・フランスの故人の“聖人”神父が「数人の女性を性的虐待した」と本人が設立した福祉団体が報告書

(Photo by Studio Harcourt / CC BY 3.0)

(2024.7.18   La Croix  Matthieu Lasserre)

 フランスで社会的弱者への救済活動に尽力し、多くの人から敬愛されている故アベ・ピエール神父が、実は1970年代末から2005年にかけて7人の女性に性的虐待やセクハラを繰り返していた―同神父が創設した社会福祉団体「 Emmaus International」が17日発表した調査報告書で明らかにしたもので、他にも被害者がいるとみられ、”聖人”の裏の顔が明らかにされたことでフランスのカトリック教会や社会は衝撃を受けている。 Emmaus は、さらに被害者の証言を集めるため、被害者ホットライン(☎+33.1.89.96.01.53 (voicemail with callback) Eメール at emmaus@groupe-egae.fr.)を開設した。

 ”事件”の発端は、2023年6月に、フランスのある女性が、 Emmaus のリーダーに連絡を取り、未成年だった1970年代後半に、アンリ・グルエス(通称ピエール神父)から(性的虐待を含む)”深刻な行為”を受けたと告白したのが始めり。その3か月後、Emmausの代表者たちはその女性と面会して事情を聴いたうえで、フランスの性差別および性的暴力との戦いで主導的な役割を果たしているカロリーヌ・ドゥ・ハース氏が率いるエガエ社に調査を依頼、同社は2か月の作業と12回の関係者とのインタビューなどをもとに調査報告書をまとめ、Emmaus Internationalが7月17日に発表した。

 調査報告書では、 8ページにわたって、2007年に亡くなったピエール神父の被害者とされる7人からの証言の抜粋がまとめられている。匿名希望の彼女たちの証言で明らかにされた神父の問題行為は、1970年代後半から2005年までの約30年間にわたり、7人のうち6人の女性が性的暴行と判断される神父の行為、もう一人は、神父の性差別的な発言や不快な勧いについて語っている。

 証言した7人のうち1人は、「16歳から17歳にかけて、自分より50歳近く年上のピエール神父が、両親の招きで自宅を定期的に訪れた際、胸を何度も触られ、さらに1982年、成人となった自分がイタリア旅行から戻り、あいさつした際に、いきなり強引に(彼女の)口に舌を入れました」と述べ、さらに「1980年代後半に自宅に来た際には、神父から『一緒にベッドに入る』よう要求された」と語った。この件では、神父は存命中の2003年に、父親の前で謝罪した、という。

 ほかの女性の証言では、ピエール神父は「オフィス」「階段の下」「ホテルの部屋」など、人目に付きにくい場所と瞬間を利用して被害者に近づき、話をしている間に、”行為”に及ぶことが多く、ある女性は、「話をしている間に、私の左胸を愛撫し始めました… 1977年から1980年の間のことです。さらに 12年後に会った際には「あいさつをしようと手を伸ばした時、神父は私を窓の方に引っ張ろうとしました。私は『神父様、やめて』と繰り返し拒否し、彼は立ち去りました」と述べた。

 他の3人の女性は、1995年から2005年の間に、同意もしないのに胸を触られ、時には、それらの行為の後に、また会おうと誘われることもあり、「手紙を寄こしたり、電話をかけてきました。『あなたに会いたい』という内容です… 1、2か月後には、言ってこなくなりました」と1人の女性は説明した。

 また、この報告書は、ピエール神父は、自分の行動の違法性を自覚し、女性たちが断固として拒否したときに止めるべきタイミングを知っていた、とも書いているが、それでも、女性たちはこの神父の行動にショックを受けた。「私は自分を守ることに慣れています。でも相手は、神(の代理人)です。神があなたにそんなことをしたら、どうするでしょう?」とある女性は語っている。

