・マカリック元枢機卿が半世紀前の未成年性的虐待の初公判で無罪主張(Crux)

(2021.9.3 Crux /|Associated Press  Alanna Durkin Richer)

 デダム、マサチューセッツ発—かつて米国で最強のカトリック高位聖職者とされながら、半世紀前の未成年性的虐待で告発され司祭職をはく奪された元枢機卿セオドア・マカリック(91)の裁判が3日、ボストン郊外、テダム地方裁判所で始まった。

  マカリックはマスクを着け、車いすに乗り、「恥を知れ!」と非難の声を受けながら入廷したが、公判での発言はなく、裁判官が代わりに罪状認否で「否」と判断し、5000ドルの保釈金を支払い、被害者と距離を置き、未成年者たちと接触しないことを条件に釈放した。次回公判は10月28日に開かれる。

 マカリックは、米国の枢機卿の中で未成年者に対する性犯罪で刑事責任を問われた唯一の人物だが、弁護を担当するキャサリン・ジマール弁護士は初公判の後、「起訴内容には適切に対処する」とだけ語った。

 検察側の訴状によると、現在ミズーリ州ディットマーに居住するマカリックは、14歳以上の人物に3回にわたる強制わいせつや暴力を働いた。マカリックは、犯行当時、マサチューセッツ州に住んでおらず、時効が成立しないことから、有罪となる可能性がある。

 今回の裁判になっている被害者以外にも聖職者たちから性的虐待を訴える被害者は何十人いるが、彼らを弁護するミッチェル・ガラベディアン氏は、「今回の裁判は、聖職者から性的虐待を受けた多くの被害者に、『正義が勝ち、真実が語られ、子供たちの安全が確保される』という希望を与えるもの」と評価。「被害者たちは、この裁判を最後まで見届ける用意が出来ている」と述べた。

 マカリックの”凋落”は2017年に始まった。教会の元祭壇奉仕者だった男性がニューヨークで10代のときに、マカリックからわいせつ行為をされた、と告発したニューヨーク大司教区は、告発が信頼でき、事実が証明された、として、マカリックの司牧活動の禁止を発表する一方、ニュージャージー州の2つの教区も、マカリックの成人を含む人々に対する性的不適切行為の複数の申し立てを解決したことを明らかにした。

 事態を重く見た教皇フランシスコは、バチカンの担当部署による2年にわたる調査をもとに、マカリックが未成年者と成人を性的に虐待した、と判断され、2019年にマカリックの枢機卿職をはく奪された。

 また、2年にわたる調査では、過去30年の間、聖職者による性的違法行為の報告を受けながら、司教、枢機卿、教皇が軽視、あるいは無視したことが判明。彼らが、こうした報告を「単なるうわさ話」として繰り返し握りつぶし、報告という行為自体を「不謹慎」と片付けていたことも分かった。さらに、昨年公開された調査資料では、ヨハネ・パウロ二世教皇が、マカリックが神学生たちと同衾しているという報告を受けながら、マカリックをワシントン首都大司教に任命した、ことも問題としている。

 テダム地方裁判所の記録によると、地方検事局は、被害者の弁護人、ミッチェル・ガラベディアン弁護士からマカリックによる性的虐待の被害者がいることを伝える文書を受け、それをもとに捜査を実施、性的虐待行為を働いたとしてマカリックを起訴した。

 被害者は今年1月の検察官による聴取の際、自分が少年の時代にマカリックと少年の家族に親交があり、性的虐待はその頃から始まったと語り、具体的に、当時16歳だった1974年6月にウェルズリー・カレッジで兄の結婚披露宴が開かれた際、参加していたマカリックから「君のお父さんから『息子が悪いことをして、教会に行かないので、会って話をしてやってください』と言われた」と話しかけられた。それで、2人で校庭を話をしながら歩いている時に手をつかまれ、披露宴会場に戻った後、コートなどを掛けておく小部屋に連れ込まれ、性的暴行を受けた、と訴状に書かれている。

 また、被害者は検察官に、「その部屋を出る前に、マカリックは『私たちの父なる神と聖母マリアに3回、あるいは父なる神に一回、聖母マリアに3回、こう祈りなさいー神が私の罪から私をお救いくださいますように、と』と私に言いました」とも訴えた。さらに、裁判所の記録によれば、マカリックは、彼が成人になった後も、長期にわたって性的虐待を受けた、とも説明しているという。

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 マカリックは1958年にニューヨークで司祭に叙階され、神学校で眠ってばかりいた、という”評判”にもかかわらず、順調に高位聖職者への階段を上がって行った。そして、米国で最も注目を浴びる高位聖職者の一人となり、教皇が2017年に聖職者性的虐待に無条件で厳しく対処する「zero tolerance policy 」を決めたのを受けて、全米司教協議会のこの問題に関するスポークスマンにも就任した。

 なお、世界で性的虐待あるいはその隠ぺいなどの罪に問われた枢機卿には、他にオーストラリアのジョージ・ペル枢機卿、フランスのフィリップ・バルバラン枢機卿がいるが、ペル枢機卿は下級審で性的虐待により有罪とされた後、上級審で無罪とされ、バルバラン枢機卿は同国の影響力の強い司祭で小児性愛者としても非難を浴びた司祭の行為を隠蔽した罪の問われたが、無罪となっている。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年9月4日