(2023.3.10 菊地大司教の日記)
3月10日、四旬節第二金曜日は「性虐待被害者のための祈りと償いの日」です。また12日の日曜日、教皇様の意向にあわせて、関口教会で午前10時の主日ミサを、私が司式します。
以下、二つの呼びかけ文を掲載します。すでに東京教区、ならびに中央協議会のホームページで、それぞれ公表されています。まず、今年の祈りと償いの日のためのに、2023年03月06日に発表した、東京教区の皆様への私からの呼びかけ文です。
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カトリック東京大司教区の皆様 2023年「性虐待被害者のための祈りと償いの日」にあたって
四旬節第二金曜日は、教皇様の意向に従って、日本の教会における「性虐待被害者のための祈りと償いの日」と定められています。今年は今週の金曜日、3月10日がこの日にあたります。東京教区では例年通り、この日に、または直後の四旬節第三主日に、教皇様の意向に合わせて祈りを捧げます。
コロナ禍の闇からやっと抜け出そうとしている今、世界はこの3年間で実質的にも精神的にも荒廃してしまったと感じます。神から与えられた賜物である命を徹底的に守り、その尊厳を守り高める務めが、私たちにはあります。世界各地で命に対する暴力は止むことなく、特にウクライナのような紛争地帯や長く内戦が続く地域では、今も多くの命が危機に直面しています。命の福音を宣べ伝える教会は、社会の中で率先して、命の大切さを説き、目に見える形でいのちの尊厳を高めていかなくてはなりません。
それにもかかわらず、教会がその使命を果たすことなく、あまつさえ、先頭に立つべき聖職者や霊的指導者が、その使命を放棄したかのように、命に対する暴力を働き、人間の尊厳をないがしろにした事例が、過去にさかのぼって、世界各地で多数報告されています。
教会は命を守るために発言し行動してきました。人間の尊厳を守り高めるために発言し、行動してきました。その尊い行動の意味を失わせるような選択をした聖職者や霊的指導者の存在を、残念に思います。命の尊厳を説くのであれば、私たちは人間の尊厳を真っ先に大切にして守り高めるものでなくてはなりません。
性虐待という人間の尊厳を辱め蹂躙し、被害者の方々に長期にわたる深い苦しみを生み出した聖職者や霊的指導者の行為を、心から謝罪いたします。
東京教区でも日本の司教団が定めているガイドラインを遵守し、こうした行為の報告があった時にはそれぞれの直接の上長が責任を持って対応するように努め、また指導し、さらに聖職者をはじめ教区全体で啓発活動にも努めていきたいと思います。
改めて、無関心や隠蔽も含め、私たち教会の罪を心から謝罪いたします。神の慈しみの手による癒やしによって、被害を受けられた方々が包まれますように、心から祈ります。同時に、私たち聖職者のためにもお祈りくださるようにお願いいたします。
カトリック東京大司教区 大司教 菊地功
日本の教会の「未成年者と弱い立場におかれている成人の保護のためのガイドライン」は以下の通りです。
【未成年者と弱い立場におかれている成人の保護のためのガイドライン】
はじめに
教皇ヨハネ・パウロ二世は2002年4月23日、米国の枢機卿と司教協議会代表にあてた声明で、子どもに対する性虐待は「いかなる基準によっても悪であり、社会から正当に罪悪と見なされるものであって、神の目には忌まわしい罪である」1と述べました。未成年者と弱い立場におかれている成人(以降、未成年者の表記に含める。)を守ることは、教会の使命の不可欠な事柄です。日本の司教協議会もこの使命を真摯に受けとめ、2002年以来、さまざまな形で取り組んできました2。わたしたちは、この歩みをさらに徹底するために本ガイドラインを作成し、日本の教会に委ねられている未成年者のいのちを守る使命を果たしていきます。
1.目的と適用範囲
本ガイドラインは、日本カトリック司教協議会の管轄する地域の教会活動において、未成年者の権利擁護ならびに保護を確かなものとするために、教会のあらゆるレベル──司教協議会、教区、奉献生活の会、使徒的生活の会など──における取り組みを促進するための方針を示したものである3。
