(評論)教会における性的虐待危機の1年ー”有毒で伝染性の無関心”が蔓延していないか(LaCroix)

(2024.11.21  La Croix   Massimo Faggioli)

 

 時代の兆し。教会における性的虐待がもたらす危機は衰えることなく続き、驚くべきニュースが「新しい日常」となっている。保護対策の進展は見られるものの、 zero-tolerance policy(不適切な行為をいっさい容認しない対策)の実施や、虐待の深刻かつ継続的な影響の理解など、まだ多くの課題が達成できずに残されいる。

 教会における性的虐待危機の世界的かつ「包括的」な歴史において、最近で最も重要な報道のひとつが、先日、11月12日、カンタベリー大主教のジャスティン・ウェルビーによる突然の辞任発表だ。調査報告書で、1970年代と1980年代にジョン・スマイスが少年や青年に対して行った性的虐待への本人の対応の問題が公にされたためだ。カンタベリー大主教、全イングランド教会の最高指導者、英国貴族院議員、そして世界的な聖公会連盟の精神的指導者であるウェルビーの後任者探しは間もなく開始される。

 性的虐待問題に関するニュースが絶え間なく流れ、もはや教会活動において”日常化”していることから、私たちはこの件にほとんど注意を払わない。ここ12か月足らずの間にニュースとなった、カテゴリー別に分類したほんの一例、としか受け取られなくなっているのだ。

 

1. 最近明らかにされたカトリック以外の教会の性的虐待

 今年1月、ドイツ福音ルーテル教会(EKD)は、1946年以降の事例(報告書によると、1万件未満の非常に少ない件数)をまとめた独自の報告書を公表した。3月には、米国司法省が、南部バプテスト連盟の指導者たちが虐待の危機への対応を誤ったことについて刑事責任を問うかどうかを18か月にわたって調査し、最終的に、米国最大のプロテスタント宗派の指導者たちを告発しないことを決定した。

 6月25日、ロシア正教会の会議は、議題の78番目に、若い協力者に対する性的虐待疑惑と、2022年6月までモスクワ総主教の最も近いアドバイザーの一人であったブダペストおよびハンガリーの大主教、ヒラリオン・アルフェーエフによる財務汚職について議論した。アルフェエフは、ロシア正教会の教区の状況を調査する委員会の結論が出るまで、職務から一時的に外された。

 11月18日、米国長老教会(PCA)の最高裁判所は、ナッシュビルのイアン・シアーズ牧師を性的不品行の疑惑に関する懲戒処分とし、解任した。

 

2. 世界中のローマ・カトリック教会で今春以降も

 2月22日、オーストラリアで、ブルーム教区のクリストファー・サンダース司教が逮捕され、保釈された。彼は2008年から2014年の間に、主に先住民の若い男性に対して性的犯罪を犯した容疑で告発されていた。

 2024年3月、ベルギーのロジャー・ヴァンゲルー司教が甥の2人を含む未成年者に対する性的虐待を理由にバチカンから司祭職を解かれた、と報じられた。彼は数年の間隔を置いて、異なる時期にその事実を認めていた。

 4月30日、英ダーラム大学カトリック研究センターは「The Cross of the Moment」(イングランドとウェールズに関する)という報告書を公表した。

 6月14日、ワシントン・ポスト紙の報道を受け、米国カトリック司教協議会の全体会議において、高位聖職者たちは、カトリック教会が運営する「土着のカトリック教徒」のための寄宿学校における未成年者への虐待について謝罪した。

 10月、ロサンゼルス大司教区は、1,000件を超える数十年にわたる幼少期の性的虐待の訴えを和解させるため、8億8,000万ドルの暫定合意に達した。専門家によると、この和解金は大司教区による単一の支払額としては最高額であり、ロサンゼルスにおける性的虐待訴訟の累計支払額は15億ドルを超える。

