(2024.10.30 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)
ローマ発 -教皇フランシスコの虐待防止監視機関、未成年者・弱者保護委員会(PCPM)のショーン・オマリー委員長はじめ委員たち29日、初の年次報告書発表にあたって会見し、「教会当局に苦情を申し立てた被害者たちが結果が出るまで長い間待たされていること」「被害に関する情報提供が不十分なのこと」が、被害者にとっての大きな懸念材料であり、被害者の中には、このような現状を 「再トラウマ化 」と批判する声もある、と指摘した。
記者会見に出席した、バチカンの未成年者・弱者保護委員会の委員で、チリの性的虐待被害者、フアン・カルロス・クルス氏は「(被害に関する教会の)透明性の問題は、個人的に経験し、自分にとって、非常に身近で大切なことです 」と語り、「多くの被害者にとって、教会から情報を提供されないことは、一種の『再トラウマ』。自分が虐待された事件がどう扱われたのか、どんな暗い穴の中に入ったのか、どこで情報を得られるのか、見当もつきません… 自分(が受けた性的虐待)の話を一億回しても、どこにも伝わらない、と感じることで、被害者たちは『再トラウマ』になってしますのです」と訴えた。
29日に発表された報告書は、被害者保護に関する世界の教区、教会の取り組みにはバラつきがあり、特にバチカンにおいて虐待事件処理のための透明性の向上と合理化されたプロセスが必要だ、と指摘している。会見で、米ボストン名誉大司教でPCPM会長のオマリー枢機卿は、「被害者が事件に関する情報を得ることが困難であることを、非常に心配している」と語った。
これは特に、聖職者による性的虐待事件を扱うバチカンの教理省(DDF)に苦情を寄せた被害者たちが指摘していることだ。DDFには苦情が滞留し、被害者は事件の状況について何も知らされないまま、何年も待たされることが多い。委員長は、DDFの対応は、文化や言語などの問題から、事件の発端となった現地の教会に情報を求めるのが一般的だが、報告書作成の過程で、「これがうまくいっていないことが分かった 」と述べた。
オマリー委員長によると、さまざまな解決策が提案されており、そのひとつに 「被害者とのコミュニケーションを増やす 」ことが挙げられる、という。委員会は、事件の処理にかかる時間の長さについても「非常に懸念している」とし、世界中の司教協議会から「より良い手続き」を求められている、と述べた。事件の処理が滞っていることの解決策としては、判断が明確なケースに対処する「地域裁判所」の設立が考えられるが、「これはすでにいくつかの国で採用されており、素晴らしいパイロット・プロジェクトになりうる」と期待を示した。
そして、「私の見る限り、それは必要な方法だ。DDFに持ち込まれる虐待事件の数は非常に多く、対応に窮することもある」とする一方、「民事裁判所の対応の問題もある。多くの事件がまず民事裁判所で裁かれるが、非常に時間がかかる」と指摘し、このように被害者が訴えも、判断を示される前に、「何年も待たされる人もいる… 正義の遅れは正義の否定 だ」と批判した。
また、オマリー委員長は、バチカンの関係部局の取り組みを合理化する必要性についても語り、「様々な部局が虐待事件に関して異なる責任を担わされているが、処理に関する専門知識が不足しているため、対応に窮し、振り回されている 」と指摘した。
会見に出席したボゴタの補佐司教でPCPMの幹事であるルイス・マヌエル・アリ・エレーラ司教は、「被害者の絶えることのない不満は、彼らの事案に関するコミュニケーション不足にある」とし、「こうした苦情は、バチカンだけでなく、世界各地の教区についても寄せられている」とし、これについてPCPMがDDFの規律部門と連絡を取り、被害者が事件に関する情報を得ることができるように助ける「調査官」を任命する方針が出されていることも明らかにした。
エレーラ氏はCruxの取材に対して、教皇が2016年に出された勅令『Come una madre amorevole』(司教が虐待事件の処理を怠った場合の手続き)や、2019年に発表された『Vos estis lux mundi』(教会内での虐待疑惑の報告義務)などの規範の実施状況もPCPMはフォローしており、「私たちが会う現地の教会は、『Vos Estis…』に対する理解と実行が一定のレベルに達している」との判断を示した。
さらに、PCPMが特に世界南部の教会に具体的な支援を提供するメモラーレ・イニシアチブを通じ、「良い実践を地方教会に提供するために多大な労力を費やしている」のはそのためだ、と説明。「透明性と情報がなければならない。私たちPCPMは、日々の業務においても、次回の報告書においても、この分野を注意深く追っていく」 と言明した。
またエレーラ司教は、「虐待予防と被害者保護に関する教会とバチカンの内部文化を変える戦いは困難だが、ゆっくりと前進している」とし、「PCPMのメンバーになって10年、自分が愛し、自分の人生を捧げてきた組織の抵抗を目の当たりにすることは、私にとって十字架だった。しかし、間違いなく、この数年間で多くの重要な変化も起きている」と語った。
性的虐待の被害者であるクルス氏も、「15年前に私の闘いが始まった時、そして他の人たちがもっと何年も何十年も闘い続けてきた時、私が優れた方々と性的虐待問題に取り組み、この記者会見席に座るとは、思ってもみなかった」とし、「被害者遺族から専門家、ジャーナリスト、教皇フランシスコに至るまで、保護活動の進展を後押ししてきたすべての人々に感謝し、より大きな安全と透明性に到達するための 重要な第一歩 であるこの報告書に、 多大な希望を抱いている」と述べた。
また、クルス氏はPCPMがDDFに組み入れられたことで、「当初は委員会の独立性が失われることを懸念したが、今では、その見方は大きく変わり、教理省内部ではこの問題が考えていたよりも真剣に受け止められていると感じている」とし、オマリー委員長も「委員会が、バチカンの部局に組み込まれることで恒久的な地位を得られたことは、非常に有益なこと」と語った。
委員長は、バチカンのさまざまな部局との関わりを、「まだ始まったばかりの ”スローダンス ”」と表現し、「これが進むことで、被害者の声が、もっと明確に、対応に反映されるようになると信じている」と述べ、「被害者への『賠償』は金銭だけでなく、教会の謝罪や加害者の処罰も含まれる… 今後の報告書では賠償の問題についても検討する」と言明した。
また、修道女や神学生など、成人に対する虐待の事例が増加していることから、「弱い立場にある成人」の定義をより明確にするための研究グループも設けられたことを明らかにした。
(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)