本ガイドラインの運用により、教会が虐待や暴力のない安心・安全な居場所となるよう努力し、互いの尊重や思いやりに溢れた教会共同体を確立し、維持する。
本ガイドラインの実施において、未成年者の保護に関する教会法4ならびに日本の法令5を、厳密に遵守し、関連する教皇庁文書6、「児童の権利に関する条約」7に基づく保障を確実にしなければならない。
本ガイドラインの適用範囲は、日本のカトリック教会で宣教や司牧に携わるすべての人──教区、修道会・宣教会、神学校ならびにカトリック関連施設で奉仕する聖職者(司教、司祭、助祭)、修道者、職員、ボランティアを含む──である8。
2.用語の定義
- 虐待
本ガイドラインにおいて、「虐待」とは、未成年者に対する身体的虐待(殴る、蹴る、叩くなど。)、性虐待(後記(2)項で定義する。)、ネグレクト(家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にするなど。)および心理的虐待(言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱いなど。)をいう9。 - 性虐待
本ガイドラインにおける性虐待に関する定義は、教会法10ならびに教皇庁関連文書11を基本とする。
性虐待(性的搾取を含む。)は、未成年者に対して行われる神の十戒の第六戒に反する犯罪である12。具体的には、暴力または脅迫、権威の濫用により他者に性的行為を行うように、もしくは受けるように強要すること、合意のあるなしにかかわらず、未成年者と性的行為を行うこと、性的な意味をもった身体的接触、露出、自慰、児童ポルノ素材の制作・公開・所持・頒布、売買春への誘導、各種コミュニケーション手段を用いたものも含む性的な会話及び提案を行うことであり、加害者が聖職者や修道者である場合、より重大な犯罪として、教理省に留保される13。
このガイドラインにおいては、用語を以下のとおり定義する。
- 未成年者:18歳未満の全ての人または法律によってこれらの人と同等とみなされる人。
- 弱い立場におかれている成人:18歳以上の身体的、精神的な疾患や障がいによって、あるいは事実上、一時的であっても、理解したり、意思を表したり、侵害に対して抵抗することなどが制限されている個人の自由を欠く状態にある全ての人。
- 児童ポルノ素材:使用される手段(媒体)を問わず、現実または仮想上いずれかの明白な性的行為に関係している未成年者の表現、もしくはもっぱら性的な目的を有するあらゆる未成年者の性器に関する表現。
3.未成年者保護のための担当者
教区司教、修道会・宣教会の上長は、未成年者保護のための窓口となる担当者を任命しなければならない。この担当者は、未成年者の権利を尊重し、あらゆる虐待や搾取14の根絶に向けて配慮する共同体となるために、ガイドラインが適切に履行されるよう対処する。さらに担当者は、司牧活動に携わる人々の虐待に関する予防と研修を実施し、被害を訴える人とその家族を受け入れ支えるよう特別に配慮しなければならない。
4.適性判断と養成
- 聖職者、修道者ならびに志願者の召命の識別と養成
① 司教ならびに修道会・宣教会上長は「召命を正しく識別する」という責任を持っている15。召命を正しく識別し、志願者、聖職者、修道者を健全に人間的、霊的に養成するために、使徒的勧告『現代の司祭養成』で示された規定と教皇庁当該機関の指針に基づき、堅固な養成を継続的に行わなければならない16。
② 聖職者、修道者が、人事異動により他の教区へ派遣、または移籍する場合、該当者の経歴などの情報が、派遣先、移籍先の司教と完全に共有されなければならない。神学生、志願生も同様である。
③ 司牧者の選定は、適切な調査を通して、その適性が確認されなければならない。
④ 司牧者は、未成年者の性虐待、虐待、搾取の危険性について、またそれらの犯罪を特定し防止する方法について、適切な養成を受けなければならない。 - 教会ならびにカトリック関連施設の職員、奉仕者、ボランティアの人選と養成