 10月21日、教会における性的虐待の被害者に対する公式な謝罪と賠償が、マドリードのアルムデナ大聖堂のポーチコで行われた。この取り組みはマドリードのカトリック教会が推進したもので、イエズス会が主催した「第1回国際ヨルダン会議」の閉会式で、同教会の大司教ホセ・コボ枢機卿が発表した。この会議では、教会における権力の乱用に焦点が当てられた。

 

3. バチカンの聖職者による性的虐待への対応は

 1月30日、世界の聖職者による性的虐待問題を扱うはずのバチカン教理省は、「傷つきやすい成人」の定義に「18歳未満の未成年者以外にも、常習的に理性を不完全にしか使えない人々も含む、教理省の管轄範囲を超えるより広範な事例」を含めるよう強く主張した。したがって、これらの事例以外の他の事例は、管轄の省庁が対応する。教理省が管轄権を持つのは「未成年者に対する性的虐待(および精神障害者に対する虐待)のみ」であることを再確認するものだった。

 ローマのバチカンからすぐ近くの場所で、2月21日、BishopAccountability.orgの共同ディレクターであるアン・バレット・ドイルは、少なくとも20人から虐待の告発を受けている元イエズス会士で芸術家のマルコ・ルプニク神父の事件の隠蔽を非難する記者会見を行った。

 6月26日、教皇庁立未成年者保護委員会のショーン・オマリー枢機卿は、バチカン当局によるマルコ・ルプニク神父の作品の普及に関して、「司牧的思慮」を求める声明を発表した。この声明は、バチカン広報省のパオロ・ルッフィーニ長官が米国での記者会見で、バチカンメディアによるルプニク神父の画像の使用継続を擁護した数日後の発表となった。

 2024年7月、コロンブス騎士団はワシントンD.C.とコネチカット州ニューヘイブンにある礼拝所に展示されているルプニクによるモザイク画の展示について、「慎重かつ徹底的な見直しプロセスを完了した」と発表した。

 

 

4. 著名聖職者による不祥事も続々と明らかに

 2024年3月、慈善宿舎における虐待に関する学際的調査委員会(2023年に設置)の全委員が、教皇使節団との関係悪化により辞任した。

 7月17日に発表された報告書では、2007年に死去したカリスマ性のある司祭で、フランスで人気を博したアベ・ピエールを非難するカトリック女性が増えた。1949年にパリで設立された、貧困とホームレス問題に取り組むためのフランシスコ会修道士による国際連帯運動「エマオ国際」は、他の事件を記録するための調査活動を開始した。9月には、アベ・ピエールに対する新たな証言が17件寄せられた。

 その2日後の7月19日、聖職者評議会は、今後3年間にわたってフランスにある聖マルティヌス共同体内の改革を監督し、同共同体の亡き創設者であるジャン・フランソワ・ゲラン神父に対する精神的虐待の申し立てを調査する2人の使徒的補佐の任命を発表した。

 7月22日、AP通信の報道は、マルシアル・マシエル神父が創設した「キリストの軍団」の不祥事について、バチカンが1950年代からどれほど知っていたかについて、新たな光を投げかけた。

 9月25日、聖職者の性的虐待行為に関するマルタのチャールズ・シクルナ大司教とジョルディ・ベルトメウ司教による様々な調査を受け、ペルーの「Sodalicio de Vida Cristiana」のメンバー数名が教皇により追放されたことが、現地の教皇大使により発表された。

 10月、ソダリシィ内の虐待と金銭的腐敗に関する継続中の調査の一環として、バチカンは、教会と国家間の協定を悪用して税制上の優遇措置を得たことなど、性的虐待と金銭的腐敗の容疑で4人のメンバーを追放した。今年、物議を醸したこの運動から、創設者のルイス・フェルナンド・フィガリを含む合計15人のメンバーが追放された。