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 ピエール神父は、第二次大戦中、ユダヤ人を保護し、レジスタンス組織に参加した元カプチン会の修道士だった。最も貧しく最も疎外された人々を助けることに生涯を捧げ、教会を超えて、多くのフランス人の間で幅広い名声を得た。1954年には厳冬の中でラジオ放送で「友よ、助けて!」と叫び、国民の支持を得て、多くのホームレスを凍死から救った。 その後、メディアの関心の対象から遠ざかっていたが、30年後、「新たな貧困層」、つまり不法移民の擁護者となり、「フランスのお気に入りの人物」に16回選ばれ、そのオーラは数十年にわたってフランス社会に付きまとった。

 Emmaus から調査を受託したエガエ社のドゥ・ハース氏は、そうした神父の名声が、彼が犯したとされる暴行事件についての沈黙を長引かせた理由について、「女性たちは、自分たちの証言が社会に与える影響を認識していました。そして、被告人がその献身によって評価され、崇拝さえされている場合、その同一人物が犯した行為を信じてもらうことの難しさを、われわれも認識している」と説明した。

 ただし、この報告書は、ピエール神父のいくつかの暗い部分が明らかにしたが、調査を被害者の証言を集めることに限定し、神父の(心身の)健康状態、教会での地位、当時の社会的地位に関する文脈などに踏み込んだ調査はなく、 「調査の狙いは、事件の性質を特定し、その範囲を推定することだった」とデ・ハース氏は述べた。

 また、主な関係者が亡くなっているため、女性たちの証言の“反証”をとることが困難であり、一部の証言は表面的なものにとどまり、事件の性質を完全には捉えていない。一方で、集められた証言は、ピエール神父が65歳の頃のものであり、今後のさらなる調査で、それ以前の問題行為が浮上する可能性が高い。

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 ピエール神父は、人生の終わりに、貞操の誓いを破ったことを認めた。2005年出版の本人のインタビュー集で、「私は性欲を経験し、その非常にまれな満足感を味わいました」と述べ、いくつかの伝記には、彼がメディアの有名人になったことで「一部の女性から崇拝されいた」ことが記されている。20年にわたって彼の知人だったピエール・ルネル氏はLa Croixに、「それはほとんど耐え難いものでした。女性たちは彼のカソックやベレー帽にキスをしました… しかし、20年間、彼が女性に対して不適切なジェスチャーをするのを見たことはありません。一度も!それでも、私は長期間、時には4、5年間、毎日彼を追いかけました!」と語った。

 1957年、痛みを伴うヘルニアを患い、思い病気で働きすぎだったピエール神父は、スイスの病院に入り、公式には「回復のため」にEmmausの指導者から外された、とされているが、歴史家アクセル・ブロディエ・ドリノ氏が2009年に書いた伝記によると、彼が解任された理由は、彼の「貞操違反」や「軽率な行動」、その他の「失態」が世間に知れ渡れば「スキャンダルになってしまう」という恐れからだった」と言い、仏国立科学研究センター(CNRS)の研究員アクセル・ブロディエ・ドリノ氏は、「彼は、女性に対して抑えきれない衝動を持っていました。相手の同意の問題が今のようにまったく理解されていなかったとしても、少数の人々はそのことを知っていました」と説明した。

 ある話は、神父の、以上で述べたことよりも”深刻な行為”をした可能性を示している。エガエ社が行ったインタビューで、ある人物が「1950年代か1960年代に”事件”を目撃した」ことを認めている。ピエール神父は女性とボートに乗っていて、「彼女に飛びかかった」というのだ。「それは彼の性格の一部でした。私たちは被害を最小限に抑えようとしました」と言う。

 Emmausのメンバーの間では、ピエール神父の”行動”は知られていた。「それは1回だけの”事件”ではありませんでした… エガエ社が面接したある人物が、そう言っています…』私たちは『彼が落ち着いた、(もう問題行動を)繰り返さない思っていました」、また「当時のEmmausの職員たちは、女性の場合、ピエール神父と2人きりで会わないように、指示されていた、と説明している」と報告書は述べている。

 

(翻訳「カトリック・あい」南條俊二)

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2024年7月19日