(2024.11.24 カトリック・あい)
カトリック信者の女性が「外国人司祭からの性被害を訴えたにもかかわらず適切な対応をとらなかった」として司祭(加害当時)が所属した修道会、神言会(日本管区本部・名古屋市)に損害賠償を求めた裁判の第6回口頭弁論は11月27日午後3時から東京地裁の第615法廷で行われる。終了後、隣接の弁護士会館で支援者集会が開かれる予定。
これまで5回にわたる口頭弁論で、 神言会側代理人弁護士は(神言会司祭だったヴァルガス・フロス・オスヴァルド・サビエルによる被害者への性的虐待行為について)あくまで、「否認」を貫こうとするばかりか、追加の準備書面に「虐待行為があったとする原告の主張は虚偽」と言明。途中から、ヴァルガスを「補助参加人」とし、その代理人弁護士2名が加わる3人体制で、原告代理人1人に対し、あくまで被告の性的虐待を認めず、「私的な事。修道会は関係しない」で押し通そうとしてきた。
被告側当事者である神言会の代表は裁判当初から今回に至るまで出廷せず、代理人弁護士のみの出廷が続き、誠実さを欠いた対応を続けているが、第6回口頭弁論で、どのような主張をするのか注目される。
【解説】神言会も加害者司祭(当時)もあくまで「性的虐待」を認めず、教皇やバチカンの意向も無視するのか
10月の前回の口頭弁論の後、原告代理人の秋田弁護士は、支援団体との会合で、被告の神言会側の代理人弁護士は「司祭としての立場で、『告解』を受けなければ知りえなかった(幼少期に受けた性的虐待によるトラウマでPTSDを患い続けているという)被害者の秘密を利用して、PTSD患者の弱点を使ってマインドコントロールをし、『救いの一環なんだ』とだまして性被害を加え続けた、という点はまさに司祭の犯罪」と強調。「今回の訴訟は、ある意味で、カトリックの教義の正当性、信仰生活の妥当性を問うものだ」と言明している。
原告被害者の田中さんは「ヴァルガスが所属していた修道会に打ち明ければ真摯に対応してくれる、加害司祭に罪を認めさせ、更生するようにしてくれる、と信じて神言会の日本管区の本部に訴えたところ、「神言会の責任で対応します」と返事しながら、いまだに何の対応もない… このような司祭や修道会が大手を振って歩くの目の当たりにせざるを得ないのは、『教会の危機』『信仰の危機』だと感じています。東京大司教の菊地功さんは知っているはずです。神言会の会員で、日本管区長でしたから。現在の管区長、事務局長の司祭も、3人が全員、こういう事を知っていて、代理人弁護士と打ち合わせをして、こういう事を主張しているのか、と思うと、本当に情けない」と苦しみを打ち明けている。
バチカンの未成年者・弱者保護委員会は10月29日、世界5大陸にまたがる教会に対する広範な調査報告書を発表した。その調査・分析結果によると、国や教区によって対応にバラつきがあり、特に、教皇が2019年5月に出された、虐待や暴力を届け出るための新しい手続きを定め、司教や修道会の長上らにとるべき態度を周知させる自発教令で指示された「虐待被害の報告体制や被害者に対するケアの体制」を欠いているところもある、と批判。
同委員会のトップ、オマリー枢機卿は記者会見で、「教会は『正義』について強い関心を持たねばならない」とし、被害者に対する『正義』がなければ『癒し』はない。ひどく不当な扱いを受け、傷つけられた人々は、『耳に心地良い言葉』を聞いたり、『文書』を見たりしたいわけではない。話を聴いてもらい、自分たちになされた悪に対して、『教会が償いをしようとしている』」と感じる権利がある」とし、まだ対応にバラつきのある世界中の教区に、そのための具体的取り組みを求めた。
教皇フランシスコも11月13日、バチカン未成年者・弱者保護委員会主催の「欧州のカトリック教会における保護」をテーマにした会合の約25カ国100人の司教、司祭、一般信徒の代表たちへのメッセージで、「正義、癒し、和解に対する教会の関心の表れとして、苦しみを抱えた人々に慰めと援助を提供する促進策」を立案、実施するよう促されている。
このような教皇やバチカンの委員会の要請にも、加害者とされるヴァルガスも、神言会も、聴く耳を持たないのだろうか。あくまで、被害者の訴えを否定し、自分たちが教会の信頼を失う原因を作っているという自覚も、被害者への思いやりもないまま、裁判を続けるのだろうか。
(「カトリック・あい」代表・南條俊二)