(評論)教皇フランシスコが去った後も、聖職者の性的虐待が引き起こす教会の危機は続く(Crux)

(2025.4.25  Crux  Managing Editor  Charles Collins)

   カトリック教会の高位聖職者たちは、故教皇フランシスコの後継者が選出された後に、何よりもまず何に取り組むべきか、をすでに話し合っている。

 フランシスコの後継者を選ぶ枢機卿たちの課題のひとつは、数十年にわたる聖職者による性的虐待のスキャンダルと隠蔽が持たらし続けている教会の危機への対処だろう。

 ロサンゼルス大司教を引退したロジャー・マホニー枢機卿が25日に故教皇の棺の封印式に参加する、というニュースが驚きと衝撃をもって受け止められた理由のひとつはそこにある。

 89歳のマホニーは虐待スキャンダルで中心的な役割を演じた。2013年には虐待疑惑をもたれた司祭を他の教区に移させることで起訴を免れさせた、として非難された後、虐待を 「恐ろしい罪であり犯罪である 」とし、「私に託された子供たちや青少年を完全に保護することができなかった私自身の失敗」を認め、謝罪した。

 そして同年、後任のホセ・ゴメス大司教によって、特定の活動から締め出されたが、その直後にロサンゼルスの教会は、マホニーはまだ大司教区で「良好な地位」にあるとの声明を発表している。

 故教皇の埋葬におけるマホニーの役割が発表された後に大司教区が発表した声明は、そのようなことに全く触れていない。マホニーは最上級の 「枢機卿司祭 」であり、埋葬に参加する9人の枢機卿の一人でだ。(枢機卿には「枢機卿司教」「枢機卿司祭」「枢機卿助祭」の三つがある)。

 23日、ロサンゼルス大司教区はCNNに寄せた声明の中で、マホニー枢機卿の式典における公式な役割を「祝福」とし、「マホニー枢機卿は名誉大司教である。2011年にアンヘレス大司教を引退し、引退大司教として私たちの大司教区で聖職を続けてきた。彼は常に良好な状態にある 」と述べ、さらに、「マホニー枢機卿がローマで教皇の葬儀と新教皇の選挙に大司教区を代表して出席してくださることは幸いだ」と続けた。

 またマホニー枢機卿自身も、「このような特別な役割に選ばれたという知らせを受けたとき、私は驚き、光栄に思いました… 教皇フランシスコと私は長年にわたり特別な友情で結ばれており、私信を頻繁に交わしていた。神のサプライズは尽きることがないようで、ロサンゼルス大司教区出身者がこの役割に選ばれたことをうれしく思う」とし、「私たちの素晴らしい大司教区の重要性がまたひとつ示された。私は、ホセ・ゴメス大司教、補佐司教、司祭、助祭、奉献生活者、そして優れた信徒であるカトリック信者のリーダーシップの下、ロサンゼルスの素晴らしいカトリック共同体に感謝しながら、これらの役割を果たす。復活の主が私たち全員に祝福を与え続けてくださいますように」と付け加えた。

 

 だが、教会における虐待の被害者を擁護するために設立された団体にとって、マホニーの故教皇葬儀における役割は「祝福を与える」ものではない。「故教皇のための公的儀式に参加したことは、彼の恥であり、それを許した枢機卿団の恥だ」と「Bishop Accountability(司教に説明責任を求める会)」のアン・バレット・ドイル氏はロイター通信へのメッセージで強く批判。

 また、「司祭に虐待された人たちの被害者ネットワーク」の元理事、デイビッド・クロヘシー氏もロイター通信に、今回のことは「司祭の性的虐待に加担した司教たちに、『自分たちは、まだ仲間たちから守られ、尊敬される』というシグナルを送ることになる」と語った。

 バチカン当局は、マホニーが故教皇との 「特別な関係 」について言及し、 「個人的な手紙を頻繁に交換している 」と主張したことを正当だと評価しなかったに違いない。

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 マホニーをめぐる騒動は、ペルーのフアン・ルイス・チプリアーニ枢機卿が葬儀に参列する際にも起こっている。80歳を超えているため教皇選挙への参加資格はないが、「1983年に性的虐待を行った」という疑惑が持ち上がり、2019年にバチカンから制裁を受けたことが1月に明らかになった。チプリアーニ氏は「自分はいかなる時も虐待などしていない」と強く否定している。

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 だが、この2つのケースは、教皇フランシスコが聖職者の性的虐待問題に取り組んできた実績が、明らかに成功も失敗もさまざまあることに注意を喚起しているようだ。

 故教皇は、在位初期にバチカンに未成年者・弱者保護委員会を設置し、2019年には 「信者の信頼を裏切るこれらの犯罪を防止し、撲滅することを目的とした普遍的な手続き 」を確立するVos estis lux mundiを制定するなど、統治期間中に聖職者による虐待と闘うための最も強力な法律を施行した。

 反面、フランシスコは個人的なレベルでは、被害者の告発よりも、告発された聖職者(結局のところ、法王と顔を合わせる機会が多い)の抗議を優先することが多かった。

 2018年のチリでは、フェルナンド・カラディマ神父(チリの有力者で人気のある有名人神父だが、後に連続性的虐待で処罰された)による虐待を目撃したとされるフアン・バロス司教に対する告発に強く抵抗した。ただし、故教皇は、その後に、この件について謝罪している。

 アルゼンチンのグスターボ・オスカル・ザンチェッタ司教は、2013年にフランシスコが教皇に選ばれた後、最初に司教に任命した人物の一人だが、2017年夏、彼は 「健康上の問題 」を理由に身を引いた。その後、彼はバチカンの 「中央銀行 」である使徒座遺産管理局(APSA)の査定官に任命されたが、表向きは体調不良を理由に辞任する2年ほど前、2019年1月初旬に彼に対する正式な告発がバチカンに届く数年前から、性的不適切の疑惑が何度も持ち上がっていたことが判明した。故教皇は、告発を否定したザンチェッタを信じ、「疑わしきは(告発された者を)支持すべきだ」と述べていた。

 

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 最も悪名高いのは、いくつもの性犯罪で告発されたにもかかわらず、教皇からいくつかの仕事を与えられた、今は亡き元司祭で元枢機卿のセオドア・マキャリックだ。

 故教皇は、なすべき仕事を残した。教皇が亡くなった時点で、性的不祥事を起こした元イエズス会士の有名モザイク画家マルコ・ルプニック神父の裁判はまだ行われていない。ルプニックは、数十人の被害者(そのほとんどが女性修道者)を虐待したとして訴えられている。大規模な世界的批判と、安全な環境に関する教皇自身の指南役であるショーン・オマリー枢機卿からの直接の非難を受けて、故教皇は初めて、ルプニクを被告とする裁判の再開に同意した。

 それはほぼ1年半前のことで、イエズス会のアルトゥーロ・ソーサ総長は4月24日のローマでの記者会見で、フランシスコは「自分の限界、過ち、遅さを常に認めておられた。だが、虐待事件に関して、教会はフランシスコが教皇に選出された時と同じ状況にはないと思う。一直線には進んでいない……だが、教会は正しい方向に進んでいる」と述べた。

 だが、教会が前に進んでいる、と言っても、性的虐待問題は、次の教皇を待つ教会が直面する、主要な問題のひとつであり続けることに変わりはない。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2025年4月26日