・性的虐待に関する改定教会法施行へ準備開始」枢機卿顧問団の主要メンバー、グラシアス枢機卿が会見

Cardinal says Church law on abuse will need ‘continuous updating’In a file photo, Pope Francis walks next to Indian Cardinal Oswald Gracias as he leaves the morning session of the extraordinary Synod of Bishops on the family at the Vatican Oct. 9, 2014. (Credit: Paul Haring/CNS.)

(2021.6.15 Crux  Contributer Nirmala Carvalho)

 インド、ムンバイ発ー教皇フランシスコが6月1日に使徒憲章として発表された教会における犯罪処罰を定めた「教会法典・第6集」改定版は12月8日発効する。1983年に犯罪処罰が制定られて以来、初の改訂となるが、教皇を補佐する枢機卿顧問団の主要メンバーで、世界各地の教会における児童保護規定導入を推進する作業部会のメンバーでもあり、今回の改訂にも関わったオズワルド・グラシアス枢機卿(ボンベイ大司教)は、これに関連して、性的虐待に関する教会法の箇所は「継続的な更新」が必要、と強調した。

 改定版には、虐待の問題を扱う「人間の生命、尊厳、自由に対する犯罪」に関する新しい章が設けられた。教会法は現在、性的虐待の罪で有罪となった聖職者などを「職務の剥奪やその他の措置で」罰すること求めており、対象行為として、(小児性愛者が)児童をそうした目的で引き込むことや児童ポルノの保持、閲覧などが新たに追加される。また、改訂版が、性的虐待の相手として、未成年者だけでなく、「imperfect use of reason(理性の働きが不完全)」な人に広げ、また、司祭叙階されていない修道者、一般信徒も罰則の対象となり得る、としている。

 グラシアス枢機卿はCruxとの会見で、「[1983年に教会法へ処罰規定が導入された時、性的虐待はまったく扱われなかった。法律は、時々の要請に応えるために、常に見直しをしていかねばなりません。当時、性的虐待を対象とする必要が感じられなかったが、その後に、多くのことが起こりました」とした。

*聖職者の性的虐待への対処を法制度化した意味

 今回の改定は、前々教皇の聖ヨハネ・パウロ2世が、この問題を真剣に受け止める必要がある、として問題提起をされたのが発端。前教皇のベネディクト16世が、性的虐待行為の報告の義務化を図ったが、教皇フランシスコはさらに、虐待と隠ぺいの防止、被害者のケアなどに具体的な措置を講じて来た。教皇就任後、聖職者の性的虐待、司教たちの説明責任、および虐待の隠蔽に関するいくつかのルールをを決めた。その中で最も重要なのは、虐待の通告義務とそのための制度整備を促す自発教令「Vos Estis Lux Mundi(あなた方は世の光)」で、聖職者による性的虐待に対処するための手順を明確にし、虐待の訴えを受けた際の対応について司教、修道会の責任者に責任を負わせるようにしたものだ。

 枢機卿は、「こうした措置は(注:制度として恒久化するために)教会法に取り込まねばなりませんでした。内容的には、教皇がすでに執行されているので、大きく変わることはありません」としたうえで、今回の教会法改定で重要な点の一つは「 grooming behavior (小児性愛者が児童を性的虐待の目的で引き込む行為)」を処罰の対象として明記したことにあるが、この用語の定義は今後、もっと適切なものに改めていく必要がある、と指摘。

*「grooming」などに用語改善の余地

 「groomingは(犯罪の)準備行為。犯罪の全行程の一部であり、性的虐待の準備と見ることもできます。これまで、そうした行為が意識的、あるいは無意識的になされるのを見てきました。それは”赤信号”です… 法的に見れば、(性的虐待が)行為者の頭の中にあるでしょうが、『子供たちに親切で司牧的でありたい』という気持ちとの区別は難しい。それが、用語を、継続的に更新していく必要のある理由です」と説明した。

  同様に、改定で処罰の対象となる性的虐待の相手として、未成年者とともに明示された「imperfect use of reason(理性の働きが不完全な)」人についても、「これは、精神的に(普通の人よりも)強くない成人を指しますが、この用語も改善の余地があります」と語った。

*インドでは司教団が施行に備え推進本部設置

 改定教会法が12月に実施されるのに備えて、枢機卿のインドでは、同国の司教、司祭などへの周知徹底と未成年者保護推進のために、ムンバイにインド司教協議会の推進本部を開設し、専門のウエブサイトも準備中だ。

 枢機卿は、「関係者のZoomを使用した会合も、私を議長として既に始めています。補佐役は、バチカンの未成年者保護委員会のメンバーでもあるシスター・アリーナ・ゴンサルベスが担当してくれています。ウェブサイトは近隣諸国の教会関係者にも公開します。各教区のこれに関連した組織・制度をどうするのか、虐待被害者をどう助けるのか、など課題は多い。ですから、私たちは、今すぐ、取り組みを始めるのです」と決意を述べている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

・・Cruxは、カトリック専門のニュース、分析、評論を網羅する米国のインターネット・メディアです。 2014年9月に米国の主要日刊紙の一つである「ボストン・グローブ」 (欧米を中心にした聖職者による幼児性的虐待事件摘発のきっかけとなった世界的なスクープで有名。映画化され、日本でも昨年、全国上映された)の報道活動の一環として創刊されました。現在は、米国に本拠を置くカトリック団体とパートナーシップを組み、多くのカトリック関係団体、機関、個人の支援を受けて、バチカンを含め,どこからも干渉を受けない、独立系カトリック・メディアとして世界的に高い評価を受けています。「カトリック・あい」は、カトリック専門の非営利メディアとして、Cruxが発信するニュース、分析、評論の日本語への翻訳、転載について了解を得て、掲載しています。Crux is dedicated to smart, wired and independent reporting on the Vatican and worldwide Catholic Church. That kind of reporting doesn’t come cheap, and we need your support. You can help Crux by giving a small amount monthly, or with a onetime gift. Please remember, Crux is a for-profit organization, so contributions are not tax-deductible.

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2021年6月16日