 11月11日、英国の新聞ガーディアンは、サンティアゴ・デ・コンポステーラ巡礼の旅の途中で性的暴行を受けた女性たちの記事を掲載した。

 11月に、バチカンが、教皇庁公認の団体である「ファミリー・オブ・メアリー」の共同創設者であるオーストリア人のゲプハルト・パウル・マリア・ジル神父を、「明白な性的不品行を伴わない精神的・心理的虐待の罪」で有罪としたことが明らかになった。

 

 

5. 教会と国家、宗教と政治の関係における虐待危機の影響に関する展開

 

 7月、ニュージーランドでは、児童養護施設(世俗および宗教系、カトリックおよび聖公会)における虐待に関する王立調査委員会が6年間の調査を経て報告書を公表した。

 11月12日、ニュージーランドのクリストファー・ルソン首相は、議会において、養護施設(国営および教会運営の両施設)で何十万人もの子供や弱者が虐待、拷問、放置などの被害に遭っていたことについて、「公式かつ無条件」の謝罪を行った。

 9月の教皇フランシスコベルギー訪問は、スキャンダルの余波と、教会および公共機関における長年にわたる虐待に対する教皇の準備不足の対応により、一部に影を落とした。

 9月初旬、アイルランド政府が、カトリック修道会が運営するアイルランドの学校における性的虐待について調査する委員会を設置したことが発表された。予備調査で、過去の虐待に関する2400件近い申し立てが発見されたためだ。

 11月17日、オーストラリアのジュリア・ギラード前首相は、ビクトリア州で起きた少年への性的虐待事件について、最高裁が「カトリック教会には法的責任はない」との判決を下したことを受け、司法長官に対し、児童虐待の生存者に正義をどのように実現するかについて早急に検討するよう求めた。

 11月18日、英国の自由民主党の党首は、同党ウェールズ支部の党首が英国国教会に勤務していた際の性的虐待事件への対応について、自身の立場を再考すべきだと述べた。

*性的虐待問題へ”危険な免疫”と”有毒で伝染性の無関心”が…

 

 この長くて多様なリストは、不完全であるがゆえに衝撃的であり、2024年も、ここ数年の状況と特に変わらない。私たちは、ほぼ毎日のように虐待危機に関するニュースを少量ずつ目にしているため、ある種の”危険な免疫”と、”有毒で伝染性のある新たな形の無関心”を身に付けてしまった。

 教会が拡大するネットワークと意識の中で防止と保護に取り組んでいるという点では、良いニュースもある。しかし、虐待の根深い問題や広がりを理解し、把握するには、まだ多くのことがなされねばならない。

 また、制度としての教会にも、まだ多くのことがなされる必要がある。

 ローマで11月18日に開催された記者会見「Ending Clergy Abuse(聖職者による虐待の終結)」では、被害者で構成される国際的なグループが参加したが、2022年に教皇の聖職者虐待委員会と意見が合わず辞任し、現在はローマの教皇庁立グレゴリアン大学の保護施設を統括するハンス・ゾルナー神父(イエズス会)は「虐待で有罪判決を受けた聖職者は必ず聖職から追放される」ようにzero-tolerance policy(不適切な行為をいっさい容認しない対策)を世界中のカトリック教会で実施するよう、教皇フランシスコに強く求めた。

 教皇フランシスコが主宰した2019年の性的虐待に関するサミットが、その後の世界の教会にどのような影響をもたらしたのかは、まだ明らかになっていない。この新たな「当たり前な」状況に対処するためには、カトリックの学術・研究分野への新たな投資も必要である。このトピックは、あと数週間後に始まる2025年の聖年が期待するムードにはそぐわないかも知れないが。

Massimo Faggioli @MassimoFaggioli

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

(注:LA CROIX internationalは、1883年に創刊された世界的に権威のある独立系のカトリック日刊紙LA CROIXのオンライン版。急激に変化する世界と教会の動きを適切な報道と解説で追い続けていることに定評があります。「カトリック・あい」は翻訳・転載の許可を得て、逐次、掲載していきます。原文はhttps://international.la-croix.comでご覧になれます。
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2024年11月22日