・イタリアの性的虐待被害者たち「司教団の努力が足りない」と強く批判(Crux)

(2022.5.28 Crux  Senior Correspondent Elise Ann Allen)

  イタリア司教協議会の新会長に就任したマッテオ・ズッピ枢機卿(Credit: AP Photo/Alessandra Tarantino.)

 ローマ発–イタリア司教協議会(CEI)は27日まで開いた定例総会で、新会長にボローニャ教区長で教皇フランシスコの”同盟者”であるマッテオ・ズッピ枢機卿を選出した。総会後に記者会見したズッピ新会長は、聖職者による性的虐待の事案に関する新たな報告の方針を発表したが、虐待被害者たちは、その内容について、強い不満を表明している。

 イタリアの唯一の性的虐待被害者の組織「Rete L’Abuso(被害者ネットワーク)」のフランチェスコ・ザナルディ代表は、「司教たちの示した対応は、”役立たず”で、情けない。極めて不満だ」と言明した。

 ここ何が月もの間、イタリアの性的虐待被害者たちとその支援団体は、イタリアの司教団と政府当局に、聖職者による性的虐待について独立調査委員会による全国調査を、過去数十年に遡って実施し、他の欧州諸国にならって包括的な報告にまとめるよう強く求めて来た。

 ズッピ新会長は、記者会見で、「聖職者による性的虐待に関する調査は独立の調査センターに分析などを任せ、最初の年次報告は11月発表を目指す」とする一方、「対象となる虐待の案件は、2020年から2021年までの過去2年間に司教団に報告されたもののみが対象になる」とし、その後の調査でも「教理省から得られるデータも2001年以降の者に限られている」と、被害者側が求めていた内容よりも大幅に限定されたものになるとの見通しを述べた。

 このような新会長の発言に対して、ザナルティ代表は、「他の欧州諸国の司教団の先例にならおうとしていない」と批判、何人かの被害者たちも「過去20年に遡っての調査は可能。これでは、多くの被害者が、自分たちが性的虐待を受けたことを認めてもらえないままになる」と強い不満を示した。

「Rete L’Abuso(被害者ネットワーク)」は、国内の被害者たちや関係団体に広く呼び掛け、インターネットを使って性的虐待の再発を防ぎ、被害者の意識を高める「#ItalyChurchToo」運動を始めており、公正で広範な調査の実施へ司教団にさらに求めていく方針だ。すでに、今回のCEIの総会以前に、イタリアの司教たちとバチカンの担当部署の長に対して公開書簡を送り、全国規模の調査、教区の資料の公開、全教区における被害者の訴えを聴くセンターの充実、などを要請している。

教皇は、この総会中に、被害者の訴えを聴くセンターをイタリアのすべての教区に設置し、教会の指導者たちの間での被害者保護の努力について年次監査を実施し、対策が適切にされているか、変える必要のあるものは何か、を明らかにし、説明責任を果たすことに努めるよう、司教団に対して求めた。

このような教皇の要請にもかかわらず、イタリアの司教団の対応は不十分だ、とザナルディと「#ItalyChurchToo」のメンバーは言う。「新会長に示した方針は、『国の調査は受けない』ということを確認し、国の司法機関のデータは使わず、教会がもっている役に立たないデータだけで対応することを明確にした。これでは、被害者にとっての正義は行われない」とするザナルディ代表は、「この問題に対処し、”クリーン”になろうとする世界の教会の流れに逆行することを表明するようなものだ」と反している。

 イタリアで被害者の声を聴くセンターを設置している教区は、全体の7割にとどまっているが、ズッピ新会長は、これを10割に上げるともに、被害者の声への対応や被害者との接見など、センター担当者はじめ若者たちと司牧活動をするすべての人々のための訓練課程の開設する方針を示し、また、CEIは、小児性愛や児童ポルノを取り締まる国の監視機関に客員として既に参加しているが、さらに協力を深めていく、とも説明した。

 この新会長の会見に先立って、記者会見した「#ItalyChurchToo」の関係者は、「私たちが先に出した公開書簡に対する回答は、これまでのところ、CEIからもバチカンの関係部局からもなされていない」と述べた。 ザナルディ代表はCruxの取材に対して、「独立委員会での調査が今後行われることは、期待できない。希望していたが、裏切られた」とする一方で、ズッピ新会長から面談の誘いがきており、可能な限り早く応じたい」とも語っている。

 (翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2022年5月29日