① 司牧活動、教育機関、カトリック関連施設に携わる者の選定や雇用においては、適切な調査を通して、その適性が確認されなければならない。
② 司牧活動に携わる者、教育機関、カトリック関連施設の職員は、未成年者の性虐待、虐待、搾取の危険性について、またそれらの犯罪を特定し防止する方法について、適切な養成を受けなければならない。
③ 司牧活動に協力する者、奉仕者、ボランティアは、未成年者と関わる際の注意事項および禁止事項を知らなければならない。
5.意識啓発
- 未成年者の人権と尊厳を擁護し、虐待防止のための意識啓発、ならびに安全な居場所作りのために、教区や学校内での共同体教育への取り組みを実施しなければならない。
- 教区ならびに修道会、宣教会においては、特に日本カトリック司教協議会が定めた「聖職者による性虐待被害者のための祈りと償いの日」のミサ、その前後の行事を通して、虐待防止に向けて取り組まなければならない。
6.司牧活動での遵守事項
- 未成年者と関わる司牧活動では、未成年者の保護が優先される。したがって、その活動においては、司牧者は以下のことを守らなければならない。
- 慎重さと尊敬をもって接すること。
- 未成年者の模範となること。
- 未成年者といるときは、必ず第三者から見えるようにすること。
- 潜在的であったとしても、危険な行動が見られた場合は、担当者17に報告すること。
- 未成年者のプライバシーを尊重すること。
- 活動内容と取り決めについて、保護者に事前に通知すること。
- 電話やソーシャルネットワークなどを用いて未成年者とコミュニケーションをかわす際は、しかるべき注意を払うこと。
- 司牧者が未成年者に対して以下のことを行うことは、固く禁じられる。
- 体罰を科すこと。
- 特定の未成年者と優先的な関係をもつこと。
- 精神的あるいは身体的に危険となりうる状況に未成年者を置くこと。
- 不快な態度、不適切または性的なことを示唆する行動を取ること。
- 特定の個人やグループを差別すること。
- 未成年者に秘密を守るよう強いること。
- 特定の個人に贈り物をするなど、グループ内で差別化を図ること。
- 個人的な目的で、未成年者の写真や動画を撮影すること。
- 未成年者が特定できる画像を、ウェブやソーシャルネットワークなどで、保護者の同意なしに公開したり配布したりすること18。
- 司牧活動は、未成年者の年齢と発達段階に応じた場で行われなければならない。未成年者が目の届かない場所や危険なところに立ち入ったりとどまったりしないよう、司牧者は特別に注意を払う必要がある19。
- 未成年者間での不適切な行動やいじめには、たとえそれが犯罪を成立させるものでなかったとしても、公平かつ慎重に対処しなければならない。
7.保護者のインフォームド・コンセント20
- 未成年者が活動に参加する際には、保護者の同意が必須である。また、活動内容、責任者の名前と連絡先情報を、保護者に知らせなければならない。
- 未成年者の写真や動画の撮影、未成年者が写っている写真やビデオの公開、電話やソーシャルネットワークを通じて未成年者と直接連絡を取ること、そのいずれの場合も保護者の同意が必要である。
- 重要な個人情報を含む同意書は、慎重かつ厳重に保管されなければならない21。
8.性虐待、虐待の申し立ての取り扱い
- 宣教司牧に携わるすべての人22は、未成年者が性虐待、虐待の被害を受けたとの情報を得た場合、直接または担当者23を通して、当該責任者24に報告しなければならない25。また、当該被害者あるいは被害を受けたと思われる者が18歳未満の場合、法律に基づき、市町村、都道府県が設置する福祉事務所もしくは児童相談所に通告しなければならない26。
- 性虐待、虐待の被害を訴える者およびその家族は、受け入れられ、守られる権利を有する。適切な霊的支援、彼らの名誉とプライバシーおよび個人情報の保護を確実にしながら、教会共同体の責任者は、直接または担当者を通して、彼らの訴えに耳を傾け、被害を訴える者および関係者が精神的ケアや霊的同伴を受けられるよう配慮する。
