・米国のニューヨーク大司教、保険会社を「性的虐待の賠償の保険金支払い義務を怠っている」と訴え(Crux)

(2024.10.2 Crux  National Correspondent   John Lavenburg)

   ニューヨーク発=米国のカトリック・ ニューヨーク大司教区のティモシー・ドーラン大司教(枢機卿)が1日、記者会見し、同教区が長年契約している米大手保険会社 Chubbを、性的虐待の「補償請求を解決するための法的および道徳的な契約上の義務を回避しようと試みた」として訴えた、と発表した。

 会見で枢機卿は「すべての価値ある請求を迅速に解決することが、常に私たちの願いでした… しかし、Chubbは何十年にもわたって主要な保険会社として、私たちが20億ドル(約3000億円)以上の保険金の支払いを受けることを前提に多額の保険料を支払ってきたにもかかわらず、被害者生存者に平和と癒しをもたらす補償請求を解決するという法的および道徳的な契約上の義務を回避しようとしている」と批判した。

*保険会社は「大司教区は性的虐待の被害者への責任を我々に転嫁しようとしいる」と反論

 このような主張に対して、 Chubbは声明を発表。「問題の責任は児童性的虐待を容認してきた教区にある」と反論。「ニューヨーク大司教区は、何十年にもわたって横行する児童性的虐待を容認し、隠蔽してきた。そして、かなりの財源があるにもかかわらず、彼らはいまだに被害者への補償を拒否するどころか、自身の行動の責任を保険会社に転嫁しようとしている。しかも、保険金支払いに必要な『虐待について何を知っていたか』についての情報さえ、大司教区は提供しようとしていない」と指摘し、「そのうえ、彼らは莫大な富と隠された資産を隠してきた。これは、大司教区が責任を逸らし、隠蔽し、被害者への補償を回避するためのもう一つの財政的策略に過ぎない」と反論した。

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 ドーラン枢機卿が10月1日付けで教区の司祭、信徒に出した声明によると、「大司教区は、保険でカバーされない過去の性的虐待の400件以上の事件を、教区の和解・補償プログラムを通じて解決。州の2019年児童被害者法に対応して、さらに123件の事件を解決した」とする一方、「第二次世界大戦にさかのぼる虐待疑惑の事例が約1400件残っている… 被害申し立てのすべてが司祭に対するものではない。訴えの2つの最大のグループは、元ボランティアバスケットボールコーチと元用務員に対するものだ」と説明。

 また、「 Chubbは、大司教区と教区の保険契約者、そしてそのような保険契約が保護するための人々、つまり児童性的虐待の生存者を見捨てた」と主張し、「Chubbは、大司教区の虐待問題を解決する義務はないと言っている。その理由は、『虐待は教会によって予想された、または意図されたものだった』と説明しているが、私の前任者たち、テレンス・クック枢機卿やジョン・オコナー枢機卿のような人々が、子供たちを傷つける意図で行動した、あるいは少なくともそうなると予想して行動したというのは、誤った主張だ」と反論。

 「なぜ彼らはそのような虚偽の主張をするのか。その理由は簡単だ。自分たちの利益を守るため。彼らは現在、四半期ごとに20億ドルを稼いでいる… 彼らの明らかな計画は…法的に支払う責任が自社にあるにもかかわらず、支払いを拒否した虐待の損害賠償金を大司教区に支払うように強制することを意図し、保険金の支払いを出来る限り遅らせることだ」と批判している。

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*「大司教区本部を売却、”小さなオフィス”に移転など賠償資金捻出にも努力中」と

 訴訟の発表とともに、大司教区が聖職者の性的虐待事件に対する「莫大な」費用に対処するために「より少ない労力でより多くのことを行うための劇的な措置」を実施している、とのニュースも出てきている。ドーラン枢機卿は、「来年、大司教区本部は新しい小さなオフィスに移転し、現在の本部の敷地・建物を売却。売却収入は、虐待に対処する財政的負担を軽減するために使用する。大司教区が他の保有資産の売却を検討している」と説明。

 「私たちの財政力を維持、強化するために、今後、さらに多くの戦略と犠牲、そして大司教区と小教区と人々によるさらなる支援が必要になるだろう。だが、そうすることが私たちを破壊することはできないし、今後もそうするつもりはないので、安心してほしい。教区の聖職者たちと私は、皆さんの寛大さに触発され、感謝し続けている… そして、さらに深いところで、イエスはいつも私たちと共におられ、『地獄の門』の挑戦を受け続けても私たちを滅ぼすことはない、というイエスの約束がある。それが保険契約であり、彼の言葉であり、保険金の支払いも決して滞ることはない」と述べた。

 そして、教区の司祭、信徒への声明の最後に、大司教区がここ数十年の困難な時代を乗り越えてきたことを強調し、現在の困難も乗り越えることを保証したうえで次のように締めくくっている。

「身を縮めて隠れるな、我々はそうしない!恐れることはない!私たちは、23年前の9.11旅客機爆破テロ大惨事の後、全員がそうであったように、性的虐待被害者たちを補償し和解する決意を持ち続け、新型コロナ大感染の暗闇の中で奉仕したように、現在の状況の中にあっても、共に立ち、歩んでいく… この挑戦は、イエスの聖なる御名の無限の力に自信を持って頼る、という私たちの決意を強めるだろう。イエスと共にすれば、不可能なことは何もない。そして、イエス無しでは可能なものはない!」

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年10月5日