の被害者のグループや個々の被害者と絶えず接触しています。

 私自身、何年にもわたって何百人もの犠牲者と会ってきましたが、それがとても重要であると感じています。教会の指導者教育の際に、私たちが常に強く求めるのは、司教や修道会の責任者が被害者と個人的に会い、彼らの経験を理解できるようにすることです。

 これは被害者と教会の指導者と結びつけるという、委員会の仕事の非常に重要な部分だったと思います。メンバー全員がとても気にかけていることです。私たち委員会そのものが、”被害者の声”になりたいのです。

 

 

*世界の司教協議会による被害者保護の体制整備を支援する

問:被害者の立場と彼らへの理解を優先事項として、そして教会の司牧面での関心事として、今後、委員会が新たに何に取り組もうとしていますか?委員長としてどのような仕事にとりかかっていますか?

オマリー枢機卿:先週、新メンバーたちとZoomミーティングを行いました。10月には、ここローマでメンバー全員の会議を開き、今後の課題について話し合い、教皇が私たちに与えてくださった新しい役割について検討する予定です。

 私たちは、委員会の仕事に、より多くの人的、物的資源を確保しようとしています。そして、教皇が望んでおられる、世界のすべての司教協議会が未成年虐待についてバチカンへの報告を確実に行えるようなセンターの設立のために、必要な人的、物的資源を確保できるような支援を、とくに発展途上地域の司教協議会に行えるようにしたい、と考えています。

 私がいつも言っているのは、「人々が即興で”演奏”すると、どんなに善意があっても、多くの間違いを犯すだろう」ということです。そして、間違いが、多くの苦しみを引き起こします。被害者の権利と求めに応えようとする場合、加害者、教会共同体、政府や自治体との関係も考慮する必要があります。被害者に対する保護・支援プログラムの効果的な実施にも、十分な教育と訓練が必要です。

 様々な課題とこなしていくことで、教会が子供や青少年にとって安全な場所となることができるのです。

 

 

*教会が信頼を回復し、若者たちにとって真に安全な場所となって、初めて福音宣教が可能になる

 

問: 個人的なことをお聞きします。あなたは40年近く司教として、そして16年にわたって枢機卿として働いておられます。あなたは、ご自分の教会における聖職者としての仕事の多くで、教会における聖職者の性的虐待に焦点を当ててきた、と言われました。あなたは聖職者としての仕事をどのようにして続けておられますか。あなたと同じような立場にあり、複雑な状況の中で難しい判断を下さねばならない女性と男性、特に指導的立場にある女性と男性に、どのような励ましの言葉をおかけになりますか?

オマリー枢機卿:私がしている仕事は容易なものではありませんが、私にとって一番重要な聖職者としての仕事だと確信しています。教会は福音を宣べ伝えるために存在していますが、人々が私たちを信頼しないなら、いったい、どのように福音を宣べ伝えることができるでしょう?マルティーニ(バチカンの改革派で、教皇候補にも挙げられたイタリアのイエズス会士、カルロ・マリア・マルティーニ枢機卿。ミラノ教区長の前にバチカンの聖書学院長、グレゴリアン大学学長を歴任。聖書学者、教育者としても知られ、聖書釈義から詩、祈りの手引きまで、数多くの著作を残し、2012年8月に85歳で亡くなった)は、イエスの優先事項について語る素晴らしい著作の中で、イエスがもっとも重視されたのは「憐れみ」だった、なぜなら、憐れみは福音宣教の基本であり、伝える相手に、あなたがたを愛している、ということを知ってもらう必要があるから、と指摘しています。

 フランシスコが教皇に就任された時の、聖ヨセフに関する説教はとても素晴らしいものでした。教皇は語られましたー「ヨセフのように、私たちは賜物を守らねばなりません。それが教会が果たすべき機能です」と。

 私たちは主からの賜物を守り、子供たちを守らねばなりません。そうすることで初めて、私たちは、信頼を得、人々に声を聴いてもらえるに値する存在となるのです。私たちが子供たちを確かに愛していること、教会が若者たちにとって最も安全な場所となることを希望し、その実現に努めているのだ、ということを、人々が理解して、初めて、福音宣教が可能となるのです。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年10月1日