- 支援者27は、虐待やその被害者への応対についての知識と経験があり、理解している信徒が望ましい。支援者は訴えの進行状況に関する情報を、被害を訴える者に提供し、適切な支援が受けられるように助言する。
- 被害を訴える者には、有益な法律情報をはじめ、急を要する治療や心理的支援を含む医療支援および社会的支援も提供されなければならない。
- 被疑者が聖職者、あるいは修道会・宣教会の会員である場合、担当者は直ちに責任者に報告しなければならない。責任者は、被害が起きた教区の司教に報告する義務がある。
- 未成年者への虐待の事例について教区司教は、教区対応委員会または修道会・宣教会の担当者に、報告書の作成を要請する。
- 訴えが事実に基づかないことが明白でない限り、事案が集結するまでの間、被害を訴えているものを保護し害が及ばないようにするため、責任者は自己の権限において、被疑者の活動を制限するなど、必要な措置を講じなければならない。
- 訴えに対応する過程で、以下のことが注意されなければならない。
- 直ちに適切な方法で、被害を訴えている者の証言を得ること。
- 被害を訴えている者を心身両面でサポートする適切な機関を紹介すること。
- 自ら、あるいは代理人を通して証言したり質問に答えたりすることも可能なことも含めて、被害を訴えている者に保証されている権利やその行使の方法を説明すること。
- 被害を訴えている者が望む場合、手続きの各段階の結果を知らせること。
- 被害を訴えている者に、弁護士や教会法の専門家の支援を利用するよう勧めること。
- 被害を訴えている者やその家族を、脅迫や報復から保護すること。
- 被害を訴えている者の名誉やプライバシーをはじめ、個人情報を保護すること。
- すべての関係者の精神的ケアに努めること。
- 予備調査、教会裁判等の手続きについては、教理省『聖職者による未成年者への性的虐待事例を扱う手続きにおけるいくつかの点に関する手引き書』28に準拠する。
- 被疑者の名誉を保護するため、無罪の推定がつねに保証されなければならない。これに反する重大な理由がない限り、被疑者は自身を守るため、告訴や告発について知らされなければならない。弁護士や教会法の専門家の支援を受けるよう勧められるべきであり、霊的、精神的支援も提供されなければならない。
- 調査の結果、犯罪が行われた可能性が高いと判断された場合、修道会・宣教会の上長は、当該教区29の司教に報告しなければならない。なお、教区司教、修道会・宣教会の上長は日本カトリック司教協議会会長ならびに教理省に報告しなければならない。無罪と判断された場合は、裁治権者は訴えを却下することを正式に指示し、調査内容とその結論に至った理由を記録する書類を、記録保管庫に保存しなければならない。
- 犯罪が繰り返されると信じるに足る理由がある場合、直ちに適切な予防措置を取らなければならない。
9.監査
日本カトリック司教協議会は、各教区における本ガイドラインの遵守状況を確認し、監査結果を公表する。
おわりに
教会における性虐待、性暴力を根絶できるかどうかは、司教や修道会責任者をはじめ、信徒を含む教会全体の強い責任感と意志にかかっています。
わたしたちは、今も苦しみの中にいる被害者への寄り添いを大切にするという姿勢を徹底しながら、キリストが望まれる教会共同体建設を目ざし、弱い者の側にたつキリストの生き方に徹底的に従う教会のあかしを目に見えるものにしていく努力をしなければなりません。
同時に、組織内だけで問題を解決しようとする内向きの姿勢を変えていくことも喫緊の課題です。そのためにはしかるべき情報を公開し、教会内外を問わず多くの人の意見に耳を傾け、その協力を仰いで、教会としての決断に反映させるシステムを作る必要があります。
以上の提言と私たちの決意を込めたこのガイドラインが、日本における「すべてのいのちを守るため」の教会と社会づくりに寄与する指針となることを願ってやみません。
*本ガイドラインは、2021年度定例司教総会において、日本カトリック管区長協議会および日本女子修道会総長管区長会代表の参加のもと、日本カトリック司教団により、2021年2月17日に承認された。