・性的虐待‐透明性を欠く高位聖職者への対応が教皇とバチカンの信頼を損なっている(LaCroix)

(2022.9.30 La Roix Robert Mickens | Vatican City)

 教皇フランシスコとバチカンの側近たちは、著名な聖職者による性的虐待についての訴え対処する際に、透明性を求める要求を無視し続けている。

 極めて残念なことだが、カトリックの司祭、あるいは司教から性的虐待を受けた方には、次のようなアドバイスをせざるを得ないー「犯罪がまだ時効になってない場合、どのような状況であっても、教会に、とくにバチカンの担当部局に被害の報告をしないように。直接、警察に行くのがいい。そうしないと、あなたの訴えが真剣に受け止められたり、公明正大な方向で捜査される保証はありません」と。

 教皇フランシスコとバチカンの当局者たちの最近の何回かの対応から得られる結論は、「性的虐待の訴えを受けた高位聖職者に関する取り調べは秘密裏に行う」ことであり、「調べの経過や結果については、被害者とされる人に通知することすらしない」ということだ。

 

*教皇の母国、アルゼンチンの司教が性的虐待で訴えられ、有罪となったが…

 最近起きた”事件”の一つに、教皇の出身国アルゼンチンのグスタボ・ザンケッタ司教のケースがある。フランシスコが教皇になった直後の2013年に司教に叙階されたが、神学生を性的に虐待したとして訴えられたが、教皇は訴えを信じるのを拒否。2017年8月に53歳で教区長を辞任するのを認めた教皇は、彼をバチカンで受け入れ、特別に作ったポストに就かせた。昨年 3 月、アルゼンチンの裁判所はザンゲッタに 禁錮4年半の刑を言い渡したが、どういうわけか修道院で刑期を過ごすことが認められたのだ。

 

*マカリック司教省長官への訴えを不問にした後に、集団訴訟が起こされた

 

 これで驚いてはいけない。バチカンの司教省長官のマルク・ウェレット枢機卿。母国カナダのメディアが昨年8月に、枢機卿が成人女性から「2008年に行われたある宴会で、望まない”接触”やキスをされた」と訴えられたのを明らかにし、これを受けたバチカンの報道官はこの件に関して、予備調査をしたことを認めたうえで、「彼女の主張は信用できない、と判断された」と不問に付したことを明らかにしていた。だが、今年8月になって、カナダで、この訴えをもとに、枢機卿と88人の司祭が性的虐待と対応の過ちを理由に、集団訴訟を起こされている。

 そして、バチカンの取り調べが、教皇フランシスコが発出した自発教令で示された「司教を捜査するための手続き」にも従っていないことも、明らかになった。この自発教令は2019年に出され、教会の高位聖職者に対する性的虐待に関する訴えに公平に対処するための”大きな一歩”となるはずだった。

 だが、それほど調べても、自発教令に「透明性」という言葉は出てこない。そして実際に、司教に対する訴えの取り調べを担当するバチカンの”教皇の部下”たちが、太古の昔から変わることない前任者と同じように、そのような考え方に居心地の悪さを感じていることが、ますます明らかになりつつあるのだ。

*ノーベル平和賞の東チモールの司教の処分も、バチカンは週刊誌報道の後で認める

 オランダのメディアが秘密の取材をもとに明るみに出したのは、東チモール独立に貢献し、ノーベル平和賞を受賞したが、性的虐待で訴えられたカルロス・ヒメネス・ベロ 司教に関するバチカンの対応だ。バチカン当局は、ベロ司教の問題について、3年前に虐待の訴えを受けて捜査を始めたことを認めたが、2020年に当時74歳の枢機卿に対する規制を緩和し、さらに一年後に規制を強化していた。訴えの内容が信用できると判断したため、と見られる。

 このことを私たちが、なぜ今になって知ったのか?それは オランダのニュース週刊誌 De Groene Amsterdammer が過去 20 年間に集めらた証言に基づいて司教ベロに関する暴露記事を掲載し、世界の記者たちがバチカンの報道官に説明を求めたからだ。記事が週刊誌に掲載されなければ、この司教がバチカンから調査を受け、処分されたことを、誰も知らなかったのだろうか?この性的虐待の訴えを報道した記者たちが、バチカンの取り調べの結果を非公式に知らされていたとしても、バチカンには、このことを公にするつもりがなかったことは明白だ。

 

*”マカリック事件”を彷彿とさせるバチカンの対応が繰り返されている

 ウェレット枢機卿の扱いと同じように、ベロ司教に対するバチカンの処分がメディアで明らかにされるまで、バチカンは沈黙を守った。さらに悪いことに、米国のセオドア・マカリック元枢機卿の場合と同様に、ローマと東ティモールの教会当局者は、長年にわたって司教の性的虐待の行状を十分に認識していたようなのだ。

 確かに、これらは当時は「単なるうわさ」だったが、教皇ヨハネ・パウロ2世と当時バチカンの福音宣教省長官だったクレッシェンツィオ・セペ枢機卿が2002年に、ベロ司教を54歳という若さで辞任させた表向きの理由は「健康上の都合」。そして、司教をモザンビークに送り出した。

 マカリックしたように、バチカン当局はベロ司教に対して、密かに多くの制限を課した。表に出さなかったのは、重大な不正と言わざるを得ない。それは、性的虐待を犯した者が公の場で辱められ、屈辱を受けるべきだからではなく、虐待被害者たちに、教会の司牧者や他の当局者が自分たちの訴えを信じているのかどうか知る権利があり、必要があるからだ。

 

*性的虐待に関するすべての案件を完全な透明性をもって処理しない限り、信頼は回復しない

 

 性的虐待の罪を犯し、密かに処分された司教や司祭は他に何人いるのだろうか?そして、彼らから虐待された被害者のうち何人が「誰も自分の訴えを信じてくれない」という恐れから訴えることが難しい、と泣き寝入りさせられてているのだろうか?

 教皇フランシスコは自発教令などを通じて、「信者の信頼を裏切るこれらの犯罪を防止し、戦う」必要性について、多くの約束、多くの文書、および非常に強い言葉を出されている。だが、性的虐待被害者や関係者たちの信頼は、すでに裏切られている。そして、教皇、司教、その他の教会当局が、性的虐待に関するすべての案件を完全な透明性をもって処理し始めるまで、信頼が取り戻されることはない。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。

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2022年10月6日