・「福音宣教の積極推進」「一般信徒の主導的役割」がバチカン改革の柱ー新使徒憲章が発効(Vatican News )

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(2022.6.6 Vatican News  Andrea Tornielli)

 バチカン改革に関する新使徒憲章「Praedicate Evangelium」が5日、発効し、教皇フランシスコが就任以来、一貫して取り組んできたバチカン改革が総仕上げの段階に入った。

 現在のバチカン改革は1967年のパウロ6世教皇の使徒憲章「Universi regimini Ecclesiae」に端を発し、聖ヨハネ・パウロ2世による1988年の「Pastor Bonus」に引き継がれたが、本格的な取り組みは、教皇フランシスコが就任してからだ。

 教皇フランシスコの新使徒憲章は、第二バチカン公会議の精神を受け継ぎ、福音宣教を最優先とすること、一般信徒の役割を高めること、が最重要の二つの柱になっている。

*これまで実施された改革

①財政・金融分野

 バチカン改革の成果としてまず挙げられるのは、財政・金融分野の制度改革だ。

 具体的には2014年の「経済評議会」の新設。その役割は、経済面の運営を監視し、管理・財政面の体制と活動について教皇庁の諸機関と指導監督すること。

教皇はこれに合わせて、教皇庁の部署として「財務事務局」を新設し、聖座とバチカン市国の行政・財務運営についての調整に当たらせることになった。従来は国務省が担当していた職員の人事管理も、同事務局に移された。

②広報、家庭、人間開発の分野の再編・統合

 翌2015年に行われたのが、広報体制の再編・強化。教皇庁の機関として、まず、「(Secretariat for Communication(広報事務局)」が新設された。さらに同事務局を中心に、これまで9つあった広報関連の組織を統合して「Dicastery for Communication(広報のための部署)」とし、2018年の人事で一般信徒を長官に据えた。

 次いで2016年には、信徒評議会と家庭評議会,、生命アカデミーを統合する形で「Dicastery for Laity, Family and Life (信徒・家庭・命の部署)」を設け、信徒使徒職と家庭司牧、そして人の命の保護を促進する役割を担わせた。

 同じ年に、正義と平和評議会、開発援助促進評議会、移住・移動者司牧評議会、保健従事者評議会の4組織を統合して「Dicastery for Promoting Integral Human Development(人間開発のための部署)」を設置、移民・難民や迫害を受けている人々、病人、犯罪で服役している人、失業者などの保護、支援する役割を担う。カリタス・インターナショナルも所管することになった。

 

⓷国務省と教理省の省内改革

 教皇は2017年には、これまで教皇庁の最重要機関とされてきた国務省の内部改革を実施した。これまでは、総務部門と諸外国との関係担当部門の二つで構成されていた同省に、外交関係職員の専門部門を設け、バチカンが世界に派遣する外交官を所管する部門の強化を図った。

 また2022年2月には、教皇が自発教令によって、教理省の内部改革も行われた。具体的には、教理部門と、聖職者による性的虐待問題への対処などをより速やかに、適切にするための調査・処分などを担当する部門を、明確に分離し、それぞれに担当次官を置くことになった。ただし、2人の次官は、就任段階でいずれも司教に任命されていない。

*新使徒憲章で改革の仕上げに入る

 今年3月19日に教皇が公布した新使徒憲章は、以上のような既に実施された内容に、新たに実施しようとする以下の内容を合わせた、バチカン改革の全体像を示している。

①教皇庁の筆頭機関として、教皇がトップの「福音宣教の部署」の誕生

 これまで教皇が取り組んできたバチカン改革の仕上げとして最も重要なのは、従来の国務省や教理省に代わって、教皇庁の筆頭機関を、福音宣教の担当部署とすることだ。同部署は、現在の福音宣教省と新福音化推進評議会を再編・統合するもので、このことは、教皇フランシスコが最も力を入れようとしているのが福音宣教にあることを示している。

 それは、この新しい部署のトップに教皇自身が就く、とされていることに、最もよく表されている、といえるだろう。長官となる教皇を補佐する役割は2人の長官代理が担い、世界の福音宣教の基本問題を担当する分野、新規の福音宣教と”新しい”諸教会を担当する分野をそれぞれ受け持つ。

②「文化・教育の部署」の新設

 次に注目されるのは、現在の教育省と文化評議会を統合して「文化・教育の部署」とするものだ。それぞれの機関にはそれぞれ長官、議長が置かれていたが、当然ながら新部署のトップは一人の長官となる。

⓷注目される名称変更と昇格

 ふたつの機関が、名称変更と共に”昇格”となったことも、関心がもたれている。

 一つは、これまで”関連機関”の位置づけだった教皇慈善活動室が、「慈善奉仕のための部署」に昇格することだ。これは、関係者の間で”予想外の改革”と受け止められている。

 また、これまではバチカンの機関とは別の位置づけだったシノドスを担当する「General Secretariat of the Synod of Bishops」が「General Secretariat of the Synod」となり、担当する対象が拡大されることになった、と見られることだ。

④各部署のトップは枢機卿であることを要しない

 新憲章で機構改革とは別の面で注目されるのが、各部署の大半のトップは、これまでのように枢機卿であることが条件とされなくなることだ。新憲章で、トップが枢機卿とされているのは教皇空位機関管理局の長であるカルメレンゴ以外では、二つの部署トップー最高裁判所長官と経済評議会の議長のみだ。

 また教皇庁における聖職者、修道者のポストの任期は5年とし、一回だけ再任を可能とすること、バチカンと現地教会との人事交流の活発化も、教皇フランシスコのこれまでの取り組みで確立している。。

 

⑤一般信徒の果たす役割の重視

 最後に新憲章では、今後のカトリック教会の発展にとって大きな意味を持つと思われる内容が明記されている。

 それは新憲章の前文で教皇が「すべてのキリスト教徒は、洗礼によって、イエス・キリストにおいて神の愛を受け、福音宣教する使徒である」とし、バチカンの諸部署の管理・運営の責任あるポストへの一般信徒の参加を明示していることだ。

 「一般信徒が、特定の能力により、管理・運営など特定の権限を与えられ、部署や機関の管理・運営を担うことができる」とすれば、「それは、教皇庁のすべての機関が教皇によって彼らに委ねられる権能によって動くことによる」とされている。

(翻訳・編集「カトリック・あい」南條俊二)

 

 

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2022年6月6日