・「神父による性暴力被害者の会」設立-必要な司教団の真剣な対応(評論)

(2020.6.22 カトリック・あい)

 カトリック教会に半世紀以上も籍を置いて来た者として、このような評論を書かざるを得ないのは、残念であり、情けない、としか言いようがない。教会上層部に多くの愛読者を持つはずの朝日新聞や共同通信、NHKなどが21日までにデジタル版などで報道した「カトリック神父による性暴力被害者の会」の設立である。

*「被害者の会」設立は、教会の誠意を欠いた対応への苛立ちの表われ?

 司祭による性暴力を受けた被害者やその関係者たち約40人が参加して21日、長崎市で集会を開き、問題に対するカトリック教会の対応が不十分と判断、第三者委員会による調査、加害者の氏名公表、処分と被害者へのケア、補償を求め、「被害者に配慮した社会形成の一歩にする」ことを目的に「被害者の会」を発足させた。

 会の中心になった竹中勝美さんは、20年近く前から、自身が幼少期に受けた性的虐待被害について、加害者が属していた修道会や司教団の代表に調査と結果公表、責任の明確化を訴えてきた。だが、いっこうに進展がなく、一昨年に自身の名前を明らかにして、虐待の経緯を公表、昨年3月号の「文芸春秋」の調査報道記事に登場して責任ある対応を繰り返し求め、同年4月に東京で開かれた「虐待被害者の集い」でも、同様の訴えをした。

 この集いには、司教団の代表であるカトリック司教協議会の高見三明会長・大司教も参加し、「私たちが十分なことをできず、苦しい思いをさせていることを本当に申し訳ないと思っている」と竹中さんに謝罪、「世界で起きている様々な性的虐待に教会は立ち向かっていかねばならない。世論を高め、専門的な知識を結集して、改善に取り組みたい」と約束していた。

 21日の「カトリック神父による性暴力被害者の会」設立は、高見会長が「謝罪」し、具体的な対応を約束したにもかかわらず、目立った進展がみられず、ほとんど”空手形”に終わっていることに対する、深い失望と苛立ちの表われではなかろうか。

 

*「性的被害者のための祈りと償いの日」から一か月遅れた司教協議会会長名の調査結果公表

 「カトリック・あい」は、今年3月13日の日本のカトリック教会の「性虐待被害者のための祈りと償いの日」にあたって掲載した解説で、(司教団の)中央協議会のホームページをみても、国内16教区のうち9つの教区でミサや祈りの集いなど行事予定だけで、司教協議会から何のメッセージもないこと、昨年5月から司教協議会は始めた児童性的虐待の過去と現在の状況に関する調査の結果もいまだに明らかにされないこと、などを指摘し、教皇が世界の教会に強く求めている「聖職者による性的虐待に対する行動を伴った徹底的な反省と信頼回復」には程遠い実態を批判、反省を求めた。

 調査結果が高見会長名で公表されたのは、それから一か月後の4月7日、文書の日付だけは何故か、「3月13日、聖虐待被害者のための祈りと償いの日」となっていた。

 その内容を見ると、「本調査の目的は、日本の教会が未成年者への性虐待に関する対応についての実態を把握し、今後の対策を検討すること」としているものの、「教会という密接な関わりをもつ共同体の中での犯罪は、被害者が声を上げるのが難しく、「今回調査においての該当件数も、言葉にできた勇気ある被害者の数であり… 性虐待・性暴力全体の被害者の実数は把握しきれない」「事実確認の段階で被疑者が否認や黙秘をしている場合は、教区司教や頂上による謝罪で終わるなど、消極的な対応事例も少なくない」と言い訳のような表現が目立つ。

 

 

*未成年被害訴えは16件、加害否認5件、不明7件。対応は聖職停止2件、「異動」が8件

 そして、肝心の調査結果はと見ると、未成年性的虐待の被害訴えは16件。虐待を否認したものが5件、認めたものが4件、不明が7件。第三者委員会による調査が1件、教会裁判が一件だが、いずれも黙秘か否認。否認した5件のうち、3件には第三者委員会による対応がなされず、内部の対応にとどまった。肝心の処分は、聖職停止が2件に過ぎず、退会1件、日本内外への異動で済ましたのが8件。それ以外は不明、という。現在、加害の事実を否認して、訴えのあった教区で司牧を続けている者が2人もいる。

 

*「前任者からの引き継ぎ無し」「処分を守らない者がいる」「処分が軽く、真の回心、償いに結び付いていない」

 さらに、調査で明るみに出た問題として、「これまで2002年、2012年の調査の内容の事例に関し、当該教区すべてにおいて前任者からの引き継がされなかった」「(性的虐待に関して)処分中にもかかわらず、それを守らずに活動していた聖職がいた… 処分そのものが、制限を設けることや単なる有期的な制裁(活動停止など)にとどまっており、加害聖職者の真の回心や償いに結び付いていない」などが挙げられている。

 調査結果は「今後も、課題解決に向け、修道会・宣教会と協力して取り組み、教育機関、関連施設を含む教会内の性虐待・性暴力の根絶に向けて努力する」とあるが、以上のような内容を見る限り、さっぱり説得力がなく、誠意が見えない。真摯な反省も感じられず、被害者のケアを含めて、問題解決に、誠実に取り組んでいこうとする気概がうかがえない。このような消極的な姿勢を見せつけられては、いくら各教区に相談窓口を物理的に作ったところで、被害者が問題解決への希望と信頼を持って出向くことは考えられないだろう。

 21日の集会には、竹中さんのほか、仙台の看護婦の方からも、配偶者の暴力について相談した司祭から性的暴力を受けた経験が語られ、「真実を話すのはおぞましく、どうしていいか分からなかった」(共同通信)との訴えがあった。この言葉からも、教会の心無い対応へのいら立ちが感じられる。

