・性暴力の被害者が損害賠償求める裁判・第5回口頭弁論ー「告解」利用しPTSD患者を性的暴行した加害者が所属の神言会は「否認」どころか「虚偽」と

(2024.10.15  カトリック・あい)

 カトリック信者の女性が「外国人司祭からの性被害を訴えたにもかかわらず適切な対応をとらなかった」として司祭(加害当時)が所属していた修道会、神言会(日本管区本部・名古屋市)に損害賠償を求めた裁判の第5回口頭弁論が109日、東京地方裁判所第615法廷で、原告・田中時枝さん(東京教区信徒)の支援者たち約30人が傍聴席を埋める中で行われた。

 神言会側代理人弁護士は(神言会司祭だったヴァルガス・フロス・オスヴァルド・サビエルによる被害者への性的虐待行為を)は前回7月の第4回口頭弁論からバルガスを「補助参加人」としたうえ、その代理人弁護士2名が加わり、原告代理人1人に対し、3人体制で、あくまで、「否認」を貫こうとするばかりか、追加の準備書面に「虐待行為があったとする原告の主張は虚偽」という内容を入れている。

 被告側は、当事者である神言会の代表は裁判当初から今回に至るまで出廷せず、代理人弁護士のみの出廷が続いているが、第5回口頭弁論では、これまで担当してきた弁護士とは別の弁護士(一回限りの”ピンチヒッター”?)が出て、傍聴者たちには、これも誠実さを欠いた対応と見る向きもあった。

次回、第6回口頭弁論は11月27日午後3時から東京地裁の第615法廷で行われる予定。

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 10月9日の第5回口頭弁論の後、原告代理人の秋田弁護士は、田中さんの支援団体との会合で、被告の神言会側の代理人弁護士のこれまでの対応について、「あくまでもこの性的虐待事件を認めず、プライベートな話にしようとしている。今回も、『二人は好き合っていて、好きなことをしただけなので、そこから先は私たち修道会の関知するとこではない』と主張した。『私的なこと』でおしまいにしようとしているのです」と指摘。

 さらに、「司祭としての立場で、『告解』を受けなければ知りえなかった(幼少期に受けた性的虐待によるトラウマでPTSDを患い続けているという)被害者の秘密を利用して、PTSD患者の弱点を使ってマインドコントロールをし、『救いの一環なんだ』とだまして性被害を加え続けた、という点はまさに司祭の犯罪です」と強調。

 この訴訟は「ある意味で、カトリックの教義の正当性、信仰生活の妥当性を問うもの。必要ならバチカンに行って、教義上の告解の問題、それが悪用された時の対処法を尋ねてみたいし、告解の秘跡が悪用されたらどうなるか、ということをバチカンにも深く考えてもらいたい」と訴えた。

 また原告被害者の田中さんによると、加害者の神言会の司祭は、告解でPTSDであることを打ち明けたとき、喫茶店に呼び出し、「田中さん、付き合おう」と言われた。PTSDの患者が、”抵抗”できないことを知っていた。「私の告解で、幼い頃に受けた性的虐待を打ち明けた司祭3人のうち2人が『詳しい話を聞こう』といって、私を山の中に連れ込んでレイプをした… それなのに、『皆が大切にしている神父を私が誘惑した』かのように思い込まされ、自分を責めて責めて… そして、『性暴力は治療だ』と思い込んでしまった」。

 ヴァルガスの性暴力はエスカレートして、その最中の姿を大量に撮影することまでし、「もうやめて」「データを消して」と言っても、脅しの材料にされた。ヴァルガスが所属している修道会に打ち明ければ真摯に対応してくれる、加害司祭に罪を認めさせ、更生するようにしてくれる、と信じて神言会の日本管区の本部に訴えたところ、「三年間、神言会の責任で治療します」と同会の人権担当から返事があったが、いまだに何の対応もない。

 田中さんは「信じたことが全部、あだになりました。修道会も、そこに属する司祭も、自分たちに不利になることは『なかったこと』に出来る人たちです。それが罪だと思っていないのです」とし、「このような司祭や修道会が大手を振って歩く世界を目の当たりにせざるを得ない現状は、本当に『教会の危機』『信仰の危機』だと感じています」と訴えた。

 このような訴えを聞いていた、犯行当時の現地の教会の模様を知っている支援者は「ヴァルガスが犯行に及んだ時にいた長崎の西町教会には、ジョセフ・パサラと言うインド人司祭もいた。彼も性的な問題を起こして、退会になっている」としたうえで、「こういう事を、東京大司教の菊地功さんは知っているはずです。彼は神言会の会員で、日本管区長でしたから。今、管区長をしている司祭も、事務局長の司祭も、3人が全員、こういう事を知っていて、代理人弁護士と打ち合わせをして、こういう事を主張しているのか、と思うと、本当に情けない。あきれてしまって、もう何も言えません」と嘆いた。

 

(取材:「カトリック社会問題研究所編集部」諸田遼平、編集:「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年10月15日