・フランスでは聖職者による性的虐待被害者が1万人にのぼる可能性(LaCroix)

(2021.3.4 LaCroix   Céline Hoyeau | France)

 フランスのカトリック教会における性的虐待に関する独立委員会(CIASE)は4日までに、1950年にさかのぼって3000人の被害者を特定していることを明らかにしたが、同国の週刊誌 l’Obs news magazineによると、最終的にその数が1万人に達する可能性がある、と見ている。だが、「大きな問題は、その何パーセントが被害を立証できるかです。25パーセントか10パーセントか、それとも5パーセント以下か」とCIASEのジャン・マルク・ソーべ委員長は被害の立証の難しさも認めている。

 CIASEの調査は、バチカン国務省の協力を得て、バチカンやフランスのカトリック各教区に保管されている資料なども丹念に調べ上げてまとめられたもので、1つの教区だけが調査への協力を拒否した、という。

 これまでの調査によると、特定された虐待被害者が被害に遭った時期は、大部分が1950年代から1960年代にかけて。それ以降は、1970年代が18パーセント、1980年代が12パーセント、1990年代が7パーセント、2000年代に入ってから現在までは9パーセント弱だ。また被害者の約30%は現在70歳以上の高齢になっている。

 また被害者の性別は、男性68パーセントに対して女性は32パーセント。被害者の87パーセントが、被害に遭った時点で未成年だった。87パーセントの年令別は30パーセントが6歳から10歳、35パーセントは11歳から15歳。当時すでに成人になっていた被害者の33パーセントは神学生あるいは若い聖職者だ。

 CIASEでは今年9月末までに、全体の調査・分析結果をまとめ、これまでの作業の経過についても説明する予定という。

 フランスのカトリック司教団は、このほど開いた臨時総会で司教団全体としての、各司教個人としての責任を認識したが、ソーべ委員長は「聖職者による性的虐待という問題には、個人としての過ちや失敗以上に、全体としての教会共同体社会と同様に『教会の権威』の失墜ー見たくも知りたくもないものーがあります」と指摘する。

 「性的虐待は本質的に個人的なものであるだけでなく、われわれ委員会が指摘することになる制度的側面があります… われわれは、カトリック教会の機能において、その統治において、その教えにおいて、何が性的虐待を正当化してしまうのか、促進してしまうのか、しないのかを理解しようとしているのです」。

 委員長は、CIASEの最終報告に盛り込む、調査結果・分析に基づいた提言として、時効は成立した、あるいは加害者が死亡した性的虐待犯罪に対する修復的司法(犯罪に関係する全ての当事者が一堂に会し、犯罪の影響とその将来への関わりをいかに取り扱うか集団的に解決するプロセス)の適用、教会法上の手続きにおいて、被害者に大きな役割をもたせることによって加害者である聖職者を罰する手段を、教会の司法当局を付与、などを考えていることを明らかにした。

 また、「性的虐待がもたらす損害は、個人的にも集団的にも、金銭的な賠償だけで解決できない、特にそれが被害を黙っていることを条件とするようなことがあってはならないことを、関係者が認識するように、被害者たちは強く求めている」と語り、「被害者への償い」と「被害者に正義をもたらす強力な行動」の必要性を強調。「深い、一人ひとりが関わる運動の中で、被害者の苦しみを理解しなければ、私たちは、被害者を癒し、和解する展望を開くことができません」と述べた。

 フランスの司教団は、3月末の春の定期総会でこの問題についての具体的な行動を決めるか、それとも、CIASEが今秋に予定する最終報告書の発表を受けて判断するのか、まだ決めていない。いずれにしても、CISEの最終報告書には、司教団が2000年以降これまでにとった措置についての査定結果が盛り込まれることになるだろう。

 さらに、ソーべ委員長は、マクロン大統領が1月に性的暴力に関する政府委員会を創設したことで、「国としての賠償措置を含む性的虐待撲滅の対策推進の土台が出来た」ことを強調した。

 これは言い換えれば、フランスの教会が実施を決めたこの問題に対する財政的な措置は、一般社会での性的虐待の被害者への賠償について政府の勧告が出た場合には、それに従う必要がある、ということだ。ソーべ委員長は、司祭による性的虐待を、社会全体の性的暴力についての幅広い枠組みの中に位置づけおり、フランスの社会全体で見た場合、女性の20パーセント、男性の8㌫が性的暴力の被害で苦しんでおり、その大半が被害を受けた時に当時未成年者だったことが、統計で明らかになっている、と述べた。

 そして、「性的暴力は、大きな社会現象であり、無数の行為を通しての人に対する攻撃が、意識的に、あるいは無意識的に、沈黙のうちに、全世界的な規模で起きています。だが、この問題への教会の取り組みは、進んでいる。カトリック教会は、避けて通ることのできない、辛く、時間のかかるこの仕事に、勇気をもって取り組んでいます」と教会の取り組みを評価した。

 フランス政府は、性的暴力に関する委員会を設立したばかりだが、こうしたソーべ委員長の姿勢に刺激を受ける可能性が高い。

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2021年3月9日