(2022.3.19 Crux Senior Correspondent Elise Ann Allen)
ROME –教皇フランシスコの教会についてのビジョンを教皇庁の組織改革に体現する新使徒憲章「Praedicate evangelium(Preach the Gospel・仮訳=福音を宣べ伝えよ)」が19日発表された。
フランシスコの教皇就任以来9年間の作業の成果である54ページの使徒的憲章は、昨年完成していたが、公布がこれまで遅れ、公布についての事前予告なし、解説なしのまま、週末土曜日の19日に、使徒憲章全文がイタリア語版のみで発表された。バチカンでの記者会見は、日曜日を挟んで21日、月曜日に予定されている。
だが、新憲章の内容そのものは、教皇庁における主要ポストを女性を含む洗礼を受けたあらゆる信徒に開放するなど、画期的な内容を含むものとして、マスコミに好意的に受け止められている。
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教皇庁改革の具体的内容としてまず特筆すべきは、教皇が専管する新しい部署として、「福音宣教」と「慈善活動」のそれぞれを関連の機関と再編、“メガ官庁”として生まれ変わらせたことだ。
教皇庁の幹部の任期も厳格化し、教皇庁で職務に就く前に、一定のレベルの司牧経験を積んでおくことを条件とすることも、注目される。
また、教皇庁と国および地域レベルの司教協議会の関係を重視し、教皇庁の部門ごと、また部門間の定期会議の開催も義務づけた。
*洗礼を受けた者はすべて「福音宣教の使徒」
教皇フランシスコによる教皇庁改革の当初からのキャッチフレーズは、福音宣教、地方分権化、そして使徒的精神だった。教皇庁を内向きの組織ではなく、世界の現地の教会が置かれた現実の中で、人々に寄り添い、福音を宣べ伝える、開かれた、外向きの組織への変革を目指した。
こうした改革の精神は、新憲章の前文で、「福音宣教は、主イエスが使徒たちに委ねられた任務であり、それゆえ、無条件で受け取った慈しみを、言葉と行いで証しするとき、教会はその任務を全うする」という表現で表されている。
教皇庁改革は、「教皇庁の日々の活動を、教会が特に今、経験している福音宣教の道とよりよく調和」させるのためのものであり、教皇がしばしば繰り返されてきたように、新憲章は、「真の改革は、何よりも『内的改革』ー個人的な回心を基礎に置いたもの」とし、福音宣教と特に教皇庁の各部門と現地の教会の交わりの結びつきの重要性を指摘。
それは、国や地域レベルの司教協議会との「有機的な関係」を維持することで、地方教会と密接に結びついた教皇庁を想定し、「教皇庁は、自身を教皇と司教たちの間に置くのでなく、教皇と司教のそれぞれの本質的役割に適した仕方で、それぞれに仕えることに置く」と新憲章は述べている。
教皇にとって、このビジョンを達成する方法はsynodality(共働性)であり、バチカンと教会全体が「互いに耳を傾け、そうすることで互いに学ぶ」者となることができる、としている。
*バチカンの指導的な部署も含め、一般信徒の場を増やす
教皇庁の組織、機関が削減される中で、関係者が最も注目するのは、指導的な地位も含めて、一般信徒の場を増やす決断を、教皇がしたことだ。新憲章は、「教皇、司教、および他の叙階された聖職者だけが教会における宣教者ではない」と言明し、教皇庁改革によって、「統治と責任あるポストについても、一般信徒に関与させる必要がある」と述べた。
新憲章は、一般信徒の参加と貢献は「不可欠」とし、教皇が適任と判断し、任命するのであれば、「いかなる信徒も、教皇庁の部門や組織の長となることができる」と明言した。
バチカンの幹部レベルのポストが一般信徒にとって魅力あるものかどうかは、まだ分からない。というのは、バチカン職員の給与水準が、とくに扶養家族のいる者にとって低いのはよく知られたことであり、父親の育児休暇も最近になって1日から3日に”改善”されるなど、雇用条件に問題があるからだ。
新憲章に書かれている主要な組織改革の中には、既に実施されているものもある。例えば、「信徒・家庭・命の部署」や「人間開発のための部署」は、共通した役割を持いくつかの部門を再編統合する形で既に活動している。
*再編統合で教皇直轄の「福音宣教の部署」
新たな組織改革で最も注目されるのは、ルイス・タグレ枢機卿が率いる福音宣教省と、サルバトーレ・フィジケッラ大司教の新福音化推進評議会を統合して「福音宣教の部署」とすることだ。そして、この新部署は、教皇直轄の体制となる。教皇が、移住・移動者司牧評議会は正義と平和評議会など4つの組織を「人間開発の部署」に再編統合した際には、移民・難民部門を教皇が監督すると発表、それは一時的なものとされていたが、期限はなく、現在も教皇が監督している。新憲章は、移民・難民部門の責任体制について明言していない。
また、「福音宣教の部署」は二つの部門で構成され、一つは「世界の福音宣教の基本問題」、もう一つは「最初の福音宣教と適当な領域における新たな特定の教会」に責任を持つものとしている。教皇が新たにトップを任命しない限り、タグレ枢機卿とフィジケッラ大司教それぞれが、二つも部門のいずれかの長を務める可能性がある。
*機能強化される「慈善事業の部署」
「慈善事業の部署」も、現在の教皇慈善活動室を拡大、強化する形で創設される。現在の室長であるコンラート・クライェフスキ枢機卿が長としての職務を引き継ぐ可能性がある。役割について、新憲章は「慈善事業は慈悲の特別な表現であり、貧しい人々、弱い立場にある人々、排除された人々に対する支援を第一に、世界のあらゆる場所で支援事業を行い、教皇は、特定の貧困者支援やその他必要とされる場合、割り当てられた援助を個人として配分する」と定めた。
新憲章では、今回新たに誕生するものの含めて、「dicastery(部署)」と呼称される上位3部門は、「福音宣教の部署」「教理の部署」「慈善事業の部署」の順で書かれている。他のほとんどの部門はこれまで通りだ。
もう1つの重要な改革は、「未成年者保護のための教皇庁委員会」を、独立した組織、権限のまま、「教理の部署」の中に組み込むことだ。これまで、委員会の位置づけは、教皇省関係者の間で低く見なされ、提言を出しても、他の部署や関係者から抵抗に遭ったり、実施が妨げられたりしたことがある。今回の改革で、委員会の提言や発言が、従来よりも重く受け止められ、未成年者保護の推進により大きな効果が期待できる、との見方も出ている。
*巨額損失発生などに責任の国務省は手が付かず…
変更されないことの1つは、新憲章で「教皇の秘書役」と定義されている国務省が、教皇庁内で大きな力を持ち続けることになる、ということだ。国務省が絡んだ最近の不動産投資での巨額損失発生事件などから、国務省から財務・金融の管理・監督の役割を取り上げるのではないか、という観測もあった。