 

*長崎教区の成人女性の被害訴えへの対応も具体的説明なく…

 この長崎市、高見大司教が教区長を務めるお膝元でも、未成年ではないが50代の女性の被害訴えが最近明らかになっている。

 昨年11月の教皇フランシスコ来日の直前、時事通信が「長崎県のカトリック信徒の女性が、司祭にわいせつな行為をされ、長崎教区に訴えた… 教区は司祭の職務を停止したが、信徒たちには『病気療養中』とだけ説明。女性は心身性ストレス障害(PTSD)で長期入院を余儀なくされた… この問題への見解、対応もいまだに公にされていない」と報じた。

 教皇離日後の27日に会見した長崎教区は、「大変深刻に受け止めている」とし、警察の捜査の推移も見ながら、状況に応じて発表や会見をする予定、と説明。問題の司祭は、強制わいせつ容疑で今年2月に長崎地検へ書類送検された後、4月16日、理由が明らかにされないまま、不起訴処分となった。だが、教区はNHKの取材に「不起訴になった経緯は把握していないし、捜査機関でもない教区で、これ以上の調査は出来ず、事実確認は難しい… (女性から相談があったのは事実で)女性と関係者におわびし、これからも誠実に対応したい… 司祭に対してはしかるべく対応する」と極めて形だけのあいまいな対応に終始したようだ。

 21日の集会には、この女性も登壇し、約17年にわたって家族ぐるみの付き合いをしていた司祭から一昨年5月に性被害を受け、PTSDを発症したこと、警察に被害届を出す際に、教区の司祭から、取り下げを求められたり、親身になって相談を聴いてくれた窓口の職員が教区事務局内部で非難されたこと、などを明らかにし、「教会は、加害神父を守っている。被害者の気持ちになって」と訴えた(朝日新聞)という。

 自らの教区で起きた問題に、日本の司教団のトップとして、聖職者による性的虐待への対応の模範となるような行為がなぜできないのか、首をかしげたくなるのは、筆者だけではないだろう。

 

*欧米などと桁違いの”少なさ”が安易な対応の原因か?新型ウイルスへの対応はどうなのか。

 聖職者による未成年を含めた信徒たちへの性的虐待と高位聖職者による隠ぺいの問題は、欧米を中心としたカトリック教会の信用に大きなダメージを与え続け、教会のミサに出る信徒の減少、賠償金を払いきれずに破産する教会の続出など、いまだに解決のめどが立っていない。たしかに、何千と言う被害者を出し、枢機卿などまで関与して裁判になる海の向こうの国々に比べれば、日本の被害は、確実なことは不明だが、桁違いに小さいのかもしれない。だが、それが、これまで見てきたような、誠意を欠いた、形ばかりの、安易な対応を、教会自らが容認する背景にあるとすれば、見当違いも甚だしい、と言わざるを得ない。

 このことは現在も終息の気配が見えない新型コロナウイルスの世界的大感染を連想させる。アメリカやブラジル、ロシア、そして欧州などの感染者、死者とくらべれば、日本は桁違いに少ない。だからといって、気を抜けば、第二波、第三波の感染爆発を招きかねず、安易な対応は許されないし、政府も自治体も、経済活動や雇用などへのダメージを最小限にとどめつつ、感染拡大防止の努力を具体的に続けている。

 聖職者による未成年性的虐待問題も、これまでのような対応を続けて行けば、教会の指導者たち、そして教会そのものの、信用失墜、困難に満ちた現代社会に希望と勇気の火をともす役割から遠ざかることになりかねない。

 今回の「カトリック神父による性暴力被害者の会」の設立は、そのための警鐘と受け止め、教会として、そして何よりも司教団として、信頼回復につながる誠実で具体的な取り組みのきっかけとすることを望む。”不都合な真実”は黙ってやり過ごす、これまで教会にありがちだった態度は、改めねばならない。

(「かとりっく・あい」南條俊二)

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【参考】NHK 長崎 6月22日放送

 

 カトリック教会の聖職者による性的虐待が国際的な問題となる中で、国内の被害を訴えようと21日、信者らが長崎市で集会を開き、被害者の会を設立しました。

 

集会は、自身も子どものときに被害に遭った東京都に住むカトリック信者の竹中勝美さんが呼びかけて開かれ、この中で、被害者の声をあげやすくするために「カトリック神父による性虐待を許さない会」を設立することを決めました。

集会には、おととし長崎市内の教会の施設内で、神父にむりやり体を触られたなどと被害を訴えた女性も参加し「トラウマでいつパニックになるかわからない状態です。教会にはもっと被害者の気持ちを考えてほしい」と訴えました。

カトリック教会の聖職者による性的虐待は国際的な問題となっていて、日本カトリック司教協議会の調査によりますと、国内では1950年代からことし2月末までに16件の被害が報告されているということです。

 集会を開いた竹中勝美さんは「次の被害者を出さないためには被害を訴えた信者の勇気ある行動を尊重してほしい。そして、被害者を決して排除しないでほしい」と話していました。今後、竹中さんたちは再発防止を求め、カトリック中央協議会に対し被害の実態調査を行うよう働きかけていくということです。

 

被害者の会を設立した、竹中さんは「宗教というのはその人の人生、生き方そのものでその指導者は絶対的な存在です。そうした立場の人から性的虐待を受けるというのは自分の存在そのものを否定されるようなものでなかなか声にできない」と指摘しました。そのうえで、「どのような職場、教会でも立場の差があるところには性的虐待のリスクは潜んでいる。そのときに、被害者の訴えに疑いを持つのではなく、勇気ある行動を尊敬し、次の被害者を出さないために排除しないようにしてほしい」と訴えました。

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2020年10月17日