・前教皇、性的虐待問題で「(大司教時代の)説明に誤りがあった」と認める(Crux)

(2022.1.24 Crux  Rome Bureau Chief  Inés San Martín)

 ドイツのミュンヘン大司教区における聖職者による性的虐待に関する調査報告書が発表されたのを受けて、前教皇ベネディクト16世が、個人秘書のゲオルグ・ガンスバイン大司教を通してドイツのカトリック系通信社Kath.netに声明を発表。

 自身がミュンヘン教区の大司教であった当時、「未成年者を性的に虐待したと非難されていた他教区の司祭」を自身が管轄するミュンヘン教区に受け入れることについて話し合った会議との関わりについて、「以前、私が聴聞に答えた内容は客観的に見て誤りだった」と述べ、会議に欠席していたとの以前の発言を撤回、会議に参加していたことを認めた。

 ガンスバイン大司教によると、前教皇は、さる20日に渡された1900ページに上る報告書を「被害に遭った人たちの苦しみについて、恥と痛みをもって」読んでおり、前教皇は、報告書の全文に目を通し終えた段階で、改めて声明を出すことを考えている、という。

 また、以前に聴聞を受けた際、この会議に参加していなかったと述べたことについて、大司教は「悪意からなされたものでなく、聴聞に対する声明をまとめる際に、見落としたことによる」ものだが、前教皇は、「非常に申し訳なく思い、許しを求めている」とした。

 ただし、 「前教皇が参加したこの会議では、問題の司祭の司牧活動を認めるか否かについての決定がなされなかった、という以前の声明の記述に変更はない。会議では、この司祭がミュンヘンで治療を受けている間、教区が宿泊施設を提供することのみが議題となり、承認されていた」とも説明した。

 なお、ミュンヘン大司教区からの委託を受けたこの報告書には、2019年まで過去74年以上にわたるミュンヘン大司教区での約500件にのぼる聖職者による未成年者などへの性的虐待の事例が記録されており、その中には、前教皇が教区長を務めていた1977年から1982年にかけて4人の聖職者が性的虐待を犯した事例が含まれている。そのことに関しては、今回の声明に言及はない。

 教皇庁の未成年者保護のための委員会の創立メンバーで、教皇庁立グレゴリアン大学の人類学研究所の責任者であるハンス・ゾルナー教授は、今回の前教皇の声明について、「もっと率直で、個人としての言葉にすべきだった。『私は問題の会議に参加したことを思い出せません。もし会議に出ていたのなら、誤りを犯しました。謝罪します。この問題に、心理学者が別の評価を下すかも知れませんが、当時の私は、この問題にもっと注意を払うべきだった。このことについて申し訳なく思います』と言えたのではないか」と語った。

 また教授は、前教皇が声明で、自分の行為を「法律的、証明的、教会法的な側面に限定した」ことに驚きを隠すことができない、とし、「この問題は人間的な側面と外的知覚に関する問題でもある、という認識が欠けている」とも批判した。

 枢機卿として、バチカンの教理省の長官として、ベネディクトは、聖職者による未成年者たちへの性的虐待に対するバチカンの対応を転換させた、として評価されている。彼は2001年に、世界の司教たちが性的虐待の加害者たちを罰せず、教区から教区へ移動させるだけで済ましていることを知り、こうした行為に対して責任を取らせることを決定していた。そして、2005年、聖ヨハネ・パウロ二世の死を受けて、教皇に選ばれる直前の聖金曜日に、十字架の道を黙想し、説教の中で、教会そのものにある”汚れ”について語ったとき、性的虐待がもたらしている危機に言及して、名を高めていた。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年1月27日